コラム
【THE ICE 2017】“浅田真央トリビュート”アイスショー全出演者レビュー
2007年に始まった真夏の恒例アイスショー『THE ICE』の2017年公演が大阪(7月29~31日・大阪市中央体育館)と名古屋(8月4〜6日・愛知県体育館)で行われた。今年はメインキャストである浅田真央が競技引退後初めて演技を披露するということで、大きな注目を浴びた。過去10回様々な工夫を凝らした内容で楽しませてくれたTHE ICEだが、11回目の本公演は異例の丸ごと“浅田真央トリビュート”だった。
バレエのバーレッスンやリンクでのウォーミングアップの様子を再現したオープニングは、ファンの見たいものを常にそれ以上の形で表現してきたTHE ICEらしい演出。ウォーミングアップを終えたスケーターたちが衣装を身に着けて再び登場して見せるのは、浅田真央の最後の競技プログラム『リチュアルダンス』の群舞バージョン。最後は全員が円になり、まさに情熱的な『火祭りの踊り(邦題)』の世界が表現されていた。
第1部のエキシビションは浅田舞の映画『ブラック・スワン』でスタート。これまでの浅田舞のスケートは、現役時代のバレエ『白鳥の湖(チャイコフスキー)』のような優雅で儚いイメージだったが、芸能活動や舞台、ショーの経験を経て、力強さや表現することへの自信が感じられる、新境地開拓のプログラムだった。
続いて、久しぶりに氷上に戻ってきた小塚崇彦が、懐かしのプログラム『ラストダンスは私に(by The Drifters)』をおなじみのセーター姿で、以前より少し大人っぽく演じた。
アメリカの長洲未来は今季の新しいSP(ショート)『夜想曲第20番(ショパン)』を披露し、冒頭で3アクセルを見事に着氷。演技終了後の多くのスタンディングオベーションは、今季の活躍に対する激励のようだった。
同じく今季のSP『Too Close(by Alex Clare)』を披露した無良崇人も、代名詞の豪快な3アクセルを綺麗に決めた。狭いアイスショーの会場には収まりきらない大きな演技と大きなジャンプ。五輪シーズン開始に向けて、仕上がりは上々のようだ。
すでにプロスケーターとして数々のショーに出演している村上佳菜子は、ここだけでしか見られない、浅田真央と2人で旅行中に作ったというコラボプログラム『旅人(by 加藤ミリヤ)』を可愛らしく演じた。大阪公演のみの出演のため、最終日には終始涙を流しながらの演技となった。幼い頃から常にスケート生活を共にしてきた2人の人生の節目がよく表現されているプログラムで、とても温かい気持ちになった。
第1部の最後は、浅田真央スペシャルメドレー。各スケーターが浅田真央のこれまでのプログラム使用曲を滑る演目で、同じ曲を使用したことのある者は自身の振付を久しぶりに再演した。
カナダ男子世界王者ジェフリー・バトルは2004-05シーズンの『鐘(ラフマニノフ)』を、髙橋大輔は2005-06シーズンの『ピアノ協奏曲第2番(ラフマニノフ)』を、共に10年以上ぶりに披露。それぞれスケーターとしての成長を大いに感じる、とても貴重な演技で、これもTHE ICEならではだ。
その他、ロシア女子ソチ五輪金メダリストのアデリナ・ソトニコワが、浅田の『シェヘラザード』と同じくタチアナ・タラソワが振り付けたジュニア時代の『シェヘラザード』をアレンジして演じた。
では、宇野昌磨と鈴木明子のどちらがあの曲を?と想像した人も多かったかもしれないが、答えは2人連続の絶妙な転調で繋がれた『ヴァイオリンと管弦楽のためのファンタジア』だった。短調バージョンの宇野が、美しい旋律に乗せた苦悩や悲哀の表現で観客を惹きつけたところに、ピンクの衣装で妖精のように優雅に舞う鈴木の長調バージョンへバトンタッチ。日本が誇る2人の表現者の世代を超えた共演は、一見の価値がある。
軽やかに舞いながら去っていく鈴木と入れ替わりで登場したカナダアイスダンスのウィーバー/ポジェ組は、『Sing Sing Sing』を息ぴったりの小芝居混じりに演じ、思わずこれは過去に滑っていたプログラムかと思うほどだった。
観客の期待通り名作『愛の夢』を見せてくれたのは、中国ペアバンクーバー五輪銀メダリストのパン/トン組。この曲を滑った2010-11シーズン当時はまだ若く、アクロバティックな演技が印象的だった2人だが、夫婦となった今の『愛の夢』はとにかくうっとりと甘く美しい世界だった。
小塚崇彦はバンクーバー五輪シーズンのFS(フリー)『鐘』のステップを完全にコピーして見せ、会場を湧かせた。演技後は、浅田が優勝した2010年世界選手権トリノ大会で思わず出た男前なガッツポーズまで再現した。メドレーの最後は浅田真央本人による『リチュアルダンス』。現役最後のプログラムで締めくくった。
第2部は中国のアイスショーやセレモニーではお馴染みの、黒竜江省雑技団によるパフォーマンスでスタート。初めて目にするアクロバティックな技の数々に、悲鳴や感嘆の声をあげる観客も多く、大いに盛り上がった。ブレード付きの竹馬で登場する女性陣は、技術もスタイルも抜群の美女軍団で、中国スケーターの層の厚さがうかがえる。
エキシビションパートでは、織田信成が4トゥループを含む完成度の高いプログラムを演じ、「五輪に出られるのでは?」との声が聞こえたり、髙橋大輔はさすがのオーラと表現力でアリーナ席のいたるところで黄色い声援を浴びた。常に切磋琢磨し男子シングルを牽引してきた2人が、素晴らしいプロスケーターとして共演している姿に胸が熱くなる。
また、怪我で昨季途中から休養していた宮原知子が久しぶりに登場し、今季の新SP映画『SAYURI』を披露。ジャンプの調子はまだこれからというところだが、全日本女王らしい貫禄の滑りを見せた(練習中の捻挫により名古屋公演は欠場)。
最後に登場した浅田真央は、このショーのために作った2つのプログラムを滑った。1作目はラフマニノフの『エレジー ~スイートメランコリー~』。2度の五輪で演じたラフマニノフの曲を、プロ初の作品にも選んだ。過去2作はタチアナ・タラソワによる選曲・振付だったが、今作はローリー・ニコルの振付だ。浅田真央×ラフマニノフもニコルが作るとやはり全く違うイメージの作品となった。悲しさや気だるさ、内面の弱さ強さ、孤独と決意、様々な表情が垣間見えた。
続いて真っ白な衣装で再登場した2作目は『Wind Beneath My Wings(by Lara Fabian)』。共に歩んできた人への感謝の気持ちを綴った歌詞に合わせて、会場のモニターには家族、歴代コーチ、スタッフ、そしてファンへの感謝の言葉が映し出された。まさにこのショーのハイライトだ。締めくくりの一作と、感謝の一作、二つのプログラムがセットで今の浅田真央の心情を表しているように感じた。
THE ICE名物大コラボ祭のフィナーレも、今年は全て真央メドレーとなった。『I Got Rhythm』、オペラ『カルメン』、『踊るリッツの夜』、『チャルダッシュ』。そして浅田真央とバトルが2人でオペラ『蝶々夫人』を映画や舞台さながらに演じた。
最後はミュージカル映画『メリー・ポピンズ』に合わせて出演者全員が登場し、大円団で幕を下ろした。
本公演は当初“プロスケーター浅田真央”の開幕と思われていたが、蓋を開けてみると、“選手浅田真央”の閉幕を盛大に祝うセレモニーだった。浅田真央の最後の試合は2016年の全日本選手権だったが、これが最後の演技だと思って見ていた人はほとんど居なかっただろう。だからこそこの盛大な引退セレモニーで選手生活を浅田らしく締めくくったのではないかと思う。
このツアーを終えて一段落し、新たに何かを作り始めた時こそが、プロスケーター浅田真央の幕開けかもしれない。そう思うとまだまだ楽しみは尽きない。
文:Pigeon Post 山内純子
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