【四大陸選手権】女子レビュー/逆境をはねのけた紀平が価値ある優勝!ミスに泣いた坂本は連覇を逃す
フィギュアスケートは、最後まで何が起きるか分からない。
ショートプログラムではミスのない力強い演技をしたブレイディ・テネルが首位、伸びやかなスケーティングで魅了したマライア・ベルが3位につけ、アメリカ勢が地元の大会でいいスタートを切る。一方日本人選手ではディフェンディングチャンピオンの坂本花織が2位発進し、ほぼ完璧な滑りで全日本女王の実力を示した。現地の練習で左手薬指を亜脱臼するアクシデントに見舞われた紀平は、それでも果敢に3アクセルに挑んだが1回転になり、無得点のジャンプになってしまった。しかしそれでも5位につけたことは、3アクセル以外の要素も高いレベルにあることを示すものだ。一昨年この大会を制している三原舞依は、冒頭の3ルッツ+3トウループが重度の回転不足と判定されたことが影響し、8位と出遅れる。
しかしフリー終了後、表彰台にはショートの上位3名は誰も残っていなかった。最終滑走で登場した坂本は、予定していた2アクセルからの3連続ジャンプが単発の1アクセルになってしまったことが影響し、総合4位となり連覇を逃す。
フリーの最終グループに残れなかった三原は、ショートの失敗から気持ちを切り替えて完璧な演技を見せた。昨季から滑っている『ガブリエルのオーボエ』は、三原の爽やかな滑りが堪能できるプログラムだ。観る者の琴線に触れる素晴らしい滑りで3位に入り、3年連続でこの大会の表彰台に乗った。
2位になったのは、ショート6位のエリザベート・トゥルシンバエワ。冒頭で挑んだ4回転サルコウでは転倒したものの認定され、果敢なチャレンジが実った。今季からトップのロシア女子が多く師事するエテリ・トゥトベリーゼコーチの下で練習しており、ジュニア女子が4回転を当たり前のように跳ぶ環境が、大技に挑む意欲を刺激しているのかもしれない。
優勝したのは、演技冒頭の3アクセルを見事に決めた紀平だった。完璧に準備を整えて演技に臨もうとする紀平が、指の負傷というマイナス要因を乗り越えて遂げたこの優勝には、大きな意味がある。チャンピオンとしてインタビューに臨んだ紀平は「あまりショートがいい演技ではなかったのですが、その悪かったところといいところを生かして、フリーのことだけを考えて『今までやってきたことを信じて頑張るのみ』と思ったので、集中し切れていてよかった」と振り返った。武器である3アクセルを1本のみに抑えた冷静な判断も勝因といえるが、強みが3アクセルだけではないことは紀平自身もよく分かっているようだ。
「3アクセルを跳んだ時点で、次2アクセル+3トウループ、というふうにすぐに切りかえて、何も嬉しさとかは感じなかった。とにかく次のジャンプ、というふうに考えて、ずっと集中できていたのがすごくよかったと思います」
世界選手権が楽しみになる、紀平の鮮やかな逆転優勝だった。
text by 沢田聡子