コラム
【世界選手権】女子SPレビュー/坂本花織が今季世界最高の79・24点で首位発進
3月22日、世界選手権が開幕した。この日、女子のショートプログラムも行われ、坂本花織が本来の力を存分に発揮し、首位に立った。
黒の衣装に身を包んだ坂本が引き締まった表情でリンクに進む。曲は『Rock with U/Feedback』、ジャネット・ジャクソンのメドレーだ。
冒頭、いつものように安定感のあるダブルアクセルを成功させる。2つ目のトリプルルッツも決め、3つ目のトリプルフリップ-トリプルトウループも成功。ジャンプを確実に決めるにとどまらず、切れのある演技を披露する。最後は観客席から起こった手拍子にのって滑り終えると歓声が沸き起こった。
得点は79・24点、今シーズンの世界最高得点をマークし、堂々、トップに立った。
「今シーズンの中で、いちばんいい演技ができました」
完璧な滑りを見せることができた坂本はほっとした表情を見せる。
初めての振付師を迎え、従来とはまた異なる趣を持つ振り付けに、当初は戸惑いもあった。大会を重ねる中で徐々に自身の演技として取り込んでいった。新たな試みと、その成就がこの日の演技にはあった。ほっとした表情を見せたのはそれだけにとどまらない。
さいたまスーパーアリーナで世界選手権が行われるのは2019年以来4年ぶりのこと。その大会で坂本は、表彰台まであと一歩と迫りながらフリーの1つのミスで5位にとどまった。
4年前を忘れていないこと、その悔しさを晴らしたいという思いがあるのは次の言葉にうかがえる。
「4年前を思い出して、こういう感じがいよいよ戻ってきたんだな、と。6分間練習から緊張でもあり、楽しみでもありました」
「(フリーへ向けて)4年前に悔しい思いをしてリベンジしたい気持ちもあります」
世界選手権という大舞台、そして4年前の記憶と向き合いながらその中で力を出せたからこその、安堵があった。
日本勢として2番目の順位となる3位には三原舞依が入った。得点は73・46点、3つ目のジャンプで「q」マーク、つまりわずかな回転不足はあったが自己ベストに迫る得点を出す好演技を見せた。
「今シーズンの中では、びっくりするくらい緊張していました」
演技を終えて、そう明かす。
三原にとって2017年以来、6年ぶりの世界選手権に懸ける思いはあっただろう。その緊張に打ち克った要因をこのように語った。
「最後まで滑りきれるか不安がありましたけど、声援がすごくて背中をぐーっと押してもらえました。感謝しながら楽しく滑ることができたと思います」
その声援を引き出したのは「今日がいちばん、心をマックスに込められました」という表現あればこそ。それが相乗効果となって生まれた『戦場のメリークリスマス』の演技だった。
世界選手権に初めての出場となった渡辺倫果は冒頭のトリプルアクセルで転倒、2つ目のジャンプでもミスが出て60・90点、15位スタートとなった。
「よくも悪くも、現地(さいたまスーパーアリーナ)での練習が出ました」
涙をこらえながら演技を振り返った。
悔いを残したショートプログラムだったが、「上れるところまで上っていければ」とフリーでの巻き返しを誓う。
坂本と三原の間、2位に入ったのは2月に行われた四大陸選手権で優勝を飾ったイ・ヘイン(韓国)。ミスが1つもないパーフェクトな演技で73・62点の自己ベストをマークした。
4位にはシニアデビューシーズンでグランプリファイナル2位になるなどたしかな成長を見せてきたイザボー・レヴィト(アメリカ)。73・03点はイ・ヘインと同じく自己ベスト、今シーズンの成長をあらためて思わせた。フリーは3月24日に行われる。
4年前のリベンジを期すとともにシーズンをすっきりと締めくくりたい坂本、それを追う選手たち。ショートプログラムでは坂本がやや点差をつけたが、2位から4位は好演技を見せた選手たちが拮抗する。それはつまり、わずかなミスが順位を左右するであろうことを意味する。それは坂本も含め変わりない。また5位には昨シーズンの世界選手権で銀メダルを獲得するなど確固とした地位を築いたルナ・ヘンドリクス(ベルギー)もいる。
フリーを終えて笑顔を見せるのは誰なのか。激しい勝負が予想される。
text by 松原孝臣
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