注目選手コラム

渡部暁斗(ノルディック複合)
真のキング・オブ・スキーへ「金しか見えていない」

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五輪前に3連勝と調子を上げ、金メダルへの期待も高まる(Photo by Getty Images)

軽い体から最大限の瞬発力を求められるスキージャンプと、パワフルな持久力が求められるクロスカントリー。その両方をこなすノルディック複合の王者が“キング・オブ・スキー”と称えられる所以だ。

同競技で日本人初の個人金メダルに限りなく近いところにいるのが、渡部暁斗だ。野球の田中将大や秋山翔吾、サッカーの香川真司、体操の内村航平、陸上の福島千里、卓球の福原愛らと同じスポーツ選手大当たりの1988年生まれの29歳。2006年のトリノ五輪に高校2年生で初出場を果たすと、3回目の出場となった前回のソチ大会では個人ノーマルヒルで銀メダルに輝き、五輪では1994年リレハンメル大会の河野孝典(現日本チームヘッドコーチ)以来、日本選手では史上2人目の個人メダリストとなった。

ノルディック複合という競技が日本で広く知られるようになったのは、恐らく1992年の五輪アルベールビル大会で日本が団体で金メダルを取った時から。日本の勝ちパターンと言えば、前半のジャンプでぶっちぎる先行逃げ切り型のイメージが強いはずだが、渡部はそうではなく“走れる”日本人選手。飛べるだけでは勝てなくなったいま、ワールドカップ(W杯)で通算14勝を挙げているのは高い走力があってこそだ。

実際、渡部はかつてW杯で前半ジャンプ26位から20人をごぼう抜き、6位フィニッシュというすさまじい巻き返しを演じたことがある。この時、クロスカントリーで全出場選手中トップのタイムを叩き出したが、駆け引きでレース展開が変わるとはいえ、トップタイムはなかなか取れるものではない。

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(Photo by Getty Images)

もちろん、ジャンプかクロスカントリーのどちらかがズバ抜けていて、条件が上手くそろった時に勝つ選手もいるが、それはごくまれなケース。特にシーズン20試合以上を戦うW杯では、両方ができる選手でなければ総合優勝争いに絡むことはできない。渡部もジャンプの方が得意ではあるものの、「ジャンプとクロカンの両方をやって強いのが複合選手としての理想像。ジャンプだけバーンと飛んで、1分、2分離してヘロヘロになりながら逃げてというのにはなりたくない」と話す。

相反する2つの能力を追求する渡部の理想が、目に見える形で結果につながったのが、昨年3月オスロのW杯だ。「今までの優勝で1番うれしい」と喜んだ試合は、W杯総合5連覇中のエリック・フレンツェル(ドイツ)を最後の直線スパートで振り切って優勝。ソチ五輪では、フレンツェルに最後のスプリント勝負で敗れて金メダルを逃しただけに、初めて強敵に競り勝ったことは大きな価値があった。

過去6シーズンのW杯総合順位は2位と3位が3度ずつ。文句のつけようのない成績だが、目指しているのはあくまでも頂点。一昨季は走る方で苦しみ、昨季は走力アップもジャンプが思うようにいかないことも少なくなかった。だが、今季は違う。ジャンプはほぼ敵なしの絶好調で、走る方も自分でペースを作れている実感がある。「ジャンプが上がってクロスカントリーが落ちるシーズンもあったから、そういう中でしっかり走り切れたのは大きい」。W杯総合優勝の行方を大きく左右する1月末のオーストリア3連戦から白馬村での第13戦にかけて、自身初のW杯4連勝。ジャンプと走りが高いレベルにあるからこその結果で、今季5勝目を挙げてW杯総合首位の座も奪った。

トップをひた走る渡部だが、枕詞のように使われているのが「シルバーコレクター」だ。ソチ五輪に続き、昨年のノルディック世界選手権でも銀メダル。W杯出場160試合で55度の表彰台と、実に3試合に1度は3位以内という驚異的な好成績だが、1番多いのはやはり2位で、その数は22度。1月上旬にフランスで行われたW杯で節目となる通算50度目の表彰台に立ったが、その時も2位。「表彰台の数より勝ちの数の方が大事だと思うし、2位と3位ばっかりでも段々と不名誉なことになってくるかな」と苦笑い。「できれば勝ちたいというのは常に思っている」と続けた。

会見の席上で自虐的に「好きな色はシルバー」と言って笑わせることもあるが、銀メダルと2位を取りつくしたいま、平昌五輪は「金しか見えていない」。渡部がこれまで手にしてきたものを考えれば、当たり前の一言だろう。

追い求めてきた理想像に近づき、本命の一人として迎える五輪。キング・オブ・スキーの証である金メダルは間違いなく手の届くところにある。

(文=小林幸帆)

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