注目選手コラム

羽生結弦(フィギュアスケート)
五輪連覇へ、奇跡の復活なるか

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靭帯損傷から奇跡の連覇へ、羽生の挑戦は始まっている(Photo by Getty Images)

1月16日、日本中の人々が待ちに待ったニュースが駆け巡った。羽生結弦が、トレーニング拠点地であるカナダのトロントで1週間前から練習を再開していたという。11月9日にNHK杯の公式練習中、4ルッツの着氷で激しく転倒し、右足関節外側靭帯損傷と診断されて以来のことである。

当初は完全復帰まで4、5週間とされていたが、結局12月の全日本選手権にも間に合わなかった。それでもこれまでの実績を考慮されて平昌オリンピックの代表には選ばれたものの、なかなか練習再開の発表がなされずにスケートファンを心配させていた。日本スケート連盟を通して、「平昌五輪に向け強い気持ちを持って日々過ごしています。これからも努力を重ね自身を超え続けたいと思います」と、本人からのコメントが届いた。もっとも現在まだどのくらい回復して、どの程度までの練習ができているのかなど、詳細はまだ発表されていない。

平昌オリンピックは、フィギュアスケートは2月9日の団体戦から開始される。男子のSPは、2月16日である。もしも羽生が再び金メダルを手にして連覇を果たせば、男子では1948年、1952年五輪王者、ディック・バットン以来66年ぶりの快挙となる。それにしても、羽生が最後に出場した試合は10月半ばのロシア杯である。これが通常の選手なら、試合への調整など実際かなり難しいことになるだろう。

だが羽生はどの角度から見ても、「通常の選手」ではない。これまで何度も、困難な状況を乗り越えて不屈の精神を見せてきた。2012年3月のニース世界選手権で3位に入り、初めて世界選手権の表彰台に到達してから、羽生が怪我に悩まされなかったシーズンはほとんど皆無、と言って良い。シニアに上がってからの羽生の戦歴は、怪我の履歴と言ってもよいほどだ。

2013年世界選手権では体調不調に加え、左膝の痛みを庇ううちに右足首まで負傷。そんな状態で総合4位になり、ソチ五輪の男子3枠を守ることに貢献した。2014年11月中国杯では、公式練習中に中国の選手と衝突事故を起こし、脳震盪は起こしていないことを確認すると、頭に包帯、頬にバンデージを巻いた姿で演技を決行という前代未聞の事態となった。出場が危ぶまれた2週間後のNHK杯では4位になり、最下位で進出したグランプリファイナルで優勝を果たしてタイトルを守るという“ウルトラC”を成し遂げた。その数週間後には全日本選手権で優勝するも、腹痛をおぼえて検査をした結果、尿膜管遺残症という疾患で手術を受けることに。3月の上海世界選手権の出場も危ぶまれたが、ギリギリで調整して出場を果たし、銀メダルを手にした。

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(Photo by Getty Images)

翌シーズン2015/2016年は前半は絶好調な演技で、NHK杯、GPファイナルと二度に渡って歴代最高スコアを更新させた。だが無理がたたったのか、左足の痛みがひどくなっていく中で2016年3月ボストン世界選手権に出場し、2年連続で銀に終わる。試合後、「左足リスフラン間接靭帯損傷」と診断を受け、全治2ヶ月という重症だったことがわかった。だが夏の療養を経て秋からは試合に復帰し、2016年12月にはGPファイナルを3連覇。2017年3月、ヘルシンキ世界選手権では3年ぶりに世界タイトルを取り戻した。

そして平昌オリンピックシーズンがスタートした2017年の秋、コーチのブライアン・オーサーは、「今のユズルはこれまでで最高のコンディション。怪我もなく、しっかりトレーニングが出来ていて体調は万全」と期待をかけていた。そんな中で、NHK杯の公式練習中の事故は起こった。本人は前日まで熱があったといい、体調不調で無理をしたことも原因の一つだったのだろう。またブライアン・オーサーが10月末にカナダで胆嚢摘出の手術を受けて、同行していなかったことも、影響があったのかもしれない。

同じ頃、偶然にも2年連続世界選手権を優勝してきたロシアのエフゲニア・メドベデワも、足の骨にひびが入ってやはりGPファイナルを欠場した。1月の欧州選手権で試合復帰したものの、15歳のアリーナ・ザギトワに敗れて2位に終わり「選手は試合ごとに調子を上げていくので、2ヶ月のブランクはきつかった」と告白している。おそらく平昌オリンピックが復帰戦になるであろう羽生にとって、試合のブランクはメドベデワの倍の4ヶ月になる。

だがこれまで何度も、常人ならもう無理という状況を乗り越えて、不死鳥のように蘇ってきた羽生結弦である。平昌オリンピック開催までもう秒刻みとなったが、羽生なら奇跡を起こしてくれるのではないか。彼のファンたちは、今でもそう信じて疑わない。

羽生結弦が、新たなレジェンドを作る舞台がすぐそこに待っている。

(文=田村明子)

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