東京五輪2020

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オリンピックに新たな魂を注ぐ、スケートボーダー瀬尻稜への期待 オリンピック感動物語

2018年2月8日 10:00配信

©Getty Images

平昌オリンピック開幕を目前に控え、日本勢のメダル数が一大関心事として報道されています。競技の成果であるメダルはオリンピックを盛り上げる重要な要素ですが、すべてのアスリートが「メダルのためだけ」にプレーしているわけではありません。

東京2020オリンピックから新競技として採用されるスケートボードの代表候補でメダル獲得が期待されるあるスケートボーダーの発言とその姿勢は、「メダル至上主義」に一石を投じるものでした。(文:小林信也)

何のために滑るのか? オリンピック出場は「まだ決めてない」

東京2020オリンピックから正式種目となるスケートボードは、メダル獲得が期待される競技のひとつだ。中でも注目は瀬尻稜、21歳。2006年、11歳(史上最年少)でAJSA(日本スケートボード協会)ジャパンプロツアーのシリーズチャンピオンに輝き、2013年には日本人で初めてワールドカップに優勝。いまも国内外の大会で常に優勝を争う、世界的なスケートボーダーだ。

その実力と実績から、スケートボードが五輪種目に決まったときから、「金メダル有力候補」と誰もが認め、期待を寄せている。

ところが、瀬尻稜自身は、オリンピックにそれほど執着がないようだ。

「東京オリンピックの期待の星」としてテレビ出演した際の瀬尻稜の言葉はオリンピックこそ最高の舞台と信じて疑わない多くの人たちにとって意外なものだった。番組MCが番東京オリンピックへの意気込みを訊いたとき、瀬尻稜はちょっと難しい顔をしてこんな風に言った。

「まだ出るか、決めていないんです」

そして、こう続けた。

「僕らがやっているスケートボードは、他の選手が素晴らしい技を決めたら、参加している選手みんなが一緒に『やった!』と喜ぶし、お互いにハイタッチを交わして称え合う、みんなで盛り上げようって感じの競技だから、日本でやって、会場がみんな僕の金メダルだけを期待してるって雰囲気はちょっとどうかなと」

瀬尻稜や日本選手にばかり熱い声援が集まり、日本選手のポイントが高ければ大喜びする、外国選手が日本選手を上回ればガッカリする、そういう見方は耐えられない、それは違うと首を傾げたのだ。この言葉を聞いて、私は思わず両手を挙げた。これこそ、待っていた言葉だった。この瞬間から、瀬尻稜に『特別な期待』を抱かずにはいられなくなった。

金メダルに固執しない “新しい価値観”を持った瀬尻への期待

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特別な期待とは、もちろん「金メダル」ではない。メダルを超越した、もっと昂奮に満ちた、本来の競技の喜び、その向こうにある特別な感激をもたらすスポーツの取り組み方、勝利以上の感動・恍惚への挑戦。古今東西、世界中の人々がスポーツに心を奪われ、万難を排してオリンピックの舞台を目指したのは、単にメダルのためではなかったはずだ。もっと深く、もっと特別な何かを求めて、人々は生涯をかけてスポーツに打ち込んだ。特別なドラマが生まれ、友情が生まれ、新たな展開が生まれるのは、メダルに執着したからでなく、心の中に芽生える、その競技に打ち込まずにはいられない、理屈を越えた衝動があったからだろう。

金メダルばかりが目標とされ、スポーツやオリンピックの原点が忘れられがちな現代にあって、世界的なスケートボーダー瀬尻稜は何と、自分に正直で、競技への思いに素直なのだろう。

世界で闘い、世界のトップボーダーと交流を深めれば深めるほど、目先の勝利より、自分たちが愛するスケートボードをもっと深く、もっと広く知ってもらいたい、愛してもらいたいと願うのは当然だ。そして、トッププレーヤーは自分がただ勝つのではなく、その使命を果たすためにこそ勝利があり、感動的なパフォーマンスが求められているのだと悟る。

スポーツがもたらす真の感動とは? 新たなオリンピック像に期待

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瀬尻は自分のパフォーマンスをビデオに収め、それを編集してYoutubeにアップし、より多くの人々に見てもらうことがいま一番の関心事だとも語った。ピコ太郎が、あっという間に世界の人気者になったことでもわかるとおり、オリンピックで金メダルを獲らなくても、世界じゅうの関心を集め、感動を呼び起こすことは事実、可能だ。そういう世の中に変わって、ただオリンピックで勝つことに執着するのはもはや時代遅れというより、発想が浅い、視野が狭すぎると言われても仕方がない。

それでもいま日本では、2020東京オリンピックと言えば、「金メダル、期待しています!」の一点張りで、「盛り上げるためには金メダルが絶対に必要だ」という相変わらずの発想に終始している。それも当然の目標だし、メダルを獲れば盛り上がるのも事実だ。が、問題は深さであり、一過性のお祭り騒ぎでなく、その後の本質的な発展につながるのかどうかがもっと重要だ。

2017年11月には、所属のムラサキスポーツがプロデュースし、瀬尻自らオーガナイザーを務めた賞金総額600万円、国内最大の大会『第1回スケートアーク』でも優勝。選手の枠を超えながら、選手としてもきっちりと高いパフォーマンスを展開している。

これからあと2年余。瀬尻がオリンピックに対してどんな結論を出すのか。瀬尻にとってオリンピックの優先順位が高くないことを理解しつつ、そんな瀬尻だからこそ東京オリンピックに出場し、いま必要なメッセージを発し、オリンピックに本来の意義を注ぎ込んでほしい、メダル至上主義でしかオリンピックを盛り上げる方法を知らない日本に、素朴な原点を思い起こさせてほしい。瀬尻稜が、メダルを獲る、獲らないにかかわらず、未来につながる究極なメッセージをそのパフォーマンスとインタビューで発信してくれたら、それは間違いなく、後世につながる“感動”をもたらしてくれるに違いないと、ワクワクする思いで私はその日をまっている。

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