dmenuスポーツ

東京五輪2020

コラム

エンタメで見る五輪  財閥の御曹司が金メダリストを射殺!『フォックスキャッチャー』

2018年12月26日 13:00配信

(C)MMXIV FAIR HILL LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

文・平辻哲也

1996年1月26日、アメリカ三大財閥のひとつ、デュポン財閥の御曹司が84年ロサンゼルス五輪レスリングの金メダリストを銃殺するという衝撃の事件が起こった。その実話を映画化したのが『フォックスキャッチャー』だ。監督は、ブラッド・ピット主演の野球映画『マネーボール』(2011)のベネット・ミラー。映画は第67回カンヌ映画祭で監督賞を受賞したほか、2014年度の映画祭や賞レースをにぎわした。

アマスポーツを支援した篤志家デュポンだが……

フォックスキャッチャーとは、加害者であるジョン・E・デュポンが運営していたアマチュアチームのこと。デュポンはアメリカの若者がスポーツだけではなく、人生でもチャンピオンになることを夢見て、水泳、トライアスロン、近代五種などをサポートした。特に熱を入れていたのが高校時代から夢中になったレスリングだった。厳格な母親はレスリングを下品なスポーツと見下していたが、デュポンは親への反抗心もあってのめり込んでいく。

映画は、金メダリスト兄弟の目線で進んでいく。ロサンゼルス五輪・男子フリースタイルレスリング82kg級金メダリスト、マーク・シュルツ(チャニング・テイタム)は小学校で講演。しかし、米国ではレスリングはマイナースポーツで、児童の反応も薄い。一方、1983年世界選手権の王者でロサンゼルス五輪のフリースタイル・レスリング74kg級金メダリストである兄デイヴ・シュルツ(マーク・ラファロ)には全米レスリング協会からのコーチのオファーが届いていた。

金メダリストにも関わらず困窮する生活、兄へのコンプレックスから失意のマークに、1本の電話が入る。大富豪ジョン・E・デュポン(スティーヴ・カレル)の秘書だった。レスリングコーチでもあるデュポンはペンシルバニア州フィラデルフィアの豪邸にマークを招き、一緒にソウル五輪で世界制覇を目指さないかと誘う。広大な農場内に最先端のトレーニング施設を持つデュポンは、住居に、2万5000ドルという破格の年俸も用意した。デュポンは、マークにデイヴも誘うよう言ったが、家族持ちの兄は「地元での生活がある」と断ってしまう。

マークは早速、フランスでの世界選手権で優勝。デュポンは自身を“イーグル”と呼ばせ、生活のすべてを面倒見る。施設内で銃を撃ち、過激な言動を言うなど少しおかしいところはあったが、地元でも一目置かれる篤志家だった。やがて、デュポンは以前に増して、デイヴに執着。熱意に打たれたデイヴも家族を連れて引っ越してくる。人格者のデイヴは、デュポンとの関係悪化で精神的に不安定になっていくマークを助けるが、デュポンの常軌を逸した行動は次第にエスカレートして……。

(C)Getty Images

ジョン・E・デュポン氏

デュポンになりきったコメディアン、S・カレル

デュポン役のスティーヴ・カレルはテレビ出身のコメディアン俳優。主演映画『40歳の童貞男』(05)では脚本と製作総指揮も手がけ、アニメ映画『怪盗グルーの月泥棒』(10)では主演グルーの声を担当。本作ではデュポンに似せた特殊メイクを施し、次第に狂気をはらむ主人公を怪演した。デイヴ役のマーク・ラファロは『アベンジャーズ』シリーズのハルク役、『グランド・イリュージョン』シリーズでのFBI捜査官などが当たり役となった俳優。こちらも、実際のデイヴにそっくりに変身している。2人は第87回アカデミー賞主演男優賞、助演男優賞にそれぞれノミネートされた。

事実とは異なる時間軸で構成されたフィクション

映画は『炎のランナー』と同様、事実と異なる点が多く、事実を基にしたフィクションと言える。事件は88年のソウル五輪後の冬に起こったことになっているが、実際は96年1月。マークはソウル五輪後に引退しており、兄弟が同時期に「フォックスキャッチャー」に在籍したことはない。また、デュポンの母親(ヴァネッサ・レッドグレイヴ)がフォックスキャッチャー内で見学するシーンがあるが、実際の母親は完成前に死去。トレーニング施設はその遺産をつぎ込んで作られた。

事件の詳細は記録映像と関係者の証言で構成されたドキュメンタリー『フォックスキャッチャー事件の裏側』(Netflixで配信中)にも詳しい。事件直前、身の危険を感じていた妻から「早くここから出たい」と言われると、デイヴは「オリンピックが終わってからだ」と答えた。37歳となっていたデイヴはロス五輪以降、メダルに無縁だった。96年のアトランタ五輪が金メダルを狙えるラストチャンスと考えていたのだ。

事件の発端はデュポンの被害妄想だが、警察の調べでも決定的な殺害動機は不明のまま。事件後、デュポンは「統合失調症」と診断された。法定では弁護団が「心神喪失による無罪」を主張したが、有罪となって刑務所に収監。2010年12月、72歳で病死している。

派手さはないが、主要キャストの熱演がスリリングで、最後まで見入ってしまう衝撃作だ。

『フォックスキャッチャー』

価格:DVD¥3,800(税抜)

発売元・販売元:株式会社KADOKAWA

コラム一覧に戻る

トピックス

競技一覧
トップへ戻る