東京五輪2020

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エンタメで見る五輪 『美の祭典』バタフライは平泳ぎだった!

2019年1月2日 13:00配信

バタフライは平泳ぎだった!

文・平辻哲也

ドイツの女性監督レニ・リーフェンシュタール監督が1936年のベルリン・オリンピックを描いた2部作のドキュメンタリー『オリンピア』(1938)。第1部『民族の祭典』は男子陸上をフューチャーしているが、第2部『美の祭典』ではそれ以外の競技を取り上げ、肉体の美を強調した芸術性の高い作品。その競技を見ると、時代性や流行が手に取るように分かる。

『美の祭典』で取り上げられるのはセーリング、近代五種、十種競技、馬術など。地味な競技が多いが、当時は注目競技だったのだろう。近代五種は近代オリンピックの父・クーベルタン男爵が、近代オリンピックを創設する際、「古代アテネオリンピックの五種競技(レスリング、円盤投げ、やり投、走幅跳、短距離走)のように、近代オリンピックでも五種競技を」と考案・創設したのが始まり。一人がフェンシング、水泳、馬術、射撃、ランニングに挑戦するというものだ。

1912年の第5回ストックホルム大会で正式種目に採用され、欧州では「キングオブスポーツ」と呼ばれる。しかし、今の実態は「キングオブマイナースポーツ」。日清食品がユーモアを込めて応援する近代五種の特設サイトによれば、世界の競技人口300人、日本の競技人口33人(※世界大会に出場する競技者数)。

近代五種は競技を始めるまでのハードルがあまりに高い。剣が要る。馬が要る。ピストルが要る。また、観戦する側も苦労を強いられる。競技のすべてを見るためには移動しなければいけない上、競技時間が長い。テレビ中継には不向きなコンテンツで、ほぼダイジェスト版しか放送されない。近年、削除対象として議論になるが、近代オリンピックの歴史的な側面から存続されている。

ベルリン五輪に出場したのは各国の軍人。当時は第一次世界大戦(1914〜1918)と第二次世界大戦(1939〜1945)までの間。軍人が日頃の鍛錬の成果を見せる場だった。金メダルに輝いたのはドイツ空軍所属のゴットハルト・ハンドリック。後のスペイン内戦(1937年)では5機、第二次世界大戦では10機を撃墜させたエースパイロットだった。

男子200m平泳ぎの決勝

男子200m平泳ぎの決勝にも“流行”を見ることができる。これは葉室鐵夫が金メダル、小池禮三が銅メダルを獲得したレース。序盤、トップを泳ぐ選手は、なんとバタフライ。当時の種目は自由形、平泳ぎ、背泳ぎの3つ。平泳ぎとは「左右対称であること」が唯一の条件で、バタフライも平泳ぎの一つの形だった。

オリンピックでは1928年のヘルシンキ大会の平泳ぎでバタフライを泳いで、銀メダルを獲得した選手がおり、ベルリンオリンピック決勝の8人のうち2人がバタフライで挑んでいる。力強く進むバタフライは序盤ではリードするものの、体力を失うと失速。このため、中盤には従来の平泳ぎに戻して、終盤にバタフライでピッチを上げようとする選手も見られる。

この後、バタフライを用いて、平泳ぎに出場する選手が増え、1952年のヘルシンキ大会ではほとんどの選手が平泳ぎをバタフライで泳いだ。このため、1956年のメルボルン大会から、平泳ぎとは別にバタフライという種目が設けられている。

描かれなかった前畑ガンバレ

同じ水泳で最も有名なのは、NHKアナウンサーが「前畑ガンバレ」を連呼し、国民が熱狂したラジオ実況だ。前畑とは、ロサンゼルス大会の女子200m平泳ぎの銀メダリストで、ベルリン大会で日本人女性として初めて金メダルを獲得した前畑秀子のこと。ドイツのマルタ・ゲネンゲルと壮絶なデッドヒートの末、1秒差で勝利した。

しかし、この劇的なレースシーンは映画に出てこない。これには、リーフェンシュタール監督のドイツひいきが出たのかもしれない。『民族の祭典』『美の祭典』はドイツから2年遅れること1940年、日本公開され、空前の大ヒットとなったが、「前畑ガンバレ」の名シーンがあったなら、さらなる評判を呼んだだろう。

淀川長治さんが最も憎んだ映画

このDVDの解説を務める淀川長治さんはこの二部作を「私が最も嫌いな、憎んだ映画」と紹介する。というのも、淀川さんは当時、ユナイト(ユナイテッド・アーティスツ)の宣伝マン。ライバルである東和商事(現・東宝東和)が宣伝、配給を手がける『民族の祭典』『美の祭典』と同時期に、ジョン・フォード監督の西部劇『駅馬車』の宣伝を担当していたのだ。

東和商事は20人の社員が総出で宣伝に当たる中、淀川さんは孤軍奮闘したが、評判になったのは『オリンピア』の方。しかし、当時の恩讐を忘れて見直すと、「きれいな映画、見事だな。今日までのスポーツ映画の最高」と思ったとか。市川崑監督が『東京オリンピック』を作る際には、「『民族の祭典』『美の祭典』は見たか。ああやって、選手の手のひらや足の裏を映しなさいとアドバイスした」と思い出を語る。そうして誕生した市川監督の『東京オリンピック』(1965)も“芸術か、記録か”の論争を巻き起こすことになった。

『美の祭典』

発売元:アイ・ヴィー・シー

価格DVD¥1,800+(税)

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