東京五輪2020

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エンタメで見る五輪(9) 歌い継がれる『東京五輪音頭』 三波春夫が込めた平和への思い

2019年1月9日 13:00配信

文・平辻哲也

©1964日活

東京オリンピック・パラリンピックに向け、盛り上がりを見せているのが「東京五輪音頭-2020-」だ。1963年に制作され、故・三波春夫らが歌った「東京五輪音頭」(作詞・宮田隆、作曲・古賀政男)を現代風にリメイクしたもので、石川さゆり、加山雄三、竹原ピストルが歌っている。東京都だけでなく、全国の自治体がCDの貸し出しサービスを行い、普及に力を入れている。この五輪音頭は歌にとどまらず、『東京五輪音頭』として映画化もされている。

映画『東京五輪音頭』が公開されたのは、東京五輪の開幕を控えた1か月前の1964年9月9日。このモノクロ映画は、東京五輪音頭を踊る人たちから、国立競技場の空撮、陸上、水泳などのスポーツの活写から始まり、約55年前の東京の様子、スポーツ人気の高まりを感じることができる。

主人公は中央卸売市場で、ひときわ目を惹く青果の仲買人「藤源」の一人娘・19歳の藤崎ミツ子(十朱幸代)。明るく陽気で町内の人気者。大学ではオリンピック強化コーチがつくほどの水泳のホープだ。しかし、亡き両親に代わって、育ててくれた祖父はなぜか、ミツ子が水泳選手になるのを極度に嫌がっていた。自分の意志を押し通すことができないミツ子は、祖父に気づかれないように市場の仕事をしながら密かに練習に打ち込み、代表選考レース「女子400メートル自由形」に出場するが…。

©1964日活

21歳の十朱幸代が水泳の代表選手を目指す!

ヒロインを演じたのは、現在76歳の十朱幸代。1959年、木下惠介監督、津川雅彦主演の『惜春鳥』でスクリーンデビューを飾っており、撮影時は21歳。その友人役には第7期日活ニューフェイスとして、1963年に芸能界入りした山本陽子が「山本陽子(新人)」としてクレジットされている。

舞台となった中央卸売市場は、当時、秋葉原にあった江戸時代から続く青物市場。もともとは運河があって交通至便だった神田にあったが、関東大震災で市場は壊滅。1928年に震災の復興事業の一環として、貨物駅のあった秋葉原に移転した。映画を観ると、仲買人の前掛けに「神田青果市場」の文字を見ることができる。この青果市場も90年に大田区に移転し、跡地は複合型オフィスビル「秋葉原UDX」になった。

時代を象徴するようなアイテムも登場するが、おそらく映画の協賛だったのだろう。登場人物が寿司店で真っ先に注文するのは、バャリースオレンヂ(1987年からバヤリースオレンジに変更)。レコードプレーヤー「タクト・ポータブルステレオ」(7500円)はブラウン管テレビのCM、日本舞踊の教室などでも登場。五輪見学がてら東京にやってきたブラジルのおばさんが買うのは、いすゞの「ベレル2000」(85馬力、6人乗り)のライトバン。店員が「74万5000円です」というと、「おお、安いですね。ブラジルではもっとします」と答える。

ポータブルステレオも自動車も、高級品だと思うが、時代は高度成長期。当時は飛ぶように売れたのだろうか。ちなみに、1964年の公務員の初任給は、大卒が17,100円、高卒が12,400円。「ベレル2000」は大卒給料の43.5か月分に相当する。このブラジルのおばさんは相当、羽振りがよくて、セスナで東京見物するから驚き。劇中では、東京タワー(1958年竣工)、明治神宮、駒沢公園の競技場やオリンピック記念塔も登場する。

三波春夫版の「東京五輪音頭」が一番売れた理由は?

大スター三波春夫は、三波に似ていると評判の「松寿司」の主人・松吉と三波春夫本人役という2役で出演。最後は本人として圧巻のステージを見せる。

©1964日活

「東京五輪音頭」は1963年6月23日のオリンピックデー(国際オリンピック委員会の創設記念日)に、三橋美智也が歌って発表された。作曲者の古賀はコロムビアの専属だったが、この曲の録音権はレコード会社各社に許されていた。橋幸夫(ビクター)、坂本九(東芝)、北島三郎・畠山みどり(コロムビア)、大木伸夫・司富子(ポリドール)、つくば兄弟・神楽坂浮子(ビクター)も歌ったが、三波の曲はレコード会社のテイチクが64年のNHK紅白歌合戦出場を狙ってプロモーションに力を入れ、130万枚以上と最多セールスを記録した。

三波は自伝的エッセイ「歌藝の天地―歌謡曲の源流を辿る」(PHP文庫)で東京オリンピックと「東京五輪音頭」への思いを綴っている。

「東京オリンピックは日本の歴史に残る国際的な催しであった。戦争中に開催する予定だったオリンピック(※注 1940年の東京大会)は、ヒットラー率いるドイツの『民族の祭典』という大きな記憶を残したまま消えてしまった。敗戦の日本にオリンピックを開くことなど夢にも思わなかった人が多かったのではないか」

1963年春に楽譜を受け取った時には「なるほど、オリンピックにふさわしい」と思ったそう。いつも通り力を込めてレコーディングに臨んだそうだが、「あの戦争とシベリア抑留生活を体験した私にとってが、本当の意味で世界平和のお祭りの音頭をとるんだ、と心底思っていた」と記している。

映画は東京オリンピックを題材にしたホームドラマだが、三波の思いを知ると、また違って見えてくる。

『東京五輪音頭』

DVD発売中/¥3,800(税別)/発売:日活/販売:ハピネット/©1964日活

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