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アスリートに学ぶ「子育ての秘訣」① 21世紀のメダリストと個性を活かせる子どもの育て方

2019年1月23日 13:00配信

何か一つ、誰にも負けないものを持ってほしい。わが子にそんな期待を寄せる親は少なくありません。親の期待は愛情の裏返しとはいえ、一方的な思いが空回りすると、“教育ママ”や“ステージママ”、子どもを使って自己実現をするような“毒親”が生まれる要因にもなります。親は愛情や期待をどう消化すればいいのか? 子育てのヒントがオリンピックで活躍するような一流アスリートの育ってきた家庭にあるとしたらどうでしょう?

今回からスタートする「アスリートに学ぶ子育ての秘訣」シリーズでは、その分野で世界一を目指すトップアスリートたちの幼少期、“育てられ方”を題材に、21世紀の“メダリストの育て方”、ひいては個性を活かせる子どもの育て方を考えます。

(文=大塚一樹)

©Getty Images

メダル級のアスリートは早期教育のたまもの?

二人三脚でその道一筋に没頭する親子鷹、生まれたころから競技を極めるべく英才教育を受けた天才……。何かを極めるためにはそれに取り組むのが早ければ早いほどいいという「早期教育」が一時もてはやされたこともあり、子どもの成功は進むべき道を幼児のうちに決めてしまうことにあるという思い込みが蔓延しています。

脳の発達過程や発育の様子をもっともらしく説明されると、「一流になるためには幼児のころから」という言葉に説得されてしまいがちですが、実は、子どもの能力や才能は早く始めたからその後の結果に結びつくという統計的なデータはありません。

スポ根マンガの影響か、旧来のアスリートのイメージは、一つの競技に早くから打ち込み脇目も振らずそのことに打ち込んできた人だけが成功できるというものですが、近年では、たとえスポーツであっても、いろいろなことを経験する多様性が重要だという考え方が定着しつつあります。

2016年に行われたリオデジャネイロオリンピックのテニス・男子シングルスで日本人として96年ぶりのメダルを獲得した錦織圭選手は、幼少期に水泳や野球、サッカーなど多くのスポーツを経験しています。中でもサッカーは、小学校5年生まで本気で取り組んでいたといい、その実力は小さなテニスボールで器用にリフティングをする錦織選手の姿から見て取れます。

錦織家では、「やりたいことはやってみる」という方針の下、興味を持ったことは体験してみてイヤだったらやめてもいいというおおらかさでスポーツに取り組んでいました。世界ランキングの最高位が4位というテニスの天才が、テニスに打ち込むと決めたのは12歳のころだったといいます。

©Getty Images

テニスよりさらに専門性が高いフィギュアスケートの羽生結弦選手も子どものころは父や兄の影響で野球が好きな少年でした。しかし、ぜんそくの治療のために始めたフィギュアスケートの楽しさに気が付き、スケートを続けることを選んだのです。

他のアスリートに比べると、羽生選手のご両親はメディアに出て何かを発言することはありませんが、その姿勢は、「頑張っているのはゆづ自身」「自分がやりたいことを精一杯やってほしい」という教育方針そのものなのです。

オリンピアンではありませんが、いまをときめく“二刀流”米・メジャーリーグ、ロサンゼルス・エンゼルスの大谷翔平選手もバドミントンの選手だった母の影響でバドミントンをしたり、小学校4年生から始めた水泳に取り組んだり、野球だけではなくさまざまなスポーツに親しんでいました。190㎝を超える恵まれた身体は、どんなスポーツをやっていても成功したのでは?と思わせるようなポテンシャルがありますが、大谷選手に限らず、錦織選手、羽生選手などに共通しているのが、子どものころに自分のやりたいスポ―ツを“自分で選び取った”ということです。

始めた時期より「自分で選ぶこと」が重要

一見、効果的に思える早期教育の落とし穴は実はここにあります。物心つく前から一つの道に限定した英才教育を施すことは、子どもの自由意志とは関係なく、親がある意味勝手に子どもの進む道を決めてしまうことに他なりません。こうした押しつけは、子どもを自分の所有物として扱い、「こうなることが幸せ」と決めつけてしまう“毒親”の振る舞いそのものです。自分の果たせなかった夢や希望を子どもに投影し、身代わりにしてしまうのは子離れできない親の典型。そうした姿勢では、子どもも親離れできず、本来身に付けておくべき自主性や主体性が一向に芽生えてきません。

スポーツの世界では「親子二代の夢」といった見出しが喜ばれがちですが、今回紹介した錦織選手にしても、羽生選手、大谷選手もそのスポーツが身近にあり、親しみやすい環境にはありましたが、誰かに強制されたり、誰かのために競技に取り組んだのではありません。

現代の心理学では、「自分で選んだ、自分で決めたことだけが本当のやる気を引き出す」ということが、自己決定理論という理論で証明されています。

親に決められた、やらされているものは長続きせず、自分からやりたいと思ったことだけが本当に身に付いていくというのは読者の皆さんにも何となく分かってもらえるでしょう。誰かのため、何かのため、報酬のためにやるもの、これを外発的動機付けといいますが、外からの動機は限定的で、自分で決めてやること、自分のためにやる内発的動機付けは外発的動機付けに比べて強いパワー持っているというメカニズムの表れなのです。

錦織選手がテニスを知ったのは、父・清志さんのハワイ土産だったテニスラケットがきっかけ。以来、5歳でテニスボールを打つ快感を覚え、6歳でスクール入り、水泳やサッカーもやってみたものの、誰よりも上手にボールをコントロールできる快感に魅せられてテニスに打ち込むことを決心したのは、他ならぬ12歳の錦織圭少年だったのです。

子どものころから自主性に任せた教育方針を貫いてきた羽生家では、羽生選手が自ら選んだフィギュアスケートの道をサポートすることに徹しました。そこに外発的動機付けが入り込む余地はなく、羽生選手はひたすら自分のためにフィギュアスケートの世界を極める努力を重ねることができました。羽生選手の強さは、自分の進むべき道を自分で決めた強さ。この強さこそが、オリンピック2連覇という偉業につながったのです。

体格に恵まれた大谷選手も、いろいろなスポーツに触れながらのびのび育ち、野球を続けると決めたときにすでにいまの活躍の源泉が生まれていました。野球にしても生活にしても大谷選手の両親はほとんど干渉せず。ただ一つ、行き詰まったとき、うまく行かなかったときに、問題点を自分で見つけ、どう改善したら良いかの具体的な方法を考えることを習慣づけていたそうです。

©Getty Images

子どもに対してはついつい上から目線で「こうしなさい」とか「こうしたらいいんじゃない?」とアドバイスしてしまいがちですが、問題点やその改善点を自分で見つける訓練をさせることの方が、後に続く人生に有用なのはいうまでもありません。「メジャーで活躍する」という目標を掲げ、その目標を達成するために着実にステップを踏んでいった大谷選手の活躍は、両親が授けた問題可決能力によってより確かなものになったのです。

皆さんも一度や二度は経験していると思いますが、人生には決断しなければいけないときが必ずやってきます。そんなときに重要なのは、誰かの言うことに惑わされず、自分で決めること。メダリストや超一流アスリートとはいかなくても、わが子が決断を迫られたとき、自分で決められるように、押しつけや決めつけ、勝手にレールを敷くことだけは避けた方が良さそうです。

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