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東京五輪2020

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エンタメで見る五輪(13)ハリウッド進出する鬼才がいち早く東京五輪を取り上げた『ラブ&ピース』

2019年2月13日 13:00配信

(C)「ラブ&ピース」製作委員会

「日本での映画製作に飽き飽きした」とハリウッドへの進出を宣言した園子温監督。その鬼才がNHK連続テレビ小説「まんぷく」でヒロイン(安藤サクラ)の夫、立花萬平を好演する長谷川博己を主演に起用したのが『ラブ&ピース』(2015)だ。さえないサラリーマンが一匹のミドリガメとの出会いをきっかけにロックスターを目指し、東京オリンピックのために作られた「日本スタジアム」でライブを行う……という奇想天外なストーリーだ。

2013年9月、アルゼンチン・ブエノスアイレスで行われた国際オリンピック委員会(IOC)総会。2020年のオリンピック開催地として、ジャック・ロゲ会長(当時)が読み上げたのは「TOKYO」だった。東日本大震災から2年6か月後。当時、福島第一原発事故による放射能汚染水の問題が国際的にも注目を集める中、安倍晋三首相は「The situation is under control」(状況はコントロール下にある)と発言。関係者の熱意が実って念願のオリンピック招致に成功し、日本中が熱狂した。

オリンピックはともかく、震災の教訓はどこへ? そんな時代の空気に違和感と危機感を募らせたのが園監督だった。かねてから、今に生きる日本人に問いかける問題作を送り出してきた。古谷実のコミックを映画化した『ヒミズ』(2012)時はクランクイン直前に震災が起こったことから、時代設定を「震災後の日本」に変えるなど脚本を大幅に変更し、被災地の宮城・石巻でロケ。第68回ヴェネチア国際映画祭では染谷将太、二階堂ふみが「最優秀新人俳優賞(マルチェロ・マストロヤンニ賞)」を日本人として初の受賞という快挙をもたらした。続く『希望の国』(2012)でも、架空の大震災による原発事故による警戒区域で生きる家族の姿を描いている。

映画は通常、製作までには時間もかかるものだが、園監督は「今こそ描くべき」と感じれば、題材を貪欲なまでに取り入れる。この軽やかさは日本人監督にあって、園監督以外にはない。『ラブ&ピース』は園監督が20年以上前の無名時代に書き上げたオリジナルのファンタジー。これに「東京オリンピック」という時代設定を加え、エンターテインメント作品の中に「夢と欲望」といったメッセージを巧みに入れ込んだ。

(C)「ラブ&ピース」製作委員会

物語の舞台は5年後にオリンピックを控えた東京。主人公は、かつてロックミュージシャンを夢見るも挫折、そのまま楽器の部品メーカーでうだつのあがらないサラリーマン生活を送っている鈴木良一、33歳(長谷川)。同僚の寺島裕子(麻生久美子)に想いを寄せているが、小心者すぎてまともに話すこともできない。

冒頭は「田原総一朗の東京オリンピックを問う!2020」と題した架空の討論番組のシーンからスタート。田原氏を始め、水道橋博士、ジャーナリストの津田大介氏、社会学者の宮台真司氏、脳科学者の茂木健一郎氏が本人役で出演。田原氏が「1964年の東京オリンピックは日本の高度成長の象徴だった。2020年は何を象徴するのか?」と問い、4氏がいかにも言いそうな言葉で討論。そんな中、4氏が突然、鈴木の悪口を始め、目指しされたテレビの向こうの良一が大げさに怯える。

そんな良一はある日、デパートの屋上で一匹のミドリガメと目が合い、運命を感じる。あきらめたロックミュージシャンへの道、裕子への想い…。良一の人生を取り戻すために必要な最後の欠片<ピース>、それがそのミドリガメで、「ピカドン」を名付ける。良一はその出会いが転機となり、良一の人生は怒涛の展開を見せる。

(C)「ラブ&ピース」製作委員会

それは謎の老人(西田敏行)と不思議な力で得て、言葉を話すおもちゃたちの住む、不思議な地下の世界にまで伝播。良一の夢と欲望を飲み込んだミドリガメが巨大化する度に、良一の夢は実現していく。半年後、良一は来る東京オリンピックのために作られた「日本スタジアム」でのライブステージに人気ロックスターとして立つ……。

架空の「日本スタジアム」は東京ドームを超える8万人収容できる多目的の新スタジアム。建設地は新宿中央公園で、将来的にはスポーツイベントだけではなく、ビッグアーティストのコンサート会場に期待されている、という設定。もちろん、そんな会場はなく、映画では「埼玉スタジアム2○○2」(最大収容63,700人)が使われている。

(C)「ラブ&ピース」製作委員会

見どころは長谷川のコミカルな演技とデビッド・ボウイを思わせるスタイルで見せるロックスターぶり。そのギャップが面白い。また、巨大化したミドリガメの特撮シーンにも注目だ。手がけたのは「ウルトラマン」シリーズの田口清隆氏。CGには頼らず、伝統的なミニチュアでの撮影で迫力ある映像を作り上げ、園監督の世界観ともピッタリ合っている。

園監督の新作は、猟奇的殺人事件をモチーフにした椎名桔平主演のNetflixオリジナルシリーズ「愛なき森で叫べ」。ほかにも、ニコラス・ケイジ主演のアクションを準備中とも伝えられており、完成が待ち遠しい。

(C)「ラブ&ピース」製作委員会

発売・販売元:キングレコード

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