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東京五輪2020

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エンタメで見る五輪『不屈の男 アンブロークン』 幻の東京五輪に出場するはずだった男

2019年2月20日 13:00配信

(C) 2014 Universal Studios. All Rights Reserved.

1964年、2020年の東京オリンピック大会の前に、幻となったオリンピックがあったことはあまり知られていない。アドルフ・ヒトラーが国威高揚のために使ったベルリン大会(1936年)の4年後の1940年大会に予定されていた。そんな“幻の東京五輪”に出場するはずだった男の数奇な運命を描いたのが、ハリウッド女優アンジェリーナ・ジョリーが監督した『不屈の男 アンブロークン』だ。

文・平辻 哲也

「トーランスのトルネード」長距離走者

1940年の東京五輪は、駒沢競技場などを会場に予定し、アジア、有色人種国家での初開催となるはずだった。しかし、1937年に勃発した支那事変の影響、軍部の反発などで日本が開催権を返上し、フィンランド・ヘルシンキに移った。

『不屈の男 アンブロークン』は、その幻の東京五輪で、金メダル奪取に燃えていた男の波乱万丈の生涯を描く。『シーズビスケット―—あるアメリカ競走馬の伝説』で知られるローラ・ヒレンブランドによる原作を、コーエン兄弟が脚本化。『ユナイテッド -ミュンヘンの悲劇-』のジャック・オコンネルが主演した。

主人公となる8000mのアメリカ代表、ルイス・ザンペリーニ(1917〜2014)は1917年生まれ、カリフォルニア州トーランス育ったイタリア系アメリカ人。幼少期は手に負えない不良だったが、高校時代、頭角を現し、「トーランスのトルネード」の異名を取った。1936年のベルリン大会にはチーム最年少の19歳で出場。最終ラップを56秒で走り抜け、見事に8位入賞。レース後はヒトラーの謁見も受け、「君があの猛ダッシュのフィニッシュをした選手か」と驚くほどだった。

(C) 2014 Universal Studios. All Rights Reserved.

オリンピックではなく、捕虜として東京に連行…

ルイの次の目標は、東京大会。しかし、東京大会、代替のヘルシンキ大会も欧州の戦火の影響で中止に。彼自身も1941年にアメリカ陸軍航空隊に入隊。B-24爆撃機の爆撃手として日本軍占領下の「ナウル島」の作戦に参加した。1943年5月に行方不明になった友軍機を捜索するために偵察中にB-24のエンジントラブルのため海へ不時着。2人の戦友とともに漂流生活を送ることになる。サメと闘い、アホウドリを手づかみで捕獲し、食用にしたり、雨水を貯めて飲むといった過酷なサバイバル生活。戦友の1人は亡くなってしまう。

(C) 2014 Universal Studios. All Rights Reserved.

47日間の漂流生活の末、日本軍の捕虜に。やがて、ルイは日本へ連行される。「ここは東京か、俺は東京五輪に出るはずだったのか」と呟くルイに、友人は「そうか、夢が叶ったな」と皮肉で答える。移送先の大森捕虜収容所で待っていたのは、拷問だった。渡邊睦裕伍長はオリンピック選手だったルイを厳しく扱い、プロバガンダ放送で日本のことをよく宣伝するよう強要される……。

本作は2014年12月に全米公開されたが、日本では原作での捕虜に関する扱いや数字を巡って、事実誤認や捏造があるとして、映画の公開中止を求める署名運動が展開された。日本国内での配給権を持つ東宝東和は公開を見送り、独立系映画会社「ビターズ・エンド」によって2016年2月、東京・渋谷のシアター・イメージフォーラムをスタートに順次全国公開されたといういわくつきの作品だ。

もちろん、フィクションとはいえ、事実に基づいた映画である以上、正確さは必要だが、原作で問題となった箇所は劇中にはない。日本軍による捕虜虐待のシーンは見ていて、同じ日本人として、気持ちいいものではない。ただ、この映画の本筋は、五輪を目指していた若者が戦争という大きな時代の波に巻き込まれ、翻弄されながらも、己の信念を曲げず、力強く生き抜く姿を描いたものだ。

(C) 2014 Universal Studios. All Rights Reserved.

ルイを虐待する渡辺伍長役を演じたのは、「サムライギタリスト」の異名を持ち、国際的に活躍し、NHK紅白歌合戦にもギタリストとして参加したロックミュージシャン、MIYAVI。アンジーは元々、MIYAVIのファンで出演をオファーしたという経緯があり、反日という意識はないように思える。

長野五輪で聖火ランナーを務めたルイ

東京でのメイン舞台は、人工島の一角にあった大森捕虜収容所。昭和14年頃から埋め立てが進んだが、戦争の激化とともに工事は中止になり、当時は細い桟橋があるだけだった。戦後は一転して、戦犯の収容所となり、東条英機らA旧戦犯が巣鴨刑務所に移送されるまでの間、収容されていた。現在は「平和島」と言われ、収容所は平和島競艇場の一角に位置する。平和島の由来も、戦争の記憶が残る地であったから、という。

戦後、PTSDに悩み、一時は渡辺への復讐も考えたというルイだが、かつての刑務官たちと再会し、日本兵たちの行為を許すことで、自身も救われたという。ただ、戦犯指名されながらも逃亡を続けた渡辺は、ルイとの面会を最後まで拒否した。

ルイは1998年の長野オリンピック大会で聖火ランナーとして、かつて自身が収容された直江津収容所のある上越市を走っている。東京2020の開催意義を再確認するためにも、今こそ、見てほしい1本だ。

『アンブロークン 不屈の男』

Blu-ray:1,886円+税/DVD:1,429円+税 発売中

発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント

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