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コラム

東京パラ・砲丸投げの金メダル候補は愛されキャラ

2019年5月8日 13:00配信

取材・平辻哲也

 パラリンピックデビューとなった2016年のリオ大会で、いきなり金メダルを獲得したのが、砲丸投げ(F41クラス)のドイツ代表のニコ・カッペル選手だ。同じドイツの低身長症選手、マティアス・メスター選手に憧れ、08年に競技人生を本格化。WOWOWのパラリンピック・ドキュメンタリーシリーズ「WHO I AM」の太田慎也チーフプロデューサーは、何でも笑いに変える“愛されキャラ”でありながら、一方で知性溢れる彼に魅力を感じたという。東京大会でも注目選手だと語る。

 カッペル選手は1995年、ドイツ・シュツットガルト近郊生まれの24歳。15年、カタール・ドーハで開催された世界選手権で、12.85mを記録し銀メダルを獲得。パラリンピックデビューとなった16年リオ大会ではわずか1センチ差の13.57mで金メダルに輝く。17年の世界選手権でも13.81mを出し、金メダルを獲得し、メディアにも引っ張りダコの人気者だ。

――ニコ・カッペル選手の魅力はどんなところですか?

「低身長症の砲丸投げ選手として初めて14mの大台を超え、自己ベストは14.02mです。とにかく、キャラクターが最高です。彼のインスタグラムを見たら、お腹を抱えて笑ってしまいますよ。番組では、自宅のキッチンシーンがあるんです。彼はガールフレンドとお皿を洗ったり、キュウリを切ったりする中、高い所にある棚からサランラップを取ろうとするんです。彼は踏み台を持ってきて、ヨイショと取るんです。微笑ましく思わず笑みが出てしまうんですが、ニコは『確かに踏み台を使っているけど、健常の人が1日2回使わなきゃいけないとしたら、僕は5回使う、それだけの話なんだよ』と言うわけです。さらには、『ただね、床に物が落ちたときのことを想像してみろよ。僕の方が絶対、早く拾えるから』と、ね。この言葉が最高でした」

――言い得て妙ですね。

「そうですよね。何かが欠けているとか、“普通”のことが難しいという考えで見ているのは、こっち側だけの話であって、実は、人それぞれできることはいっぱいあるし、“普通”のことは人の数だけあるし、それぞれ違っていいんです。確かに、何か物を落としたら、ニコの方が絶対早く拾えるんです。そんなことを言われたら、素敵だなと思うんです。しかも、ユーモアを交えて言ってくれます。ニコは見ているだけで面白い。椅子に座っても、足が床にはつかないから、ブラブラさせるんです。それが周囲から見ていて面白いということを本人も分かっているから、あえてそうしながらこちらを見て微笑んでくるんです。低身長であることは、ただの個性なんだと思いますよね」

――「これが自分だ!」という番組名通りですね。その人間力が素晴らしいです。

「そう思います。価値観というのはこうやって変わるし、素敵な気持ちになります。彼はそういうエネルギーを持っていますね。このシリーズに携わっていると、彼だけではなく、素晴らしい人たちにたくさん出会えるんです。今はシーズン4の制作中ですが、シーズンを重ねるにつれ、そういう「生き方・考え方」のようなものを描きたいと思うようになりました。もちろん競技として『勝った』『負けた』を追い求めている人たちだから、その部分は描くのですが、彼らと接していると、『この人は人生という舞台の勝者なんだ』と思わされます。番組をご覧になる皆さんは、『あなたは彼らのように輝かしくて誇らしい人生を送れていますか?』と伝えたい。シーズンを重ねるごとに、できるだけパラアスリートの生き方や考え方を引き出すような取材にどんどんシフトしていっています」

――そんなパラアスリートに共通していることはなんでしょうか?

「ズバリ、ポジティブシンキングですね。それはパラリンピアンだからでもなく、障がい者だからではなく、ポジティブに生きている人だからなんだと思います。僕らは、彼らの生き方・考え方に触れることで、『どうすれば自分も人生が輝くのか』というヒントや、ちょっとした意識の持ち方の違いでその後の結果が変わるということを教わっています。番組を見てくださる方にもそういう内容を届けたいと考えています。選手たちの印象的な言葉を並べると、『障がい』という言葉は一切出てきません。たとえばあるアスリートは、“物事のポジティブな面を見るか、ネガティブな面を見るか。それによって、後々、大きな違いが生まれる”と言っていました。それは、老若男女、国籍も宗教も障がいの有無も問わず、万人に共通する考え方だなと思ったんですよね」

――サポートする側の人たちはいかがでしたか?

「ご家族も皆さんポジティブだなと感じます。この親だから、この子がいるということを思わされる場面が多いです。ただ、そんな中でも、先天性の障がいのある選手のお母さまの話を聞くのは、とても神経を使います。いまキャリア絶頂にあるアスリートたちの多くが生まれた80年代などは、まだエコー検査が普及していない時期だったり、そもそもそういう設備が満足に整っていない国もあります。出産して初めて障がいを知ったというケースも少なくありません。それでも、『今の息子の姿を見て、ちょっと心が救われたんです』とも語ってくれています。ニコのお母さまは、『彼の背が小さいからって、何も変わらないし、特別扱いなんてしなかった。だって、愛する息子なのだから』というような話をしてくださいました」

(続く)

「WHO I AM」の特設サイト

シーズン1、2の本編(全16番組)はここから無料で観ることができる。

「WHO I AM」とは?

WOWOWと国際パラリンピック協会(IPC)が、2020年の東京オリンピック・パラリンピックまでの5年間にわたって、世界最高峰のパラアスリートたちに迫るパラリンピック・ドキュメンタリーシリーズ。現在、シーズン3まで放送されており、24人のパラアスリートを取り上げている。勝負の世界だけでなく、人生においても自信に満ちあふれる彼らが放つ「これが自分だ!=This is WHO I AM.」という輝きを描く本シリーズは2018年、世界最高峰のテレビ賞「国際エミー賞」にノミネートされるなど国内外で高く評価されている。

太田慎也(おおた・しんや)

大阪府吹田市出身。2001年WOWOW入社。編成部でスポーツ担当やドキュメンタリー企画統括を経てドキュメンタリー番組のプロデューサーに。日本放送文化大賞グランプリやギャラクシー賞選奨を受賞。「WHO I AM」では国際エミー賞ノミネート、アジア・テレビジョン・アワードノミネートの他、ABU(アジア太平洋放送連合)賞最優秀スポーツ番組、日本民間放送連盟賞 特別表彰部門 青少年向け番組優秀(2年連続)などを受賞。

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