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東京五輪2020

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卓球で金メダルを目指す伊藤美誠 二人三脚で歩んできた東京五輪への道

2020年1月8日 13:00配信

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 東京オリンピックの卓球競技で日本代表入り確実となった伊藤美誠には、長年にわたって寄り添ってきたコーチがいる。2人でつかみ取った東京オリンピックへの切符。その道のりを振り返る。

(C)Getty Images

(文=佐藤俊)

伊藤美誠の専属コーチになって7年目 貯金を切り崩しながらコーチ業を始める

 伊藤美誠は11月に卓球の国際大会であるオーストリアオープン女子シングルスで優勝し、来年1月の世界ランキングで日本人選手の上位2人以内に入ることが確定。東京オリンピックの代表入りが確実となった。正式に決定すれば、リオデジャネイロオリンピックに続いて2度目のオリンピック出場になる。

 その伊藤を支えてきたのが、松崎太佑コーチである。

 試合でタイムアウトやセットが終わるごとに伊藤がベンチに戻り、コーチと話をしてアドバイスをもらっているシーンがテレビなどでよく見られる。その際、真剣な表情で伊藤と話をしているのが、松崎である。

 松崎は、伊藤が中学1年生のときからコーチを務めている。練習相手としては小学4年生からで、伊藤が大阪で卓球をすることを契機に専属コーチになった。

「美誠のコーチになりたいというよりも卓球が好きだから、より多くの時間を卓球に関われると思ってそうしたんです」

 その当時、松崎は静岡の信用金庫に勤めていたが退職し、しばらくは無給で貯金を切り崩して生活しながらコーチをしていた。専属のコーチ経験などないので、練習のカリキュラムも自分で考えた。もともと動画が好きで、静岡にいたときは1日1試合を見ていたという。動画を見ながら対戦相手の分析をし、練習メニューは試合での反省と予習を繰り返すことに集中した。勝った試合、負けた試合、戦術的に狙われて対応できなくて失点したシーンを取り上げ、次から失点しないようにする練習をしていたのだ。

「実戦を生かしたプログラム作りです」

 伊藤が中学1年生のときは練習メニューの80パーセントを松崎が作っていたが、2年生になると50パーセント、3年生になると80パーセントを伊藤が決めるようになった。それは伊藤自身が試合で負けて自分が悪いと思ったところを理解し、松崎がやってほしいと思う練習と伊藤がやりたいと思う練習がシンクロしてきたからだった。だが、時には見方の違いや意見に相違があり、言い合いになることもある。エキサイトして口げんかになることもあるが、5分後には自然と話をしている。「ひきずらないのは性格的にすごく似ています」と松崎は笑う。

伊藤美誠の勝利の陰に2冊のノート 地道な作業で金メダルを目指す

 そのときから松崎が書き記してきたノートがある。

 対策ノート、戦術ノートである。対策ノートは対戦相手の特徴などの情報を書き込んだもの。例えば、カットマンが次の対戦相手の場合、見開きの半分に相手の動画を見て松崎が思ったことを書き、もう半分に伊藤が書いた。大会前にそれを見て練習内容を組み立て、試合に入る前に相手のことを再確認して試合に入る。

 もうひとつのノートは、試合中に戦術的なことを書いている。どういう戦術で点を取れたのかを書いておくと、また次に同じ選手と対戦したときにそれが生かされる。そうしたノートが80冊を超えた。海外遠征に持っていくのは大変なので、今はタブレットに書き込んでいる。ただ、試合内容については、まだノートに書き記すことが多い。フリーズしたり、消えてなくなったりすると恐いからだという。

 対策をして準備をしても、うまくいかないこともある。

 リオデジャネイロオリンピックのとき2回戦の相手はオーストラリアの選手ではなく、ヨーロッパの強豪オランダの選手を予想していた。だが、オーストラリアの選手が勝ち上がって来たのだ。その選手の情報はほとんどなく、前から準備していたものが役に立たなくなってしまった。

 だが、上位の対戦になると動画をひたすら見て研究する。分析しきれずに見続けていたら朝になって、2時間しか寝られずに試合会場へ行くということもあった。

「動画を見て分析せずに寝てしまい、それで負けたらすごく後悔する。準備不足で負けることがないようにしています」

 対戦相手は成長し、変わっていく。常にアップデートして、情報を入れていく。コーチ業は決してラクな仕事ではない。だが、卓球が好きな松崎は、それが「楽しい」という。卓球好きの人間にとって卓球のコーチは天職なのだ。

 リオから4年、今度は東京オリンピックの個人と団体で2つの金メダルを目指す。

 伊藤は、目標をはっきりと見据えている。

「もっと実力を上げて、どんな場面でも余裕を持って戦える選手になりたい。目標はひとつひとつ、目の前の試合を勝ちきることなので、どの大会でもそれを達成してオリンピックでしっかりと優勝したい」

 伊藤の目標達成のために、松崎はしっかりとサポートしていく。ただ、やることは変わらない。試合を見て、反省し、予習復習をする。

「その繰り返しでここまでやってきた。強くなる秘訣はないですよ」

 東京オリンピックで勝つために地道な作業はまだ続く。

 

 

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