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東京五輪2020

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体操個人総合で五輪3連覇を目指す内村航平 かつてない試練を乗り越え未来を切り開く

2020年1月29日 13:00配信

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東京オリンピックの体操個人総合で大会3連覇を目指す内村航平だが、その東京オリンピックの切符をつかみ取るために試練が襲いかかっている。それを乗り越え3連覇を達成したときに、内村には新たな未来が切り開かれるという。体操界の生きるレジェンドが新たに求めているものとは――

文=佐藤俊

オリンピック3連覇がかかる内村航平 待ち受けるかつてないほどの試練

 2020年オリンピックイヤー。内村航平にとって、いよいよ勝負のシーズンが始まる。

 リオデジャネイロオリンピック体操競技の個人総合で金メダルを獲得し、ロンドンオリンピックから数えて東京オリンピックでは個人総合3連覇がかかっている。「集大成」と内村が位置づけた東京オリンピックは、体操人生をかけたステージになる。

 しかし、リオデジャネイロオリンピック以降、内村にはかつてないほどの試練が続いている。リオデジャネイロオリンピックの翌年に行われた2017年世界選手権の跳馬で、着地時に左足首を負傷して棄権した。そのため、2009年から継続していた世界選手権の個人総合7連覇を逃した。2018年は全日本選手権で3位に終わり、国内大会の個人総合では2008年9月の全日本学生選手権の2位だったとき以来10年ぶりに敗れた。

モチベーションの低下、年齢の壁、度重なる負傷 「ツケが回ってきている」

 30歳を前にして、内村はいろいろな“変化”を感じていた。

 まず、モチベーションの維持が難しくなった。以前は、大きな目標を立てるとマイナスなことがあってもモチベーションを維持できていたが、今は下がると「なかなか戻って来れない」という。モチベーションが停滞したときは自分の目標を忘れるようにして、普段と違うことをしてみた。あえてルーティンを崩すことで変化が生まれ、モチベーションが少しは保てるようになった。「若いときは、ほぼ何も考えずにやっていたんですけどね」と苦笑する。

 25歳から身体に痛みが出るようになり、27歳で体力的な衰えを感じ、痛い箇所がグンと増えた。体操は重力に逆らう運動なので、身体に非常に負荷がかかる。そのために若いときには出なかった痛みが、あちこちに出るようになった。

 同時に、年齢の壁を感じた。

 内村がいう年齢の壁とは、「昔の自分と比較してしまうこと」だった。昔はできていたのに、なぜ今はできないのか。これまで勝ち続けてきたプライドがあり、世界のトップという自負もある。常に、一番良かったときの自分と重ね合わせてしまうのだ。

 だが、もう昔の自分ではない。そこで葛藤が始まる。今の自分を認められるかどうか。内村はこのとき、少し時間はかかったが「今は今のやり方がある」と、今の自分と向き合った。また、痛い箇所がどういう動きで痛くなったのかを分析し、痛くならないように体操の動きのなかで反復して動きを矯正していった。内村は筋力トレーニングはせずに、動きの中で筋肉を鍛えるのだ。そうすると、徐々に体が動くようになった。

 それが2018年の春だった。

「このとき、年齢の壁は越えられました」

 壁を乗り越えたことで、内村の視線の先に2018年の世界選手権が見えてきた。しかし、跳馬の練習中に右足首を負傷した影響が出て、世界選手権の個人総合出場を断念した。

 捲土重来、復活を目指した2019年は、2018年よりもさらに厳しいシーズンになった。2018年の世界選手権後に痛めた右肩に加え、2月には左肩痛を発症。両肩痛に苦しみ、4月の全日本選手権ではあん馬で落下し、平行棒では演技途中で肩の痛みのために中断。得意の鉄棒で着地に失敗して、顔からマットに突っ込んだ。37位で予選落ちとなり、10月の世界選手権出場への日本代表入りを逃した。そのニュースは世界中を駆け巡り、「内村に試練」と驚きを持って報道された。

 失意の底に落ちた体操界のレジェンドは、「何をしたらいいのかわからない。気持ちを高めて練習しているのに(肩の痛みで)できない。東京オリンピックは夢物語。このままじゃ無理」と力なく語った。結局、このシーズンは満足のいく体操ができず、2019年を表す漢字を問われると「痛」と書き込むほど、“痛み”に苦しんだ1年だった。

「北京からロンドン、ロンドンからリオ、リオから東京でいうと、リオから今までが一番たいへんです。まだ終わってないですけど、これだけキャリアを積んでうまくいかないなって言うのは、今までの競技人生ではなかった。今までオリンピックで良い思いをし過ぎた。ここに来てツケが回ってきているのかなと思います」

新たに内村航平が求めるもの 「いろいろな人に影響を与えられる選手になる」

 だが、このまま終わる内村ではない。

 今年は4月の日本選手権をはじめ、東京オリンピックの出場権をかけて戦うことになる。両肩は強度の高い練習ではまだ痛みが出るが、6種目すべての演技ができるように調整を続けている。それはもちろん東京オリンピックに出場して金メダルに挑戦するためだが、内村はメダルだけではなく違う何かを求めている。

「体操を含めて、いろいろな人に影響を与えられる選手になる」

 内村は体操界では“長老”であり、レジェンド的な存在だが、いろいろな競技に影響を与えられる存在ではないと感じていた。目標となる理想の存在は、世界的なスーパースターである「ウサイン・ボルト」である。

「ウサイン・ボルトは引退したけど陸上界のスター選手だし、どの分野の選手にも刺激を与えていた。アスリートとして本物かなと思います」

 そのためには、オリンピックの舞台で絶対的な結果が求められる。

 まずは、東京オリンピックへの出場権を獲得することが最優先だが、内村が本番で個人、団体、種目別のいずれかで金メダルを獲得すれば、そのポジションの域に達することは十分に可能。

 そうなると体操界だけではなく、いろいろな競技のアスリートや世界の人たちに影響を与えられる存在になれるだろうし、それは内村自身の「これから」をさらに切り開くものになる。

 東京オリンピックは、それを実現するラストチャンスになる。

 

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