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内紛騒動で注目されたテコンドーの代表選手決定 20年ぶりのメダルでイメージ一新なるか

2020年2月26日 13:00配信

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テコンドーは協会が内紛騒動で揺れて、思いがけずに大きな注目を集めることになった。東京オリンピックに出場する選手が内定したが、さまざまな思いを背負ってメダルを目指す。逆風に立たされているテコンドー代表選手たちが募らせる思いとは――

(C)Getty Images

(文=平野貴也)

「テコンドー? あの?」と嘲笑の的 内紛騒動でイメージが悪化

 競技のイメージを変えられるか。夢舞台は、思わぬ課題に取り組む大会となった。2000年シドニー大会からオリンピックの正式競技となっているテコンドーは、韓国発祥の格闘技である。本来であれば、競技名からイメージされるのは華麗な足技のはずだが、現在の日本では別のイメージが先行する。昨年末の内紛騒動、テレビに多く登場した前全日本テコンドー協会会長の金原昇氏のイメージが先に思い浮かぶ人のほうが多いだろう。取材をしている筆者の周りもそうだ。「テコンドー? あの(騒動の)?」と笑われる。

 詳しくない人も多いだろうから、少しだけ騒動を振り返る。昨秋、強化体制をめぐって選手が協会に見解を示すように要求。明確な回答を得られずに合宿をボイコットし、対立が表面化。以降、話し合いを重ねたが解決せず、10月に理事が総辞職。12月に外部有識者で構成する検証委員会の主導で体制を一新した。この期間、選手は競技イメージの悪化に心を痛めたり、無力さを感じたりしながらも、自身の競技力向上に専念してきた。2月9日に岐阜県羽島市立桑原学園体育館で行われた東京日本代表最終選考会では、各選手がオリンピックにかける思いを熱くぶつけあった。

シドニー五輪以来20年ぶりのメダルを目指す代表4選手

 日本は選手個人での五輪出場権を得られなかったが、開催国枠を適用。昨シーズンの実績により全日本テコンドー協会は男女の軽量2階級で採用を決定。各階級1人、計4人の代表選手が出場する。オリンピックにおける日本選手の獲得メダルは、2000年シドニーオリンピックにおける岡本依子の銀メダルのみ。長らく苦戦を強いられているが、今回は開催国枠で複数選手が挑戦できる利点を生かし、20年ぶりのメダル獲得を目指す。難しい目標ではあるが、前回大会よりも確実に日本人選手の力は高まっている。男子58キロ級の鈴木セルヒオ(東京書籍)と女子49キロ級の山田美諭(城北信用金庫)は、ともに前回のリオデジャネイロオリンピック出場をあと一歩で逃したが、2018年のアジア大会で銅メダルを獲得している。

 鈴木は日本生まれだが5歳から母の祖国であるボリビアに移住し、当地で競技を始めた。テコンドーの本場・韓国の漢城高校を経て日本の大東文化大へ進み、国際色豊かなキャリアを築いた。右肩の負傷明けで臨んだ最終選考会では、堅実な守備を見せながら鋭い左の中段蹴りでポイントを稼いで勝ち上がった。「国際大会で良い勝負をできるけど勝ち切れない段階」と自認しているが、今後はトップ選手対策を練ることで差を詰める考えだ。

 山田は前回の代表選考会で大ケガを負い、引退も考えたが再挑戦を選んだ。優しい表情の美女だが、試合になれば気合い満点。体幹が強く左足を相手に向けて上げた状態から横蹴りを放って、追い込みながらステップを踏んで距離を制圧して攻撃を組み立てる。五輪に向けては「(得点の高い)回転技が苦手なので、出せるようにします」と意気込んだ。

 メダルに近いのは上記の2人だが、もう1人飛び抜けた実績を持っている選手がいる。女子57キロ級の濱田真由(ミキハウス)は、3大会連続で出場する。2015年世界選手権の優勝者だ。ただし、2019年2月に行われた日本選手権の後に、長く痛めていた股関節を手術。同年11月に復帰したばかりで、まだ本調子ではない。最終選考会では得意の蹴りではなく、胴への突き(パンチ)で点を稼いだが苦戦。「不甲斐ない。負けたような感じがする。3年間のもうちょっと良いパフォーマンスを見せたかったが、無力さを感じた」と涙を見せた。体力を戻して感覚が変わった自身の体を使いこなし、新たな戦術を身につけられるかがポイント。所属道場の古賀剛コーチは「相手は今までのイメージしか持っていないので、逆に利用できるかもしれない」とニュースタイルでの挽回に意欲を示した。

 そして、もう1人の代表内定者が男子68キロ級の鈴木リカルド(大東文化大)だ。男子58キロ級の鈴木セルヒオの弟。兄を追って2017年にボリビアから来日した。まだ19歳と若く伸び盛りだ。力強い前蹴りで間合いを制する。技巧派の兄との練習などで、技術や駆け引きを学んでいる。兄のセルヒオが「鈴木家のなかでも怪獣みたいな扱い。身体能力がすごい」と絶賛するポテンシャルを秘めている。女子57キロ級の濱田が、初出場だった2012年ロンドンオリンピックでがむしゃらに攻めて8強入りしたような若さあふれる戦いが期待できる。

競技人口に反比例する熱い想い 結果をもってイメージ一新を図る

 前回のリオデジャネイロオリンピックは濱田しか出場できなかったが、今大会は4人が出場できる。国内で、いまだテコンドーを詳しく知らない多くの観衆に、日本のテコンドーを見せる絶好の機会だ。鈴木セルヒオは「こういう(内紛による騒動という)形だけど、テコンドーが注目された。勝って盛り上げて、パフォーマンスと結果で貢献したい」と話した。騒動でマイナスイメージが強まったことは否めないが、現場の熱気や努力の価値は、変わらない。

 少しだけオリンピックと離れた話題になるが、日本テコンドー界の現場を知ってほしい。最終選考会の場では、多くの選手が全力で五輪切符に挑み敗れて涙を流した。濱田の兄である康弘は、男子68キロ級で敗れている。「(各階級で)1人しか行けない。兄もそうですけど、たくさんの選手が夢(に届かず)、オリンピックに出られなかったので、思いを持ちながらやっていきたいと思います」と語った。

 濱田の兄が戦った男子68キロ級は本命なき混戦模様だった。初戦、終盤の猛反撃も届かず敗れた栗山廣大(ROAD CAR)は警察官を辞めて競技に専念し、人生を懸けた戦いに臨んでいた。試合後、会場入り口で応援に来た関係者に囲まれていたが、泣いているのは本人だけではなかった。

 その栗山を破った本間政丞(ダイテックス)も延長戦で涙をのんだ。会場で最も派手な応援をしていたのが、彼の応援団だった。2点先取で決まる延長戦。互いに前に出た刹那、相打ちのようなタイミングだったが、ヒットしたのは鈴木リカルドの蹴りだった。胴への蹴りは2点。2人の明暗が分かれたのは、ほんの一瞬のことだった。敗れた本間は困惑のなかで、「日本で一番の応援団だと思っている。うれしかった。テコンドーは競技人口が少ない(マイナー競技)。それでも競技費を出していただいて、皆さんは自腹でここまで応援に来て下さった。オレなんかのために。だから恩返しをしたかった。悔しいです」と涙が止まらなかった。マイナー競技ゆえに、なかなか環境に恵まれない。そのなかで多くのサポートを得ながら、好きな競技に取り組み恩返しに燃えている選手たちの世界なのだ。

 大会では、村上智奈(炫武館)や森本理子(KISHUKAI)ら将来性のある現役高校生も躍動していたが、社会人になれば競技の続行が難しくなるのが現状だ。テコンドーという競技が周囲に認められるかどうか、代表4選手は未来を背負って戦う戦士でもある。東京オリンピックのテコンドーは、7月25日から28日まで千葉県の幕張メッセで開催される。日本勢として20年ぶりのメダルを獲得し、騒動の顛末ではなく「テコンドー? メダル取ったよね?」という会話が聞こえる未来へ進もうとする選手の戦いぶりに、ぜひ注目してもらいたい。

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