マラソン界を席巻する“厚底シューズ” 東京五輪でさらに勢力拡大か!?
2020年3月18日 16:00配信
東京マラソンで大迫傑が日本記録を樹立するなど、マラソンを中心に好記録が飛び出す陸上の長距離部門。その背景にはテクノロジーの進化があり、“厚底シューズ”として注目を集めている。その“厚底シューズ”の過去をひもとき、未来を見据えてみよう。
(文=和田悟志)
注目が集まる“厚底”シューズの歴史 4年前にプロトタイプが参上
近年、駅伝やマラソンが開催される度に大きな話題を呼んでいるのが、ナイキの“厚底シューズ”だ。特に2019−20シーズンは、東京五輪日本代表選考レースのMGC(マラソングランドチャンピオンシップ)で男子の上位を占めたのをはじめ、年末年始の高校駅伝、ニューイヤー駅伝、さらには箱根駅伝で同シューズを履いた選手の活躍が目立ち、好記録も相次いでその度に話題となった。
そもそも、ナイキの“厚底シューズ”の登場は2016年のリオデジャネイロオリンピックまで遡る。リオデジャネイロオリンピックでは男子マラソンの上位選手が、“厚底”のプロトタイプのシューズを着用。翌年にはリオデジャネイロオリンピックを制したエリウド・キプチョゲ(ケニア)が、マラソンで2時間切りを目指す「Breaking2」に挑み、いよいよ多くの人に知れ渡ることになった。そして、同年7月に「ナイキ ズーム ヴェイパーフライ 4%」という製品が一般発売された。
「ナイキ ズーム ヴェイパーフライ 4%」が登場する以前の“厚底シューズ”は、ファンラン層(ランニングを楽しむ人)に向けたものが多く、見た目どおりクッショニングに優れていた。それに加えて着地安定性、着地時に足が内側に倒れ込まないようにする機能があるなど、サポートシステムに富んだものが多かった。もちろん、そういったファンラン向けのシューズとコンセプトは異なるが、トップ選手が厚底シューズを履くようになったのは画期的だった。
「ナイキ ズーム ヴェイパーフライ 4%」からアッパーの素材を変えた「ナイキ ズーム ヴェイパーフライ 4% フライニット」にアップデートされ(「ナイキ ズーム ヴェイパーフライ エリート」というモデルも限定発売されたこともあった)、昨年4月にはさらに改良された「ナイキ ズームX ヴェイパーフライ ネクスト%」が登場した。「4%」はトップ選手向けの印象が強かったが、「ネクスト%」はより汎用性のあるシューズになり、さらに店舗やネットショップでも入手しやすくなったことで爆発的に広がった。
また、昨年10月にはキプチョゲが非公認ながら、人類初となるマラソン2時間切りを達成(新シューズのプロトタイプを着用)。女子も、シカゴマラソンでブリジット・コスゲイ(ケニア)が16年ぶりの世界記録となる2時間14分04秒で走った。ナイキの“厚底シューズ”はいわば“魔法のシューズ”として、いっそう注目度が高まった。
長距離シューズはナイキの独走状態 新しい規定が決まり他メーカーも追随
しかし、今年に入って、この厚底シューズに規制がかかるという報道が入った。実際に、世界陸連による調査があり、1月31日には新しくシューズの規定を発表した。「ソールの厚さは40ミリ以内」「反発力を生み出すために用いられるソール内のプレートは1枚までとする」「健康上の理由がある場合以外、カスタマイズ品は認めない」「市販開始から4カ月以上」といった規定が設けられ、これらは4月30日から施行される。ナイキの「ナイキ ズームX ヴェイパーフライ ネクスト%」は、これらの規定をすべてクリアしており、今後も競技会での使用が認められることになった。
さらに、今年2月には新作シューズの「ナイキ エア ズーム アルファフライ ネクスト%」が発表(3月1日から先行発売)。見た目はいっそう分厚いが、ソールの厚さは39.5ミリと新規定をクリアしている。すでに、このシューズのプロトタイプを履いてキプチョゲは偉業を成し遂げているが、3月1日の東京マラソンでは大迫傑(ナイキ)がこのシューズで自らの日本記録を塗り替えた。
「どれだけ新しいシューズの効果があったかは(レース直後の)今の時点では言えが、ナイキの新しい技術を使えるというのは自分たちにとって強みです」と大迫はレース後に話した。
まだまだ「ナイキ ズームX ヴェイパーフライ ネクスト%」で走っている選手も多かったが、今後は「ナイキ エア ズーム アルファフライ ネクスト%」も大きな注目を集めることになるだろう。
また、ナイキだけでなくニューバランスやアシックスなど、他のメーカーも続々と新製品を発表している。昨年の大河ドラマ「いだてん」の主人公の1人だった金栗四三はマラソン足袋を履いて日本人として初めてオリンピックに出場したが、その時代からシューズは大きく進化した。シューズの技術革新はこれからも続くだろう。今はナイキの独走状態が続いているが、今後は他のメーカーのシューズにも注目したいものだ。
最後に、“厚底シューズ”で好記録が続出しているとはいえ、シューズはその要因の1つに過ぎないということを付け加えておきたい。
「シューズは進化しているが、選手の努力があってこその結果だと思う」
瀬古利彦(日本陸連マラソン強化戦略プロジェクトリーダー)は、このように話していたが、全くそのとおりだ。あくまでも主役は選手であることを、我々は忘れてはならない。