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東京五輪2020

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五輪中止も検討された大会中のテロ事件 史実に基づいた映画から得られる教訓

2020年9月10日 14:20配信

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オリンピック史で初の延期が決まった東京オリンピックだが、大会中におきた事件によって中止を検討された大会が過去にはある。いずれの事件も有名監督によって映画化されており、平和への願いや安全対策といった教訓を得られる。別の要因ではあるが延期となった異常事態のなかで、ホスト国となる我々はその映画から学べることがあるだろう。

(文=福島成人)

(C)Getty Images

テロリストが選手村に籠城 銃撃戦の末に最悪の結末へ

 新型コロナウイルスの世界的な感染拡大により、東京オリンピックは1年の延期が余儀なくされた。80年前に開催予定だった1940年東京大会など、戦争を理由に中止された大会がいくつかあることは広く知られているが、大会期間中に発生した事件で中止になりそうになったケースが2回ある。

 その事件は、いずれも世界的な巨匠の手により映画化され、未来への教訓を訴えている。

 1972年8月26日、盛大な開会式でミュンヘン大会はスタートした。大会10日目となった9月4日には用意された195個の金メダルのうち124個が授与され、大会も終盤に差し掛かっていた。競技の緊張から解放された選手のなかには、選手村を抜け出してドイツ名物のビールとソーセージで楽しんでいたものも多かったようで、順調に進むスケジュールにお祭り気分が強くなり緊張感も緩んでいた時期だった。そんな日の未明に空気を凍らせる事件が発生した。

 夜明けに選手村を巡回した警備員が射殺死体を発見。直後に何者かがイスラエル選手たち9名を人質にして、選手村に立てこもっていることが明らかになった。その正体は「黒い九月」と呼ばれるパレスチナの過激派組織で、イスラエルに収監されているパレスチナの同志らの解放と脱出のための飛行機を手配するように要求した。

 地元警察による交渉が重ねられたなか、犯人側の要求に応えて移動用のヘリコプターを準備。テロリストらは人質と連れて選手村から空港に移動した。その間は選手村と同じ敷地にあったメインスタジアムでの競技は中止されたが、別会場の競技は予定どおり行われていた。そして、航空機を用意していた空軍基地でテロリストらと警官隊による銃撃戦となり、テロリスト5名、警官1名に加えて、人質のイスラエル代表選手とコーチ9名が死亡いう最悪な結末を迎えることになった。

 その後、翌日からの大会中止を訴える声もあったなか、午前中にメインスタジアムで追悼集会を開いて大会は午後から再開されることになり、最終的には大筋として予定どおりに閉幕した。

 数々のヒット作を世に送り出しているスティーブン・スピルバーグ監督は、この事件とイスラエルによるその後の報復を描いた『ミュンヘン』という映画を2005年に公開している。作品の冒頭でテロリストたちがゲートを乗り越えて選手村に侵入したところを目撃した警備員が、「門限を破った選手たちが戻ってきたのだろう」と見逃すシーンがある。しっかりとしたテロ対策が求められる現代のセキュリティ観念では考えられないが、このヒューマンエラーは史実なのだ。

死傷者111名の大惨事 大会を盛り上げるオリンピックパークでの爆破事件

 そして今年になり、もう一つのオリンピックにまつわるテロの顛末が映画化された。俳優としても名作を残すクリント・イーストウッドが監督した、『リチャード・ジュエル』である。

 1996年開催のアトランタオリンピックは、伝説的なボクサーのモハメド・アリによる感動的な聖火の点火式で幕を開けた。大会7日目となる7月27日、オリンピックパークのコンサート会場で、警備員がベンチ下に置かれた不審なリュックを発見した。オリンピックによる祝祭ムードに水を差されることを嫌った主催者が見守るなか、警察の爆弾処理班が到着。確認すると、やはり爆弾が仕掛けられていた。警官らの迅速な避難誘導で多くの観客やスタッフが難を逃れたが、釘が仕込まれたパイプ爆弾が爆発して2名の死亡者、109名の負傷者が出る大惨事となってしまったが、このときも大会は粛々とスケジュールを消化していった。

 映画では第一発見者の警備員が被害を最小限に食い止めたヒーローから一転して、容疑者として疑われFBIの徹底的な捜査とメディアの過剰報道に晒される姿が描かれる。SNSなどのインターネットメディアが発展して、誰もが発信者となれる現代社会を生きる私たちにとっても教訓になる作品となっている。

 また、この事件はいわゆる無差別テロといわれるもの。犯行予告はあったものの明確な目的は示さなかったようで、事前に犯行を予期することは難しい。そういった状況でも近年のオリンピックには厳格なテロ対策が求められている。そういったなかに新型コロナウイルス感染拡大によって、東京オリンピックは延期されてしまった。現在、大会組織委員会を中心にさまざまな対策が新たに練られていると思われるが、これまでの教訓から得られたそういった準備が多くのアスリートやファンを笑顔にするものであり、1年後の東京オリンピックも平和に開催されてほしいと切に願う。

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