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東京五輪2020

アスリートインタビュー

「応援してくれる人たちが喜んでくれる姿を想像して、全力を尽くす」ビーチバレー高橋巧の語る東京五輪への決意

2020年3月19日 11:34配信

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©中村僚

砂浜の上で、たった2人で行われるビーチバレー。室内で行われるバレーボールとは、ブロックがタッチ数にカウントされたり、ボールを扱う手の箇所が違ったりと、同じような競技でも微妙な違いがあります。

そして何より、室内バレーとほぼ同じ大きさのコートを、たったふたりで走り回る迫力は、室内バレーに勝るとも劣らないものがあります。

今回はANAセールスに所属する高橋巧選手を取材。ビーチバレーを始めたきっかけ、室内バレーとの違い、魅力、そして、ビーチバレーのこれからを語ってもらいました。

(取材・文・撮影=中村僚)

――まずは高橋選手がビーチバレーを始めたきっかけを教えてください。

高橋:大学生のときに初めてビーチバレーに出会いました。お台場で開催された4人制のオープン大会に出場して、遊び半分だったのですが、かなり難しかったんです。室内のバレーボールは子どもの頃からずっとプレーしていて、インターハイで3位に入ったこともあります。ビーチでもある程度できると思っていたのですが、屋外だと風があるし、砂浜に足をとられて滑ったり埋もれたりして、思い通りにプレーできませんでした。その大会では、年齢が倍以上ある先輩たちに負けたんです。

高校でバレーは一区切りつけたつもりでしたが、大会の惨敗が悔しくて、もう一度本気で競技に取り組もうと思いました。大学のビーチバレー部の監督に頭を下げて入部させてもらいました。これがビーチバレーとの出会いです。

©中村僚

――ずっと室内のバレーをプレーしていて、そこからビーチバレーに移ったときに、もっとも感じた違いはなんですか?

高橋:屋外なので、風の強さ、時間帯で変わる日の光、天候などが日々変わります。室内ではあまり気にかけていなかったことです。また、砂も会場によって質がまったく違います。一応砂の深さや一粒一粒の大きさは規定があるのですが、それでも会場によって固いかやわらかいか、走りやすいか、跳びやすいかが分かれます。入部したばかりのころは、ボールが風に流れてスパイクは空振り、砂に足をとられてまともに走れないなど、室内との違いに戸惑いました。

ただそれも、自然に近い状態の中で自分を解放できるような感覚があって、ものすごく楽しいんですよね。それははじめて大会に出た時から感じていました。

――そういった違いはどのように適応していくのでしょうか?

高橋:プレーする中での経験が一番です。ただその中でも、例えば上手く跳んだり走ったりできない砂の会場でも、「この砂は難しいぞ」と思ったら、プレーにも悪影響が出ます。コンディションが会場ごとに違う中で、どれだけその環境を受け入れて味方につけられるかが大事です。

――メンタルですか。室内のバレーボールよりもビーチバレーの方が、メンタルの影響は強いのでしょうか?

高橋:そうですね……。これは僕の考えですが、バレーボールは6人でプレーするから、もし自分のプレーがダメでも仲間がカバーしてくれます。メンバーチェンジもできますね。対してビーチバレーは2人しかコートに立てず、メンバーチェンジもできません。個人のメンタルの状態は、相方のプレーと勝敗に直結すると思います。パートナーをリスペクトして、どれだけ相方に気持ちよくプレーをさせるかを、お互いに意識しなければいけません。

そして人数が少ない分、必然的に個人個人のプレーの責任が大きくなります。自分がボール触ったら相方が必ず触るので、どれだけ相方のことを考えてプレーできるか。自分が100%やり切ったと思っていても、相手にとってはまだ足りない場合もあります。そういった少しのズレが生じ、重なっていくと、だんだんと大きくなっていきます。相方をどれだけリスペクトして、かつ自分もリーダーシップもとらないといけません。

©中村僚

――なるほど。高橋選手がビーチバレーに転向してから9年以上が経っていると思いますが、競技者目線、観客目線、それぞれの観点でビーチバレーの魅力は何だと思いますか?

高橋:魅力とは少し外れるかもしれませんが、自分としては、身長が大きくない選手でも活躍できることを見せたいです。世界のビーチバレー選手たちは本当に体が大きくて、2m近い選手が当たり前のようにいます。対して、パートナーの長谷川選手が188cm、自分は178cmです。自分はかなり小さい選手ですけど、それでも大きな相手と闘って勝てるんだ、ということを示したい。会場に行くと、「これからバレーボールを始めたい」という子どもから声をかけられるんです。そういう子たちに夢を見させてあげられるようにしたいですね。

観客目線では、まず単純に落ちそうなボールに体を投げ出して飛び込んで拾う気迫や、そこからすぐに立ち上がって攻撃に転じる切り換えの速さなどを見てもらいたいです。選手のボールに対する執着心はすごく強くて、集中できている時はどんなに速いボールにも反応できます。そうやってラリーが続いて、2人がつないで得点を決めた時は、会場も最高の盛り上がりになります。そこで拍手や歓声で一体感を生んでくれると、もっと楽しめると思います。

少し見慣れたら、駆け引きも楽しめるはずです。例えば味方にだけ見えるようにサインを送るのですが、サインの種類によってブロッカーとレシーバーに前後に分かれるのですが、サインによってブロッカーがストレートをブロック、クロスにレシーバーが入って守る隊形や、その逆(ブロッカーがクロスブロック、レシーバーがストレート)もあり、更にはブロックを跳ぶと見せかけ後ろに下がるというのもあります。攻撃側は、トスをあげた選手がスパイクをする選手が決めやすいよう、空いてる場所を教えたり(コール)します。それと、ビーチバレーの試合はDJが音楽を流して雰囲気を作って、お客さんもお酒を飲めることが多いんですよね。会場がエンターテイメント性を作っています。観客席が近いところに設置されて、実際に使われているボールが飛んできたり、選手の声かけが聞こえたりします。

――なるほど。そういったエンターテイメント性を生み出す演出の面でも、海外のトップレベルと日本では差がありますか?

高橋:海外は水着で観戦したり、お酒を飲んでフェスやイベントのように楽しむことに慣れている印象を受けます。アメリカの他にもブラジルが強いですし、ヨーロッパの海のない国でもビーチバレーが強かったりすることもあります。実力面だけでなく、エンターテインメントの面でも優れている印象があります。

©中村僚

――そういったエンターテイメント面も含めて、日本ではまだまだビーチバレーはマイナースポーツです。東京五輪も多くの人に認知してもらうきっかけにはなりますが、そこから発展させ競技人口を増やすには継続的な活動が必要だと思います。高橋選手は、今後のビーチバレーの普及をどのようにお考えですか?

高橋:まずコートの確保が必要だと思います。アメリカのロサンゼルスは海岸に何十面もコートがあり、親子でペアを組んでビーチバレーで遊んでいます。それくらい身近なスポーツです。ビーチバレー部がある大学も多く、若手もどんどん育っていきます。日本も東京の杉並区や平和島にコートができて、だんだんと増えてきていますが、やはりまだまだ少ないです。コートを増やすには、トップ選手が活躍して有名になって、子どもたちが「ビーチバレーやってみたい」と思ってもらうことが必要だと思います。ただ正直に言って、具体的な普及の取り組みはまだまだこれからだと思います。

個人的には、まずはビーチバレーや僕のことを知ってもらうことが大事だと思っていて、少しずつですがSNSも使っています。試合に来てくれたファンとも交流して、僕はANAセールス株式会社に所属しているので、社外の方へあいさつをしたりもします。社内でも同僚にきちんとあいさつしたり。ほんの一瞬かもしれないですけど、そういった部分に人間性が出て、応援したいという人が増えてくれたら嬉しいです。

実は以前は自分のことだけに専念して、自分の競技レベルが上がればいいと考えていました。しかし、自分勝手になっていった結果、リオ五輪の大陸予選で負けてしまい、燃え尽きて、気持ちが切れてしまった時期もあったのですが、「ちょっとずつでいいから立ち直って次も頑張れ」と声をかけてくれる人がいたり、ずっと支えてくれた家族がいたりして、どれだけまわりの人たちに支えられていたのか気づきました。それに、自分のことばかり考えていると、それがそのままプレーに出てしまうんですよね。そうすると世界では勝てない。今はANAセールス株式会社に所属させてもらっていますし、いろんな人が応援してくれているから自分がプレーできている実感が強くあるので、自分の気持ちも変わっていきました。

――なるほど。では、東京五輪ではどんなことを達成したいと考えていますか?

高橋:まずひとつは、応援してくれる人たちが喜んでくれる姿を想像して、全力を尽くすこと。ひとつひとつの試合で持てる力の全てを尽くして、いけるところまでいきたいと思っています。まずは、5月23日・24日に男子は大阪駅前、女子は高輪ゲートウェイ駅前にコートを作って大会が行われます。そこでいい結果を出して、東京五輪に出場したいです。

©中村僚

[PROFILE]

高橋 巧(たかはし・たくみ)

埼玉県さいたま市出身。春日部共栄高校を卒業後、了德寺大学に進学。現在はANAセールス株式会社所属。1991年10月1日生まれ。日本ランキング1位(世界ポイントランキング45位)

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