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東京五輪2020

アスリートインタビュー

キングオブスポーツ・近代五種の岩元勝平が語る五輪への決意

2020年4月6日 11:38配信

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フェンシング 、水泳、馬術、レーザーラン(マラソン+射撃)。まったく特性の違う5競技を、1人が1日のうちに行うのが近代五種です。持久力、瞬発力、状況判断力など、アスリートに必要なすべての要素が求められると言っても過言ではありません。

自衛隊に所属しながら近代五種の選手として活躍している岩元勝平選手。高校時代まで水泳選手だった彼は、スカウトされた当初は「近代五種を知らなかった」そう。大人になってから初めてプレーする競技が多い中で、岩元選手はどのようにトップ選手へと成長を遂げていったのでしょうか。

(取材・文・撮影=中村僚)

©中村僚

――岩元さんが近代五種を始めたきっかけを教えてください。

岩元:子どものころから高校まで、ずっと水泳をやっていました。高校の大会に出場した時、自衛隊の近代五種前監督にスカウトを受けて自衛隊に入隊したことがきっかけです。今も自衛隊に所属して、近代五種の選手として活動しています。

――近代五種というと水泳以外の種目もたくさんありますが、大人になってから初めての競技に挑戦するのはどういった心持ちだったのでしょうか?

岩元:近代五種は、フェンシング、水泳、馬術、レーザーラン(中距離走+射撃)で構成されています。水泳以外は初めてだったので、最初は不安も大きかったのですが、年々手ごたえを感じていきました。ほかにも水泳出身で他競技が未経験という先輩が多かったので、その人たちを見ながら学んでいきました。1年1年、少しずつ上達していくのが、自分でも見えてきます。

――最初に「近代五種をやらないか」とスカウトされた時はどんな気持ちでしたか?

岩元:近代五種という競技自体、まったく知りませんでした。まずネットで調べたのですが、その当時は検索でも全然出てこなくて。実は最初は、近代五種の中の水泳だけをやると思っていたんです。近代五種の班のようなものがあって、僕は水泳ができるんだと。でもいざ入隊してみたら、ランニングや馬術、フェンシングの練習が始まって「え、これ全部やるの?」と(笑)。

――水泳の経験がほかの競技に生きた部分はありますか?

岩元:僕は水泳の中でも1500mという長距離の選手だったので、体力には自信がありました。最初にランニングを走ってみた時に、近代五種ではトータルで3200mを走りますが、最初からランニングは得意でした。ただ、体の動かし方は水泳とランニングでは違って、例えば骨盤の傾き方が真逆です。そういう部分も調整していきながら続けています。

――それぞれの種目について聞かせてください。近代五種はフェンシングから始まるんですよね。

岩元:近代五種でフェンシングは「出だし」の種目で、ここで勝てないとまず上位を狙えません。総当たり35戦を戦い、勝率7割が基準点となり、フェンシングの順位がその後の種目の順番に影響します。

近代五種のフェンシングは、通常のフェンシングと試合形式が違います。通常のフェンシングは1試合の中でポイントを奪い合うので、何本か同じ相手と戦いますが、近代五種の場合は1本しか行いません。それを35試合繰り返すんです。となると、相手の出方を見るよりも、自分のスタイルを確立させ、短い試合の中でいかにそのスタイルにはめていくかが重要なんです。実際の試合の中では基準点より高い得点を目指しますが、1試合負けた時は本当に焦ります。逆に、勝っている時は何も考えずに調子がいい。フェンシングの場合、他の競技に比べて心の機微は感じますね。

――そして、フェンシングの後は水泳ですね。

岩元:一応自分の得意種目ではありますが、水泳は他の選手も総じて速い。特に日本の近代五種の選手は、ほとんどが水泳から転向した選手です。そのため、いくら僕が水泳が得意でもあまり差がつきません。

僕が少しだけ有利だと思うのは、ランニングが得意だったことです。もともと学校の持久走大会でも上位に入ったりしていて、水泳も長距離でしたし、長い距離の運動がずっと好きだったんです。

――水泳の次は馬術です。

岩元:馬術のみ、ポイントが減点方式です。300点満点で、障害をひとつ落としたり、制限時間内にゴールできなかったりすると点数がどんどん引かれていきます。上位を狙うなら馬術は満点が必須です。

馬術で難しいのは、試合の日に初めて会った馬に乗り、20分だけウォーミングアップして本番に臨むことです。加速、減速、カーブなどの合図は世界共通で決まっていますが、どのくらいの強さで手綱を引くと反応してくれるのかなどは、馬によってまったく変わります。少し触るだけで走ってくれる馬もいれば、まったくブレーキが効かない馬もいます。短い時間の中で馬のクセを探り、それに合わせないといけません。ただ、日本の馬はかなり調教されている印象です。国によって馬のクセの傾向はあります。

――そう考えると、東京五輪で日本の馬に乗って走れるのはホームアドバンテージかもしれませんね。

岩元:ただ、どの馬になるかはわからないですし、「自分が馬に合わせていく」ことが求められるのは変わらないと思います。馬の能力を超えて多くを求めすぎると、馬も嫌になって走らなくなってしまうんです。だいたい人間の3~5歳くらいの知能があると言われていて、機嫌がいい時と悪い時がありますから。

――最後はレーザーランですね。

岩元:昔は精密射撃だったので一発一発が大事でしたが、僕が近代五種を始めて1年ほど経った時にレーザーランに変わりました。800mを走り、途中でレーザーピストルで射撃を行い、5発命中させるか50秒経過したら再び走る、というスタイルです。心拍数が上がっている中で、少し体を落ち着けて、レーザーを的に当てていきます。ただ時間いっぱいまで撃つことはあまりなくて、ほとんどの選手は5発当てて当たり前。速い選手は10秒もたたないうちに走り出します。いかに速く5発当てるか、という競争です。僕は精密射撃よりもレーザーランの方が得意でした。

当たるのが大前提なので、レーザーランの勝負も駆け引きです。例えば射撃が得意な選手は、多少ランニングで遅れても射撃の速さで取り戻す、というレースを展開して、他の選手たちを自分のペースに巻き込んだりします。後から来た選手が射撃で一気に追い抜けば、他の選手は動揺しますから。そういったペースに乱されずに、いかに自分の射撃とレースで走り切るかが大事です。ランニングのタイムを上げるのはなかなか難しいので、射撃とランニングをいかに融合させて自分のベストタイムを出していけるか、ということですね。

©中村僚

――性質の違う競技をすべてひとりで行うことが、近代五種の最大の特徴だと思いますが、近代五種を行う中で岩元選手自身がアスリートとしての能力が上がっていると実感することはありますか?

岩元:近代五種をはじめてから、メンタルも含めた自分の中身が強くなった気がします。僕は高校の時から本番に弱く、水泳の大事な試合で時に結果を出せないタイプでした。緊張していたのかどうかは今となってはわからないのですが、体がうまく動きませんでした。いくら練習しても、本番で練習通りに動けるかどうか不安だったんです。でも自衛隊に入隊してから考え方も変わったし、今となっては大事な試合だからこそ結果を出せる状態を作れるようになりました。

――メンタルを整えられるようになったのは、水泳以外の他の競技をするようになったからですか?

岩元:近代五種から学んだことだと思います。ひとつひとつの競技に必要とされるメンタルも変わってきますし、すぐに次の競技がはじまるので、例え何かミスがあったとしても切り替えざるを得ません。

――五輪についてもお話を聞かせてください。前回のリオ五輪では、なかなか思うような成績を上げられなかったと思います。

岩元:前回は6月1日というギリギリのタイミングで出場が決まりました。オリンピック当日まで2か月しかないタイミングだったんです。2か月の中でできる限りの準備をしましたが、心も体も準備が追いつかず、結果もついてきませんでした。後悔が残る大会でしたね。

今回は開催国枠で日本の出場が決まっていましたし、僕自身も早めに準備を始められています。どうやったら自分が五輪で勝てるかも、明確にわかっています。前回とはまったく違う状況です。おおよそ半年でコンディションを作っていく計算をしていて、今は中盤くらいですね。ここからさらに状態を上げていきます。

――今回のオリンピックで何か成し遂げたいことはありますか?

岩元:間違いなくメダルはノルマだと思っています。僕自身は最後のオリンピックだと思っているので、今までお世話になった方へ恩返しをしたいですね。また、近代五種はマイナースポーツと言われますが、メダルを獲ればまわりの反響も違うと思います。もっと多くの人に近代五種を知ってほしいです。僕のように、水泳でトップになれなかった選手が別の競技で五輪に出られる可能性もありますし、日本の近代五種が盛り上がれば世界でも戦えるようになると思います。

――見る人にとっては、近代五種の魅力はどのような部分だと思いますか?

岩元:東京五輪でいえば、1つの会場で近代五種の五種目すべてが行われます。通常はワールドカップなどでも必ず競技ごとに移動があります。近代五種なので、五種目の競技が見られますから、5倍楽しいと思います。一番盛り上がるのは、やはり最後のレーザーランのゴールです。射撃がレーザーランに変わってから、いまどの選手が一番なのかがより分かりやすくなりました。

東京五輪の近代五種は、味の素スタジアム(東京スタジアム)で行われます。ひとつの会場で5競技すべて見られますし、その中からひとつの競技を見るのもいいと思います。すべての競技をやりきった選手がゴールする瞬間は感動的です。僕もメダルを獲得できるようにがんばるので、ぜひ東京スタジアムに足を運んでみてください。

©中村僚

[PROFILE]

岩元 勝平(いわもと・しょうへい)

1989年8月23日生まれ、鹿児島県出身。鹿児島実業高校を卒業後、自衛隊体育学校に進む。高校時代は水泳部。2017年リオデジャネイロオリンピックでは第29位。2018年WC(アメリカ大会)第6位。2019年アジア選手権大会個人第7位。全日本選手権は平成24年、平成25年、平成29年に優勝。178cm、68kg。

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