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東京五輪2020

アスリートインタビュー

馬術・大岩義明が見据える、メダルへの戦略。4度目の五輪に挑む理由

2020年6月24日 11:52配信

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選手と馬の信頼のもとに成り立つ、絶妙なコンビネーションが試される馬術競技。

幼くして馬に出会った瞬間からその魅力に引き込まれ、30年以上馬術と向き合ってきたのが大岩義明(おおいわ・よしあき)選手だ。

五輪で実施される馬術競技には、馬場馬術・総合馬術・障害馬術の3種目が存在する。大岩選手が取り組む総合馬術は、馬場馬術と障害馬術にクロスカントリーを加えた複合競技だ。競技の中心となっているクロスカントリーでは、時速30km以上で40を超える障害物を飛び越えるなど、正確なテクニックが求められる。

4度目の五輪でのメダル獲得を目指す彼の馬術への思いと、メダルへの戦略に迫った。

(取材・文=市川紀珠、写真提供=日本馬術連盟)

©日本馬術連盟

“天性”の馬好きだった

――大岩さんが馬術を始めたきっかけを教えてください。

幼いころに家族で地方へ遊びに行った時、たまたまポニーに乗る機会がありました。私自身あまり覚えていませんが、ポニーから降りてこなくなるくらい馬が気に入ったそうで。その様子を見た親が実家から通える乗馬クラブを探してくれて、通い始めました。

――馬術に競技として本気で取り組みたいという思いはいつからあったのでしょうか?

実は、親戚で五輪や世界大会で活躍された方が何人かいるんです。その影響もあって、「私もいつか五輪に出たい」と自然と思うようになりました。

――日本では馬術をする環境が少ないように感じます。大岩さんの場合、どのような環境で取り組まれたのでしょうか?

高校入学までは乗馬クラブ一本で、馬術部がある高校に中学から入学しました。馬術部に所属すれば、インターハイに出場するチャンスがありますし、何より学校側から馬術に対する理解が得やすいのではと考えました。

馬術の大会は、土日だけで試合が終わらないので、どうしても学校を休む必要があります。馬術について学校から理解していただけるよう、あえて馬術部のある高校を選びました。

やり切っていなかった。脱サラし海外で再挑戦へ

――初めて海外に拠点を移したのはいつだったのでしょうか?

大学を卒業して2年後の2001年にイギリスに渡った時です。東京で2年間サラリーマンを経験して、その後「もう一度馬術がやりたい」と思ったんです。

――再び馬術を志そうと決意した理由を教えてください。

2000年のシドニー五輪の開会式をテレビで見ている時に、これまで押し殺してきた自分の気持ちに気付いたんです。この舞台に私も立ちたかった、という思いがどんどん出てきて。大学卒業時には「やり切った」と自分に言い聞かせていたんだと感じました。

五輪が開催される4年おきにこの気持ちを味わうのは嫌だと思い、もう一度馬術の道に進むことを決めました。ダメもとでいいから、とにかく馬術の本場であるヨーロッパに行って挑戦しよう、と。

――なぜイギリスを最初に選んだのでしょうか?

乗馬が特に盛んで、世界のトップ選手の多くがイギリスを拠点にしてトレーニングをしていたというのが大きな理由です。

大学の馬術部の先輩がイギリスにいて厩舎を持っていて、幸運なことに、そこでアルバイトをさせていただくことができました。一度引退しておりサポートしてくれる人やスポンサーもいないので、とにかく現地に渡ってできることをやろうと考えました。

――今はドイツを拠点にされていますが、イギリスとの違いはあるのでしょうか?

どちらも馬術が強い国です。異なるのは、馬のタイプです。イギリスでは、サラブレッドなど競走馬として活躍している軽いタイプの馬が多いです。それに対して、ドイツは馬車や乗馬用の重くてパワフルな馬が多いんです。

――ドイツの方が総合馬術に合っている、と。

総合馬術でドイツは北京五輪とロンドン五輪では金メダル、リオ五輪では銀メダルを獲得しています。メダルを外さないんですよね。勝ち続ける背景にはどういう環境があるのだろう、と疑問に感じていました。ドイツのトップレベルの環境でトレーニングをすれば、もっと世界に近づけるのではないかという気持ちがありました。

あとは私が所属している会社の顧客がドイツに多くて。その関係もあって、ドイツに行くことが決まりました。

――実際に海外で活動されていて、日本との環境の違いはどういったことを感じるのでしょうか?

日本だと、乗馬クラブに行かないと馬に乗る機会がそもそもありません。もちろん馬を飼っている人もかなり少ないです。ドイツやイギリスでは、個人で経営している厩舎がたくさんあって、郊外で馬を飼っている人がたくさんいます。だから幼い頃から子どもが馬と触れ合う機会が多いんです。

――幼い頃の環境は大事ですよね。

そうですね。私が日本で乗馬クラブに通っていた頃は、親が1時間くらいかけて送迎してくれていました。こっちだと、15分くらい行けば必ず厩舎があります。そういう意味で、このスポーツに入りやすい環境があると思います。

©日本馬術連盟

“リスクを取らない”団体戦メダルへの戦略

――大岩さんはこれまで五輪を3回経験してきました。改めて東京五輪に向けて頑張ろうと思った理由を教えてください。

ロンドン五輪の次の年に東京での五輪開催が発表されました。その時、むしろ「自国開催の五輪だったらやらないといけない」と思いました。

というのも、普段は海外にいるので応援してくれている方々に自分がプレーしている姿を見せることができません。日本で馬術をする機会があるなら、いいところを見せて恩返しがしたいと思いました。馬術は激しい運動は伴わないので、年齢的に厳しいということもありませんし。

――今回の東京五輪で特に力を入れていることはあるのでしょうか?

総合馬術は馬場馬術・障害馬術・クロスカントリーの合計3種目を平均して競う競技です。なのでどれかが飛び抜けているだけでは勝てないんです。

だからこそ僕が最も成果に繋がると感じているのは、弱点の克服です。この種目では、良いところを伸ばすのにも限界があります。不足している部分に実力を上げていくことが、成績に直結していきます。

――弱点の克服とは、具体的にどういったことが挙げられるのでしょうか?

それは馬によって異なります。出場候補になっている1頭だけでなく、怪我などを考慮して、念のために数頭出場できるように準備しています。

1頭1頭、その馬に応じた特徴があるので、その馬に応じたトレーニングをしていく必要があります。中でもクロスカントリーでは、現地に行くまでコースがわからないんです。馬も私も一発勝負の世界です。ターンが多いなど、技術的に難しいコースになっても人馬一体となって対応できるようにしていくことが求められます。

――東京五輪での目標を教えてください。

団体戦でメダルをとることです。これは絶対におさえたいです。

――個人よりも団体でのメダル獲得に重点を置かれているのですね。

はい。東京五輪から団体戦でのルールが少し変更になります。これまでは出場した4人のうちの3人の成績の合計で競っていましたが、今回から3人のうちの3人の成績の合計になりました。なので、1人でもミスをしてしまうとメダルに届かなくなってしまうんです。

3人全員が個人でのメダル獲得を第一に目指してしまうと、挑戦的というか、リスクを取ってみることになりかねません。特にクロスカントリーでは、少し焦っただけで馬が滑ってしまい、成績が悪くなるということはよくあります。

だから団体戦では、全員が「ここまでの形でいこう」と一定の水準は必ずクリアするような戦い方をすることが求められます。まずは団体戦でのメダルを獲得を目指して、個人は後からついてくるくらいの気持ちで臨みたいと思っています。

――東京五輪のあとを見据えた展望を教えてください。

私が総合馬術を続けている理由は2つあります。

ひとつは、言うまでもなくこの競技が好きだからです。たくさんの試練を乗り越えて、動物と一緒にゴールを切った時の喜びや達成感は格別です。

もうひとつは、総合馬術は私に合っていて、五輪でメダルを獲れる可能性があるという手応えを感じているからです。だから今はメダル獲得を第一において、本気で取り組んでいます。

オリンピック後は、“メダル一筋”の道から少し離れて、やりたい馬術を追求したいという思いもあります。私は幼い頃から長い間障害馬術を専門にやっていたので、障害馬術をしたいとも思っています。それは、その時どんな馬に乗っているかでも変わってきます。総合馬術の馬として育てていたら、障害馬術に向いているな、などと感じることがあったりするんです。また、競走馬の調教もやれればと思っています。

日本の国旗を背負っている間は、日本代表としての活動を優先順位1位においているので、あまり自由なことはできません。五輪後どう馬術と向き合っていくのかは、まだ悩んでいるところです。

あとは、日本の若い選手たちがヨーロッパに来て馬術ができるような環境を整えたいとも考えています。どうしても機会が少ないので、そこの道筋を作ってあげられるようなことはしたいですね。

©日本馬術連盟

[PROFILE]

大岩 義明(おおいわ・よしあき)

1976年7月16日生まれ。愛知県名古屋市出身。10才の頃ポニーに乗ったことをきっかけに馬の魅力に気づき、乗馬を始める。名古屋学院高等学校を経て、明治大学でも馬術を続ける。大学卒業後は一度引退するものの、シドニー五輪に影響を受けて再び馬術の道へ。北京五輪、ロンドン五輪、リオデジャネイロ五輪と3度総合馬術で日本代表に選出。2018年のジャカルタアジア大会では個人、団体ともに金メダルを獲得している。

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