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東京五輪2020

アスリートインタビュー

「誰よりも上手で、真似できない選手に」なでしこジャパン・杉田妃和が成長し続ける理由

2020年12月23日 09:00配信

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©竹中玲央奈

サッカー日本女子代表 “なでしこジャパン”は、2011年にワールドカップで世界一を獲得。「あの感動をもう一度、日本で」そう願うファンの方も多いはずです。

東京五輪直後となる2021年9月には日本初のプロリーグ「WEリーグ」の開幕も決定しており、ますます注目が集まっています。

今なでしこジャパンが勝つために、本当に必要なことは何なのでしょうか。2014年のFIFA U-17女子ワールドカップでは主将として世界一を経験し、2018年からフル代表に定着している杉田妃和(すぎた・ひな)選手(INAC神戸所属)に、自身のサッカー観や、世界と対戦してきて感じることを伺いました。

(取材・撮影=竹中玲央奈、文=市川紀珠)

あえて男子チームで。培った強みは、足先の技術力

――サッカーを始めたきっかけについて教えてください。

兄がサッカーをしていたので、よく練習や試合について行っていました。ただ、私自身は全く興味がなくて。親から「スポーツをやってみたら?」と提案され、兄と同じチームなら、と思って始めたのがきっかけでした。当初は練習中も地面にお絵かきをするレベルで、全くやる気がなかったです(笑)。

一度引っ越してチームが変わってからは、同年代の選手が増えたこともあって、少しずつ、上手くなりたいと思うようになりました。

――同年代の選手とは、女子の選手ですか?

いえ、男子の選手です。同期には女子選手はいなかったです。

――女子チームでやりたいとは思わなかったのですか?

特に思わなかったです。勝手なイメージですが、女子の育成には男子ほど力を入れていないチームが多いように感じていました。良い指導者もチームにいなければ、切磋琢磨できるような選手も少ない。女子チームでほどほどの環境で心地よくやるより、スピードやパワーでは敵わないところがあったとしても、その中で成長していきたいと思ったんです。中学に上がる時にも、あえて男子チームのセレクションを受けて入りました。

――中学生だと、男子との体格差もはっきりと出始める頃だと思いますが、やっていてしんどかったことはありましたか?

しんどいと思うことはありませんでした。中学3年間ならまだいけるだろうと思ってやっていましたね。確かにスピードとパワーでは勝てなくても、技術では勝てるでしょう、と。男子チームで遠慮してしまって、あまり試合にも関われていない女子選手も見ていたので、私はそうなりたくなかったです。

あとは、かなり負けず嫌いなんです。男子とやっていた時も、「足が速いからなんなの」と(笑)。足が速くても、その特長を活かせなければ、意味がない。だったらスピードに乗らせる前に奪おう、と考えるようになりました。相手が良いところを出せなかったら、自分は絶対勝てるはずだと、変な自信がありましたね。

――そこから、高校は女子サッカーの強豪で知られる静岡県の藤枝順心高校へ。地元九州を出る決意をしたんですね。

はい。九州のチームも知ってはいましたが、あまり興味が沸かなかったんです。全国大会でもあまり出てこないし、プレーの特徴も感じられなくて。藤枝順心は、ご縁あって練習参加に誘っていただき、プレースタイルや指導法が自分に合っていると感じたことが決め手でした。サッカーしか見ていなかったので、最初は女子校だということも知らないくらいで(笑)。寮生活と言われても、ぼんやりしていました。

そのまま臨んだ高校生活でしたが、同期の士気も高く、全員が「サッカーをしに来たんだ」という意識があって、とても良かったです。自ら考えることを大切にする藤枝順心の指導も、自分の成長に繋がったと感じています。

――なでしこジャパンに入るという目標や未来像はいつ頃から持っていたのですか?

実は、小学生の頃から今まで、直接的に「なでしこジャパンになりたい」と思ったことはないんです。誰よりも上手くはなりたいけど、「なでしこジャパンになりたい」という思いとは少し違うように感じていて。

でも世代別の日本代表に選ばれるようになってからは、「もっと上(のレベル)でプレーしたい」と思うようになりました。2014年のFIFAU-17女子ワールドカップでは優勝することができましたが、やり切った優勝ではなかったです。もっと高いレベルを目指したいという思いが、結果的になでしこジャパンに繋がっているんだと思います。自分をさらに磨いて、誰よりも上手で、誰も真似できないような選手になりたいですね。

“日本らしさ”を活かしたサッカーを

――U-16、U-17、U-20と世代別、2018年からフル代表と世界と対戦してきて、日本と海外とで、どのような違いを感じますか?

日本の選手は、海外の選手に比べたら器用ですし、求められていることを忠実にやる能力に長けていると思います。だからこそ、組織的なプレーができるのかなと。。

今は海外志向が強くて、海外の良いところを日本でも取り入れようとすることもあります。だったら、日本が力を入れるべきところはどこになるのか、日本だからできることをもっと突き詰めるべきではないか、と。総力的には、日本はトップレベルだと思うので。

――総力的には、というと?

日本は組織的なサッカーをするための体力もありますし、一人ひとりの技術力でも平均的に高いと思います。なのに、得点に繋がるチャンスが少ないというのが、今の課題かと。体力を活かして無難なボール運びをするだけでなく、個人の特徴を活かしたプレーや、相手の特徴を出させないための戦略などにも力を入れていきたいです。

例えばスピードが速いアメリカに対して、スピードを出させないための守備は、みんなでもっと協力すればできることだと思うんです。自分たちの良いところを磨くことが、今必要な気がしています。

2019年のShe Believes Cupのアメリカ戦でも、ビルドアップ(ゴールキーパーやディフェンダーから前線へとパスやドリブルでボールを運んでいくこと)でミスをしてしまった上に、そこに時間をかけていてなかなか得点チャンスがなくて。でも後半の得点シーンでは、泥臭くゴール前に走り込めていました。そういった、泥臭い、諦めないプレーも日本人らしいところだと思うし、むしろ日本にないと勝てないところかなと。日本の強みをもっと追求した方が、見ていても面白いサッカーになると思うんですよね。

「ただ頑張るだけで、優勝できるものではない」

――2019年のワールドカップはどのように感じましたか?

2018年のアジア大会には選ばれていなかったので、私にとっては本大会が久しぶりの公式戦でした。不安要素もありましたが、やるしかないと。試合を重ねていく中で、良い位置に立って良いポジションにボールを入れないと、海外選手の大きいリーチに対応できないことを実感しました。日本でプレーするのとまた違うところが、やっていて面白かったですね。

――面白かった、という感覚なんですね。

そうですね。日本だともっと寄ってきてプレッシャーをかけてきますが、海外の選手はリーチがある分寄ってこなかったり、日本の守備と比べて間が広いから狙って前へボールを運べたりと、普段できないことができて面白いですね。

あとは盛り上がり方も海外との大きな違いです。日本人はどこかで遠慮してしまうような感じがありますが、海外の盛り上がり方は見ていて楽しそうだと思いますし、憧れはありますね。

――2011年のワールドカップで世界一になってから、「女子サッカーは優勝しなくてはいけない」と捉えられることも多いと感じています。プレッシャーを感じることはありますか?

プレッシャーを感じることはないです。求めてくれているのは注目していただけていること。しっかり応えられるようにプレーしたいし、見ていて楽しい、面白いと思ってもらえるように頑張りたいと思っています。

見ている人からしたら、一度世界一を獲ったということで、勝って当たり前だと思いますし、だからこそ負ければ叩かれることも少なくありません。事実なのは間違いありませんが、2019年のShe Believes Cupでも、「3連敗」と取り上げられることが多かったです。

2011年当時は中学生だったので、あの優勝に対して深く捉えて語ることはできません。でも今自分がなでしこジャパンの一員になって思うのは、「優勝しないといけない」と言われる一方で、頑張っただけでは優勝できるレベルでもないということです。今以上に、もっと頑張らないと優勝はできないという自覚を持ってプレーしないといけないと思います。

これからのなでしこジャパンは、負けてただ悔しがるのではなくて、負けの内容に対してもっと追求する必要があると思います。そこから、「次はこうしよう」と現実的な課題を見つけて、向き合っていくべきです。

新たな挑戦も。プロ意識を持って、五輪へ

――東京五輪が延期になって、どのような心境でしたか?

延期について、ネガティブには捉えていないです。今シーズン、INAC神戸ではボランチだけでなくサイドハーフもやらせていただいていて、この1年で新しい武器を身に付けることができていると感じています。もちろんまだまだこれからですが、代表でのアピールに繋がればいいなと。

これまでは新しいものを身に付けるよりも、すでに持っているものを磨くことしかできませんでした。ですが、ある意味延期になったおかげで時間ができて、普段はできないようなチャレンジができているので、自分にとっては良かったと思いますね。

――選手としても良いタイミングで、自国開催での五輪。なかなかない機会ですよね。

はい。自分がいざ出るとなると、これまでテレビで見てきた五輪とは違うなと改めて感じています。2019年のワールドカップに出て、世界大会での経験は本当に価値あるものだと実感しました。自分ってこんなに変わるんだ、と。結果ももちろん大事ですが、まずは五輪に出場できるように頑張って、その経験を大切にしたいです。

――選手として、この先どこまでやっていきたいなど、長期的な展望はあるのですか?

最近、「女子サッカー選手は一体何歳までプレーできるんだろう」と思うことがあって。直近では中村憲剛選手が40歳で引退を発表されましたよね。女子サッカーだと、澤穂希さんが37歳で引退されています。

私の強みは怪我をしないことでもあるので、怪我をして引退していく選手が多い中で、ギリギリまでやりたいと思っています。早く引退してもいいかと思っていた時期もありました。でも今は、いくつになっても上手くなりたいと思えるし、上手くなっていけるだろうとも思います。今のプレースタイルをどこまで続けられるのか、試したい気持ちがあるんです。

――東京五輪に加えて国内女子サッカープロリーグの発足など、女子サッカーにとっては大きな動きがこれから続きます。最後に、これからの日本女子サッカーについて、どう感じられているのかお聞かせください。

プロになれば、男子と同じで、試合で使えない選手なら切られるという世界になります。選手一人ひとりやチームとしてのプロ意識が、自然と芽生えるのではないかと思います。

今の女子サッカー界には、プロになってちょっと焦りが出る環境の方が必要なのかなと。選手が危機感を持つことで全体としてのレベルアップに繋がりますし、長年の課題である選手の育成にも力を入れるようになると思います。プロである自分たちが、「これぐらいのプレーで良いよね」という感覚ではなく、「このレベルでやらないと、ここではやっていけないよ」と示していくこと。個人個人のより高い意識が、これからの女子サッカーに求められている気がします。

[PROFILE]

杉田妃和(すぎた・ひな)

1997年1月31日生まれ。福岡県北九州市出身。兄の影響で小学生からサッカーを始める。女子サッカーの強豪校藤枝順心高等学校に進学し、在学中にU-17サッカー日本女子代表に選出。2014年 FIFA U-17女子ワールドカップでは主将として出場し、世界一に。2015年からINAC神戸に加入、直近の代表合宿などにも選出されており、東京五輪出場が期待されている。

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