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【連載】「ヨガと人と。」 ~疎外感を感じた私に、スワミジが出した答えとは?~
この連載「ヨガと人と。」では、ヨガ講師・ヨガインストラクターである私、山下真由実がヨガと出会ったこと、また旅先やヨガを通して出会った人、ヨガ哲学の教えから学んだことなど、経験したことを皆さんにお話ししていきます。
前回のお話しは『【連載】「ヨガと人と。」 ~いよいよヨガ講師デビュー!忘れられないあの日~』でした。
今回は『疎外感を感じた私に、スワミジが出した答えとは?』をお話しします。
これもヨガの修行?アシュラムの厨房で感じる疎外感
バハマにあるヨガの資格取得ができる施設、シバナンダアシュラムでの仕事はいろいろとありましたが、アシュラム内の厨房で滞在者に朝ごはんを作ることは毎日の日課でした。
料理をするのは厨房スタッフとして長年働いている人が行っていましたので、私が担当していたのは主に、厨房に届く新鮮な野菜の下ごしらえや発注、皿洗い、掃除、盛り付けなどでした。
私以外の厨房スタッフは全員がイスラエル人。「ボケルトーヴ!(おはよう)」から始まって、厨房の中は常にヘブライ語が飛び交っていました。
もちろん全員英語も話せるのですが、母国語での方がやはり話しやすかったのでしょう。
最初は新鮮にヘブライ語を聞いていましたが、私だけが何を話しているのかが全く分からず、皆が笑っていても何が楽しいのか理解できなかったため、だんだん疎外感を覚えるようになりました。
仲間はずれにされていたわけでは全くないのですが、一人だけ理解できないさみしさが大きくなり、私は異動願いをスワミジ(※)にすることにしました。
異動といっても朝のシフトから夜のシフトへの変更希望でしたから、職種は同じ厨房スタッフです。夜の厨房スタッフには様々な国から来た人たちがいたので、必然的に会話は英語になるだろうと思ったのでした。
(※)スワミジ・・・「スワミ」はヒンドゥーのお坊さんという意味であり、修行する僧侶に対する敬称です。「ジ」は、様や、先生など。アシュラムにいるヨガの先生も「スワミジ」と呼ばれています。
「そう来たか!・・・。」スワミジが出した答えとは?
スワミジに今までの経緯と自分の希望を伝え、てっきり異動願いは許可されるものだと思い込んでいたのですが、スワミジは「いや、君はそのまま朝のシフトで働きなさい。」と言いました。
戸惑いながらもスワミジに、「私が異動すれば、他の皆は気にせずにヘブライ語で会話できます。私がヘブライ語を話せないだけですから、私一人が他に異動すればすむと思うのですが。」と伝えるとスワミジは笑顔でこう言いました。
「君が悪いんじゃない。皆の配慮が足りないだけだよ。だからそのことをまずは皆に伝えるべきだと私は思うんだ。何も伝えないで君の働く時間だけ変えるのでは、この話の根本的な解決にはならないよ。思いを伝えることを恐れなくていい。理解しあえる可能性をまずは試してみてからでも遅くはないはずだ。どうだい?」
正直に言えば、自分の語学力のなさから疎外感を感じているだけなのに、「理解できなくてさみしいから、皆に英語で会話してほしい」と言いたくはありませんでした。
私が黙ると、スワミジは穏やかな表情のまま「私が話してこよう。」とスタスタと歩いて行ってしまいました。
やっちまった、と思いました。
理解しあえる可能性を、探るということ
やっぱり私が我慢すればよかったかな、と悶々としながら迎えた次の日。
厨房に入ると朝シフトのリーダーが私を呼び出しました。何を言われるのだろうと内心少しビクビクしながらついていくと、彼の第一声は「本当にごめん!」でした。
ビックリしながらも「いえいえ、私の語学力がないだけで、本当に気にしてほしくないのです…。私は他の人に迷惑をかけたくないし、こちらの都合でわざわざ英語を話してもらうことは望んでないんです。」と伝えると、彼はいやいやと首を振り、私の目をしっかり見ながらこう言いました。
「とても反省したんだ、君は日本人でヘブライ語が分からないことは知っていたのに…。僕たちは英語も母国語と同じように話すことができる。君も大切なメンバーの一員だよ。それなのにずっと君が分からない言葉で話して、疎外感を持たせてしまったことは本当に申し訳なかったと思っている。昨日スワミジがこのことを話してくれて、本当に良かった。」
それを聞いた瞬間、ふっと心に刺さっていたものが解けていったように思いました。我慢していた心が、理解してもらえたということで、癒された瞬間でした。
たとえ話す内容がネガティブであるように見えたとしても、ありのままを、バイアスをかけずに淡々と伝えることは、決して弱いことでも恥ずかしいことでも、ましてや悪いことでもないのだな、と腑に落ちたのです。
結局、リーダーが厨房スタッフに話をして、皆が英語で会話するようになりました。
「気を使わせて悪いな」と私がつぶやいた時、スタッフの一人が笑って言いました。
「君が気づかせてくれなかったら、この後に来た人の誰かに僕たちは同じことをしていたかもしれない。だから今でよかったんだ。」
ありのままを見て理解し合あうことが、双方を変える力になる
「自分が我慢すれば丸く収まる」という風潮は、日本ではよくあることではないかと思います。
しかし何も言わなければ相手は知る由もなく、お互いの関係性も変わりません。そのままの関係を続けていけば大きな断絶につながっていくことになるかもしれません。
我慢をするのではなく、お互いに良い方向性に行くことを願って声に出すことを恐れないでほしいと思います。
周りだけでなく、自分だけでもなく、より調和のある関係性へ向かうための行動指針のひとつです。
ありのままを見て理解しあえるように心を尽くすことは、関わりを変える力を持つのです。
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