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先人が築き上げたこの格闘ゲームの文化を、次の世代へとつなげていきたい【hitBOX(ヒットボックス) カワノ選手インタビュー】
eスポーツ競技の中で、もっともベテラン勢が多いのが格闘ゲームシーン。その中でも、ウメハラ選手やときど選手など名だたるベテランが活躍しているのが『ストリートファイターV』だ。
そんな『ストリートファイターV』シーンにおいて、若手の選手が今めきめきと実力をつけてきている。中でも、ここ最近hitBOX(ヒットボックス)社からスポンサードを受けた日本初のプロプレイヤー、カワノ選手は若手中の若手だ。
ゲームの実力もさることながら、歯に衣着せないコメントや、トーク力など、コミュニケーション能力も長けているカワノ選手。今回は、そんな彼の素顔に迫ってみた。
大きな壁を感じたEVO初出場の思い出
——まずはじめに、カワノ選手がゲームにふれるようになったきっかけを教えてください。
カワノ選手(以下、カワノ):それこそ小学生のころは「ポケモン」シリーズとか、CPU相手に遊ぶタイトルからですね。
——いわゆる格闘ゲームのような対人戦に目覚めるきっかけは?
カワノ:友だちの家に遊びに行ったときに遊んでいた『ストリートファイター IV』からですね。多分、それが格闘ゲームにふれた一番最初だと思います。
まあでもめちゃくちゃやり込んでるってわけでもなく、たまに遊びに行ってはプレイする程度でしたね。
その頃ちょうど、プロ選手の有名な動画を見ました。
——有名な動画?
カワノ:ウメハラさんの「背水の逆転劇」です。
——なるほど。その頃からウメハラ選手のことは知っていたんですね。
カワノ:そうですね。僕が小さい頃からずっと知っていました。
——現在、カワノ選手はeスポーツプレイヤーとして活躍しているわけですが、eスポーツプレイヤーとして自覚、または意識しはじめたのはいつ頃ですか?
カワノ:2018年の大学2年の頃ですね。「よしもとゲーミングプロ選抜トーナメント」に出場して優勝し、「EVO 2018」の出場権を獲得したんですけど、その頃にeスポーツプレイヤーとしての自覚を持ちはじめました。
泣きそうです
— カワノ HitBox|Kawano (@kawanoChannn) June 10, 2018
よしもとゲーミングプロ選抜トーナメント優勝しました
ラスベガス行ってきます
がんばってきてよかった。
——優勝するまでどれくらいプレイしていたんですか?
カワノ:『ストリートファイター V』は発売日当日に買ってはいたんですけど、その頃ちょうど大学の受験ということもあって、全然さわれなかったんです。なので、本腰入れてプレイするようになったのは受験が終わったあとからで、1年くらいはプレイしていたと思います。
——それまでもこういった大会には出場していたんですか?
カワノ:そうですね。大会に出てなにか成績を残すというよりは、エントリー費もかからず、出ることにマイナスがなかったということもあり、さまざまな大会に出場していました。
——やっぱり手応えがあって優勝したという感じですか?
カワノ:ぶっちゃけていうと、たまたま優勝できたんです(笑)。
実は、前日夜遅くまで友だちと遊んでいて、大会当日たまたま開催前に起きることができて、その寝不足のまま出場して、たまたま勝っちゃったみたいな(笑)。
まあでも、『ストリートファイターV』内のランクも最高ランクでしたし、当時は「俺ってだいぶ強いんじゃない?」っていう気持ちはかなりありましたね。
——その流れで、「EVO 2018」に出場したわけですけど、初めての「EVO」出場はどうでしたか?
カワノ:いやあ、何もかもが初めてで期待はあったんですけど、速攻負けたんですよ……。
パスポートも初めて作ったり、吉本の方にいろいろ面倒見てもらったり、20時間くらい飛行機に乗って現地に到着したのに……。
ここで「俺ってそこまで強くなかったんだな……」って落ち込みましたね。出場するまではもちろん自信あったんで、「このままトップ8までいっちゃうんだろうな」とか思ってたのに(笑)。
——やっぱり会場の空気も違っていた?
カワノ:ですね。僕の対戦相手がザンギエフだったんですけど、海外の観客ってザンギエフみたいな大味なキャラを応援するんですよ。僕がコマンド投げを食らうたびに「うおおおおお!」って盛り上がるしで、「なんなんだこれ……」みたいな気分でしたね。
——ここで大きな挫折を体験したという感じですね。
カワノ:はい。ぶっちゃけ日本に帰ってきてから『ストリートファイターV』をさわらなくなりましたからね。
よしもとゲーミングさんのTwitterでは「EVO 2018」に出場した選手の結果がツイートされてたんですけど、ほかの選手はやれ5位だとか7位だとか13位だとか、まあ好成績な中、僕は325位とか書かれてて……。
それ見たとき「すっげー恥ずかしいな」という気持ちと同時に、申し訳ないなって気持ちになりました。
——ここで「eスポーツプレイヤー」との差を感じたわけですね。
カワノ:そうですね。eスポーツという業界は面白そうだなと思ったのですが、「俺には無理な世界だな」とも感じてました。
死ぬ気でがんばったファミ通練習部屋での特訓時代
——そんな「EVO 2018」で大きな挫折を経験したわけですが、どういうきっかけで気持ちを切り替えることができたんですか?
カワノ:一度は『ストリートファイターV』から離れていたんですけど、ぼちぼち再開してランクマッチをプレイしていたんです。そしたらある日、ガチさん(ガチくん選手)から練習に誘ってもらったんです。おそらく、ももちさんのコーリン対策だったと思うんですが、まあまったく勝てませんでした。
もう、ボコボコのボコですよ(笑)。
——えええっ。それはまたどうして?
カワノ:なんていうか、何もさせてもらえない感じでしたね。攻めが全く通らないし、何を出してもだめな気がする。そんな気持ちにさせられる対戦でした。
ここで「やっぱりプロってすごいんだな」っていうプロとの壁を明確に感じましたね。
と同時に、ここまで差が出る『ストリートファイターV』って面白いなって改めて思うようになりました。
まあでも、やっぱり悔しいじゃないですか?
なのでそこから毎日のように僕から練習に誘って、練習を続ける毎日でした。それこそ、ガチさんから「ああ、今日は練習しなくていいから……」ってウザがられるくらい(笑)。
——あはは。かなり気合い入ってたんですね。
カワノ:ですね。その後もガチさんとは仲良くさせてもらっていて、「カプコンプロツアー」のカナダカップや北米ファイナルに連れて行ってもらったりと、ものすごく面倒見てもらっています。
——おおっ、プロからお墨付きをもらえるほど実力が実ってきた証ですね。この辺りから考え方が変わってきた感じですね。
カワノ:はい。2019年には東京に引っ越してきたので、がっつり『ストリートファイターV』をやるようになりました。
——なるほど。2019年からは出場した大会で上位の成績を収めて、しっかりと結果を形に変えることができているわけですね。とはいえ、『ストリートファイターV』を始めて2年ちょっとでこの成績は並大抵ではないと思います!
カワノ:まあなんだろ、「がんばったで済まされるのは中学生までやろ」ってこの時思ったくらいプレッシャーを感じてましたね。やっぱり結果出さないと認められない世界でもあるので……。
まあ去年は地獄でしたよ(笑)。
——ええっ、そこまで?
カワノ:ファミ通には、ウメハラさんやガチさんなど猛者が集まる練習部屋があるんですけど、毎日朝から晩まで通ってましたからね。
しかもその時はとにかく『ストリートファイターV』の練習に時間を割きたくて、仕事もしていなかったので、交通費をケチるために8kmくらいの道のりを歩いたりしてましたからね。
——ええっ、機材とか持って?
カワノ:ええ(笑)。誰よりも早く来て、誰よりも遅く帰るというのを心がけてました。
——私たちの知らないところでそんな苦労があったんですね。
カワノ:そうですね。多分これ、今まで誰にも話したことないんじゃないかなあ。
——そもそも、ファミ通の練習部屋に入れること自体がすごいですもんね。
カワノ:そうそう。入るまでも結構大変で、僕は当時そこまで知名度もあったわけではないので、ファミ通の人からしたら「誰だこいつ」ってことになるわけですよ。なので、僕みたいな一般人がいきなり入れるわけもなく……。
ガチさんや、マゴさんたちがファミ通の方に直接交渉してくださって、ようやく入れるようになったんです。
——その頃からプロの選手も、ちゃんとカワノ選手を見てくれていたんですね。いやあ、我々からすると、彗星のごとく現れた若きルーキーというイメージだったんですけど、並々ならぬ努力が隠されていたんですね。
いよいよプロ選手として活動を開始! hitBOXからのサポートも!
——そんな努力の甲斐もあって、2019年9月の「ストリートファイターリーグ」(SFL)出場をきっかけにプロライセンスを取得することになったカワノ選手ですが、印象に残っている大会はありますか?
カワノ:やっぱりリーグですね。それまでも「カプコンプロツアー」の海外大会には出ていたんですけど、海外の選手に負けることが多くて、日本の選手と当たることがほとんどなかったんです。
そういうこともあって「日本で通用するのかな」という気持ちがずっとありました。リーグに出場することで、日本の猛者と戦える機会が増え、個人でもいい結果が残せたこともあり、印象に残ってますね。「ああ、ちゃんとうまくなってきてるんだな」って実感できた瞬間でもあります。
——なるほど。世間的に「カワノ」という選手が『ストリートファイターV』の競技シーンで活躍していると認められたと感じたのはいつ頃だと思いますか?
カワノ:2020年の「TOPANGAチャンピオンシップ」で5位になったあたりですかね。とはいえ、何かあったわけでもないんですけどね(笑)。
——あらら、そうなんですか?
カワノ:「TOPANGAチャンピオンシップ」ってリーグ戦だし長期戦じゃないですか? ここで好成績を収めたから、さすがにスポンサードとして声がかかるだろうとか思ってたんですけど、マジで何もなかったですね(笑)。
そこで「ただゲームするだけじゃだめなんだな」ということにも気づかされ、YouTubeをはじめました。
立ち回りの考察や大会の振り返りの動画を投稿するようになって、再生数やチャンネル登録者数も増えてきて、新たな側面を作ることができました。そういったきっかけにもなった「TOPANGAチャンピオンシップ」は自分にとって大きな影響を与えてくれた大会ですね。もちろん、自信にもつながったし。
——そういった配信者としての活躍で注目を浴びたことにより、hitBOX社からのスポンサードを受けることになったわけですね! 話は戻るのですが、カワノ選手がはじめてhitBOX、いわゆるレバーレスコントローラーにふれるきっかけとなったのはなんだったのですか?
カワノ:もともとアーケードコントローラー(以下、アケコン)のレバー操作が苦手で、コマンド入力が不得意でした。そこでガフロさんから、いわゆる「ガフロコン」を譲っていただき、試しに持ちキャラであるコーリンのコンボをやってみたのがきっかけですね。
ただ、最初は10分くらいでさわるのやめちゃいました。
——あら、それはどうして?
カワノ:まあなんか最初はとっつきにくかったというか、全然うまく操作できませんでした……。それでしばらくはアケコンを使ってたんですけど、その頃マゴ選手が僕のためにレバー操作が上達するための練習メニューを考えてくれたんです。
ただ、やればやるほどレバー操作が苦手なのを実感して、ふとガフロコンのことを思い出したんです。それで、ガフロコンでその練習メニューを実践してみたら、どんどんうまくなっていくのを感じて、そこからレバーレスコントローラーへと移行しました。
もともとレバーを操作する文化が僕の中にはなかったので、ある意味簡単に移行できたというのもありますね。その点、何十年もレバーをさわってきたウメハラさんがレバーレスコントローラーに移行したっていうのはものすごく覚悟を決めたんだろうなあと思っています。
僕はレバーが下手だから移行したっていうのがありますけどね(笑)。
今年の10月にはhitBOX社からのスポンサードも決定して、正直めちゃめちゃうれしかったです。
TOPANGA TVでもご報告させていただいた通り、本日からカワノはHit Box(@Hit_Box)からのサポートを受け、活動させていただくこととなりました。これもひとえに皆様のおかげです。これからも応援宜しくお願いします。
— カワノ HitBox|Kawano (@kawanoChannn) October 21, 2020
I get supported by Hit Box.https://t.co/NH5cUTi9vb
あとは、やっぱりただ勝ち続けるだけではなく、何かをアピールできる人間にならなければ、こういったお話もいただけなかったんじゃないかって思いましたね。
——確かに、動画でもhitBOXの紹介していましたもんね。カワノ選手自身がhitBOX社からのスポンサードを快諾したポイントはなんだったのですか?
カワノ:まあ、スポンサードのお声をかけていただく前から、僕自身動画でhitBOXの紹介とかしてたんで、これは受けとかなもったいないって思ったのが正直なところですね(笑)。
「俺、hitBOXの売り上げにだいぶ貢献しとるやろうしなあ」って思ってましたし(笑)。
——あはは(笑)。ちなみに、hitBOXを勧めるならどんなプレイヤーですか?
カワノ:やっぱりレバー操作の正確性に欠けている人にはおすすめしたいですね。hitBOXなら、簡単で正確なコマンドが入力できるようになるので。
——なるほど。逆に、レバーを使い続けている人で、hitBOXに違和感を感じている人にはどうやってアプローチしていきたいですか?
カワノ:やっぱりレバーを使い続けていた練度と、今日初めてさわったhitBOXでは操作のしやすさはレバーの方が上だと思います。ただ、hitBOXを1カ月でも練習すれば、そのレバー以上のポテンシャルは身につけられると思うので、まずは拒絶せずに挑戦してみて欲しいですね。
——右利きの人は、特に左手の操作が苦手のようですが、カワノさん自身何か練習していたことはありますか?
カワノ:それこそ、左手でご飯を食べたりしたこともありましたね。まあこれはすぐ辞めましたけど(笑)。
あとは、ギタリストがやる指のストレッチなんかもやってましたね。やり方は単純で、左手だけで10数える感じで、一本ずつ折り曲げて折り返して開いていくのを繰り返す感じです。
ちょっとした合間にできるのでおすすめです。
先人が築き上げたこの格闘ゲームの文化を、次の世代へとつなげていきたい
——カワノ選手のeスポーツプレイヤーとしてのこれから先の目標をお聞かせください。
カワノ:以前ウメハラさんが、『ストリートファイター II』全盛期のように、武道館で1万人くらい集まるような大会を『ストリートファイターV』やこれから出てくる格闘ゲームのタイトルでも開けるようにしたい、ということを話していたんです。
そこで僕は、配信や大会などで新規のプレイヤーを増やしていき、「カワノが出るんだったら俺も出る」という風に、少しでもウメハラさんの夢を後押しできる存在になりたいと思っています。
——なるほど。でも、選手として「勝ち続けたい!」という感じではないんですね。
カワノ:もちろん試合に勝ちたいという気持ちはあるのですが、やっぱり今こうして格闘ゲームという文化が続いているのって、ウメハラさんはもちろん、古くから格闘ゲームをプレイされているプレイヤーの方や、ゲームセンターを運営してきたみなさんといった、先人の方々がこの文化を廃れさせないよう努力してきてくれたからだと思っています。
僕自身がこうやって格闘ゲームでご飯を食べていけているのも、そういった先人のおかげなのは間違いないです。なので、そういった方たちに少しでも恩返しができるよう、この文化を廃らせないための努力をしていくことが僕の役目だとも思っています。
これからの世代にこの文化をつなげられるような影響力のある人物になりたいですね。
——ありがとうございました!
———
カワノ選手と言えば、「ストリートファイターリーグ: Pro-JP 2020」にも出場されていて、カワノ選手が加入している「ウメハラゴールド」は2位の成績を収めるなど、選手としての活躍は折り紙付きだ。
そんなカワノ選手が目指しているものは、勝つだけではなくこの「文化を続けていくこと」という話が聞けて、格闘ゲームの未来は明るいものになるんじゃないかという期待が高まった。
彼のような若い世代のプレイヤーがどんどん影響力を持ち、新たな世代のプレイヤーへの架け橋になってくれることを切に願い、彼の今後の活躍にも注目していきたい。
■「ストリートファイターリーグ: Pro-JP 2020」を終えて
——「ストリートファイターリーグ: Pro-JP 2020」を終えていかがでしたか?
カワノ:今回はかなりチームメンバーとして力になれるんじゃないかと思っていました。でも実際は思ったよりも結果が振るわず、チーム戦でこうやって結果が出せなかったことは責任を感じています。
やっぱり久々のオフライン大会ということもあって、ちゃんと動けてないのが実感できましたし結構難しい大会でしたねえ。
——ちなみに、カワノ選手が苦手としている選手っているんですか?
カワノ:やっぱり板橋ザンギエフさんですね。アビゲイルが辛くて辛くて……。それにかぶせようとすると今度はザンギエフでしょ。もう埒が明かないというか(笑)。
——板橋ザンギエフ選手は、1位のトキドフレイムかあ。これからも絡んでくる相手ですね。
カワノ:そうなんですよ。しかも、「TOPANGA CHAMPIONSHIP Season2」でも同じブロックなんですよ……。
一生当たりたくないって思ってると、こうやって当たっちゃうんですよね(笑)。
ただ、向き合わないといけない相手ではあるので、自分がどう攻略していくのかが楽しみでもあります。
——おおっ、見てる側も楽しみです!
——「ストリートファイターリーグ: Pro-JP 2020」を終えていかがでしたか?
カワノ:今回はかなりチームメンバーとして力になれるんじゃないかと思っていました。でも実際は思ったよりも結果が振るわず、チーム戦でこうやって結果が出せなかったことは責任を感じています。
やっぱり久々のオフライン大会ということもあって、ちゃんと動けてないのが実感できましたし結構難しい大会でしたねえ。
——ちなみに、カワノ選手が苦手としている選手っているんですか?
カワノ:やっぱり板橋ザンギエフさんですね。アビゲイルが辛くて辛くて……。それにかぶせようとすると今度はザンギエフでしょ。もう埒が明かないというか(笑)。
——板橋ザンギエフ選手は、1位のトキドフレイムかあ。これからも絡んでくる相手ですね。
カワノ:そうなんですよ。しかも、「TOPANGA CHAMPIONSHIP Season2」でも同じブロックなんですよ……。
一生当たりたくないって思ってると、こうやって当たっちゃうんですよね(笑)。
ただ、向き合わないといけない相手ではあるので、自分がどう攻略していくのかが楽しみでもあります。
——おおっ、見てる側も楽しみです!
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