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【Sengoku Gaming Yangコーチ インタビュー】 「LJL」にPazとMoyashiが出場した理由を語る
「LJLファンの皆さんに知ってもらいたいことがあるんです」
インタビューで開口一番、Sengoku Gaming(SG)のYangコーチが口にした言葉である。
筆者は今回、『リーグ・オブ・レジェンド』のアジア・パシフィック大会「PCS 2024 Summer Playoffs」の現地取材に訪れていた。「LJL 2024 Summer Split」3位の成績で出場権を得たSGだったが、CTBC Flying Oyster(CFO)とGround Zero(GZ)に敗北し今大会の敗退が決まった。
それでも「PCSプレーオフ」初出場にもかかわらずCFOを相手に1ゲームを取るなど、SGの善戦が「LJL」チーム応援の盛り上げに一役買ったのは間違いない。敗退は残念だが、1年の振り返りも兼ねてチームのどなたかにお話を伺いたいと筆者の方から申し出たのが、このインタビューのきっかけであった。
チームからはYangコーチが応じるとのお話をいただいた。もちろん、こちらからもいくつかの質問は準備していったのだが、Yangコーチにお会いした瞬間から冒頭の話につながる。というわけで今回は、今年のSGがたどった足跡をYangコーチ目線のストーリー形式でお届けしたい。「LJL」に対するYangコーチの熱い想いを感じてもらえたら幸いである。
「LJL 2024 Spring Split」はKakkunを育てる方向性で目標を立てた
まず前提として、我々が最初にチームのロスターを完成させた段階では、まだ2025年の大会形式は発表されていなかったことを考慮して聞いていただきたい。
会社として「LJL」の今後2~3年を見据えたときに必須だと考えたのが、「日本人選手の育成」だった。現在は事実上Evi、Yutaponが「LJL」の人気を握っているが、我々はオーナーを中心に世代交代を考慮しつつプランを組んだ。GaengのIMPレジデント認定、いわゆる「日本人枠」の適用が「LJLサマー」からということもあり、「LJL スプリング」ではKakkunを育てる方向性で目標を立てた。
僕は始める前から「うちのチームはそれほど強くないだろう」と考えていた。Kakkunが初めての「LJL」出場であり、他のメンバー同士も組むのは初めてだったからだ。それに韓国人選手の日本語の問題もある。さらにディーラーが日本人というのは、成長に時間がかかる。その時間を考慮して、僕はベトナム(VCS)や「PCS」の下位チームのみを練習相手にすることに決めた。
こうして実際にスクリムが始まったわけだが、チームの勝率はなんと20%中盤。──初めて見る数字であり、深刻だった。レーン戦でコテンパンにやられたり、集団戦であっさり負けてしまったり、とにかく単純に序盤で崩れるゲームが多かった。
チームごとにスランプはある。いくら強いチームとはいっても、シーズン途中で1〜2度はよくわからないまま負けを経験する。1週間、長ければ1カ月とか。ところがうちは、最初から突破口を見つけられないままだった。
選手にプレッシャーを与えすぎると燃え尽き症候群になってしまうことが多いから、僕は小さい役割しか与えないようにしているが、今回ばかりは仕方なく突破口をEllimに決めた。Ellimは吸収力が高く、日本語の上達も早い。「君にここまでやってもらわないと困る」と負担をかけたのだが、幸いそれで良くはなっていった。
「LJL 2024 Summer Split」でJettが合流、チームプレイにも変化が訪れる
「LJLサマー」になってJettが合流してから、チームプレイは少しスムーズになった。Jettはダメージトレードをよくやるスタイルだ。攻撃的にターンを作ったり、ときには相手のターンを奪ったりもできる。我々は「LJLサマー」が始まる前に、Jettに合わせてほかが動くというチームの方向性を決めた。
ところが、このやり方にも問題が生じた。KinatuとYuhiが、過去のチームではウィークサイドをあまり経験してこなかったのである。ジャングラーが自分の成長をカバーしてくれて、実力を発揮できる環境でのプレイがメインだった。
「Summer Split」はメタ的にもミッド・ジャングルの成長が不可欠で、トップ・ボットはきっちり耐えなければならない。これが我々がFukuoka SoftBank HAWKS gaming(SHG)とDetonatioN FocusMe(DFM)に勝てなかった理由のひとつだと僕は考えている。KinatuもYuhiも自分たちがやったことのない役割をしなければならず、持ち前の強みを失いおかしなミスが出始めた。自分たちでも訳がわからないままゲームに負ける──その繰り返しだった。
とにかく多くの問題が複雑に絡み合っている状況だった。これらをひとつひとつ紐解いてやらなければならない。我々は基本に戻って、段階的に訓練することにした。レーン戦の1v1や2v2をやって選手たちと討論する時間を設けるなどいろいろと試した結果、「個人の判断力不足」という結論に落ち着いた。
そこで、我々はリーダーを決めることにした。マイナーリーグでは全員のレベルが均等ではないので、結局一番重要なのは誰かに合わせることだと考えたのである。この人が言ったら無条件についていくこと。そして僕らはそれに対するフィードバックをする。これによってゲームを簡素化、単純化させることには成功した。
それでもなお、問題は山積みだった。数ある問題のなかからひとつふたつ解決したところで、チーム全体として目の前が真っ暗という大まかな状況に変わりはない。僕としては当初「LJLサマー」でKinatuとYuhiを変えるつもりはなかったが、このままではどうにもならないと思った。
「LJL Summer Split」最終週、PazとMoyashiを入れた目的はふたつあった
PazとMoyashiを入れた目的のひとつ目には、KinatuとYuhiに「コーチ陣の言っていることが何なのかを直接見せる」ということがあった。
決して彼らが下手だと言っているのではない、チーム的に合わせるというのはこういうことなのだ、と。彼らは理解しているけどうまくいかないことと、そもそも理解できていないことがある。だからPazとMoyashiが試合に参加して実際に見せれば、彼らも感じることがあるはずだと考えた。僕はKinatuとYuhiがそれを見て、自分のプレイに取り込んでくれることを望んだ。
ふたつ目の目的は、脳をリセットさせること。
「LJL 2024 Summer Split レギュラーシーズン」最終週のDFM戦とSHG戦のときは、1週間前からスクリムにもPazとMoyashiが入った。そうしてKinatuとYuhiがリフレッシュして再びスクリムに戻ったとき、彼らのパフォーマンスは非常に良くなっていた。実際に「LJL 2024 Summer Split プレーオフ」でも効果があったと思う。もちろんそれだけが理由ではないが、僕らは結果として3位に入り「PCSプレーオフ」進出を果たした。
一連のPaz・Moyashi復帰に関して、僕はSNSでさまざまな投稿を目にした。
「こんなふざけたことをしているからリーグが発展しない」
「選手の成長が必要な時期に交替だなんて意味がわからない」
「これがLJLが成長できない原因では?」などなど。
正直、ファンの皆さんは内部事情を知らないので仕方がない。だけど元LJLプレイヤーや元LJLコーチだった人たちはある程度事情がわかっているではないか。そういった関係者による投稿がファンの人たちを混乱に陥れるのではないかと思い、怒りが湧いた。
近年「LJL」のファン離れが進みつつある原因は、勝者がある程度決まっていて下位チームが注目されにくくなってしまったことや、国際戦の成績があまり振るわなかったことなどが重なって、ファンの皆さんが前ほど「LJL」を楽しいと思えなくなってきているからではないだろうか。少なくとも1チームが選手交替を繰り返したからではない、と僕は思っている。
できれば来年も「LJL」で皆さんとお会いできたら嬉しい
僕は、これらの事実を「LJL」ファンの皆さんに知ってほしかった。もちろん我々は3KR(1チーム内に韓国人選手が3人いること)として結果を出さなければならないチームであり、「LJL」で3位というのは順当だったと思っている。
だけど「PCSプレーオフ」では、もっと良い成績を残さねばならなかった。それに対する批判は受け入れる覚悟ができている。その責任は僕にあるからだ。コーチとして結果を出せなかった。
今年1年、Kinatu、Yuhi、そしてKakkunも含めた日本人選手たちは、さまざまな挫折を経験しつつ本当に一生懸命頑張ってくれたと思う。
Ellimに関しては、かなりの負担をかけることになったにも関わらずチームの中心となって奮闘してくれた。我々が「LJL」で3位になれたのも、彼の功績が大きい。Jettは、チームがどこに向かってプレイしたらいいかという基準を作ってくれた。Gaengについては苦労をかけたと思っている。「LJLスプリング」ではボットが勝つことが目標だったが、サマーではメタの変化もありつつ、Jettが入ったことでミッド中心のプレイになったことが大きく作用し、Gaengが自分の主導権をミッドに渡す感じでゲームすることになった。自分のテンポでできないので難しかったと思うが、チームに合わせてよくやってくれたと思う。チームメンバー全員に、本当に感謝している。
僕の人生のなかで、「LJL」が占める割合はとても大きなものだ。僕がメインコーチとして最初に活動を始めたのはAXIZだった。そして人生で一番の好成績を収めることができたDFMを経て、今は新しいチャレンジと成長できる時間を与えてくれたSGにいる。
僕はずっと「LJL」と共に生きてきた。できることならコーチ人生を終えるときも「LJL」がいいとすら思っている。来年はどうなるかわからないが、できれば来年も「LJL」で皆さんとお会いできたら嬉しい。
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