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「多分これは押下圧45gですよね」Laz選手の指先は研ぎ澄まされている【ZENAIMプロジェクトマネージャー橋本侑季単独インタビュー】
eスポーツチームZETA DIVISIONと、創業75年の歴史を誇るトヨタグループ大手自動車部品メーカー東海理化の共同開発によって誕生したゲーミングギアブランドZENAIM(ぜんえいむ)。
その第1弾のギアとしてZENAIM KEYBOARDがeスポーツシーンに姿を現した。ユーザーが初めて目にしたのは、ZETA DIVISION所属のLaz選手、crow選手のSNSによる発信ではないだろうか。
2023 setups leggo pic.twitter.com/VDttkDxMxC
— Laz (@lazvell) February 16, 2023
— crow⚡ (@no960fps) February 16, 2023
投稿当時から謎のベールに包まれていたZENAIM KEYBOARDの全貌がいよいよ明らかになった。今回は2023年4月27日(木)、WITH HARAJUKU HALL(東京都渋谷区)にて実施された「ゲーミングギア新製品発表会」のレポートおよび、ZENAIMプロジェクトマネージャー橋本侑季(はしもとゆうき)氏の単独インタビューの様子をお届けしよう。
一切の妥協を許さない
ロープロファイル型のゲーミングキーボード
ここでZENAIM KEYBOARDの概要を紹介しよう。ZENAIM KEYBOARDはロープロファイル型のテンキーレスキーボードで、シンプルなデザインながら、アルミフレームによる高級感を兼ね備えている。
注目すべきポイントはオリジナル磁気センサースイッチ「ZENAIM KEY SWITCH」だ。東海理化のノウハウが詰まった磁気センシング技術を応用し、開発されたスイッチでより早く、より正確な入力が可能となっているとのこと。
人の命を預かる自動車部品のノウハウが生かされているということで、耐久性や安定性は抜群。ガタつきを極限まで抑えていることで、ほぼ遊びがないという。さらに押した際の荷重と戻る際の荷重がほぼ同じに設定されていることで、安定した操作が実現されるようだ。
なおスイッチは付属のキープラーで着脱可能となっているため、万が一故障してしまった場合でも簡単に交換が可能。現時点ではスイッチの単体販売はしていないが、今後半年から1年を目処にスイッチのみの販売も視野にいれているとのこと。
試作を重ねたZENAIM KEYBOARDの軌跡
1次試作機
まずは市販のさまざまなスイッチを用いて、誤爆のしにくさと反応速度というトレードオフの機能を解決するために試行錯誤を重ねた
2次試作機
課題を解決するために、ストロークの底打ち付近でスイッチをオンオフすること、それをソフトウェア的に調整できる無接点方式が有効ということになり、マグネットを用いた磁気検知方式のショートストロークスイッチを開発。2次試作機には「ZETA DIVISION」のロゴも刻まれている
3次試作機
3次試作機は製品とほぼ同じデザインとなり、キーストローク量は1.9mm、押下圧は50gなどの仕様が定まってきた。磁気検知のズレがないようスイッチの改良が進められていった。この時点でキー配列などはほぼ確定していた
量産試作機
最後はキーキャップ。10分の1mm単位の厚みとキーの凹凸、グリップ感などを塗料によってパターン化。最終的に逆台形に0.2mmへこんだ、他社とは異なる形状を採用。グリップ塗料も引っかかりすぎず滑らないものを採用した
1次試作機
まずは市販のさまざまなスイッチを用いて、誤爆のしにくさと反応速度というトレードオフの機能を解決するために試行錯誤を重ねた
2次試作機
課題を解決するために、ストロークの底打ち付近でスイッチをオンオフすること、それをソフトウェア的に調整できる無接点方式が有効ということになり、マグネットを用いた磁気検知方式のショートストロークスイッチを開発。2次試作機には「ZETA DIVISION」のロゴも刻まれている
3次試作機
3次試作機は製品とほぼ同じデザインとなり、キーストローク量は1.9mm、押下圧は50gなどの仕様が定まってきた。磁気検知のズレがないようスイッチの改良が進められていった。この時点でキー配列などはほぼ確定していた
量産試作機
最後はキーキャップ。10分の1mm単位の厚みとキーの凹凸、グリップ感などを塗料によってパターン化。最終的に逆台形に0.2mmへこんだ、他社とは異なる形状を採用。グリップ塗料も引っかかりすぎず滑らないものを採用した
プロの設定のインポートができるZENAIM SOFTWARE
ZENAIM KEYBOARDは専用のソフトウェアZENAIM SOFTWAREをインストールすることで、アクチエーションポイントやリセットポイントを細かく設定することが可能になる。
アクチエーションポイントは、そのキーを押した時に実際に反応するまでの距離を示していて、例えば0.3mmに設定すれば、軽くキーにふれただけでキーが入力される。逆に1.8mmのように数値を大きくすれば、キーを深く押し込まなければキーが入力されないという仕組みだ。
またリセットポイントはキーを離した際に、キーが離れたと認識するタイミングを示している。特に『VALORANT』のような、ストッピングが重要視されるタイトルではキーを離したと認識されるタイミングは速いにこしたことはない。ZENAIM SOFTWAREでは0.2~1.7mmの範囲内で設定可能とのこと。
個人的におもしろいと思ったのは、プロ選手の設定をインポートできるという点だ。例えば、Laz選手の設定やcrow選手の設定といった、憧れの選手の環境をそのまま再現することができるのは、ファンにとっても、またプロを目指すプレイヤーにとってもうれしいポイント。
そのほかにもライティングを設定したり、キルクリップを保存したりと、ほかのゲーミングメーカーでも対応している部分はしっかりとサポート。オンボードメモリに設定を保存することも可能なようだ。また、Windows/MacOS両対応にもなっている。
ひとつ残念なポイントが、キー割り当ての変更がファンクションキーのみという点。例えばAキーやControlキーを別のキーに割り当てることはできない。そういった機能はのちのちアップデートで対応したいとのことなので、アップデートを待ちたいところ。
スペック/価格
価格が発表されたことでTwitterは一時騒然となったため、多くの読者は価格をご存じかもしれないが、ZENAIM KEYBOARDは税込みで48,180円。ほぼ5万円というかなり攻めた価格設定となっている。
発売日は2023年5月16日(火)の20時からで、スペックは下記の通りだ。
製品サイズ:幅:380.8㎜ 奥行139.2㎜ 高さ:24.5㎜
製品重量:723g
キーボードタイプ:テンキーレス
キー数:93キー
キーレイアウト:日本語JIS配列
ライティング:RGBLEDバックライト(1680万色)
スイッチ方式:無接点磁気検知方式
キーストローク:1.9㎜
アクチュエーションポイント:0.3~1.8㎜可変
リセットポイント:0.2~1.7㎜可変
押下荷重:50g
チルト角:0°/4°/ 8°
ZENAIMプロジェクトマネージャー橋本侑季単独インタビュー
最後にZENAIMプロジェクトマネージャー橋本侑季氏にお話を聞くことができたので、その様子をお届けしよう。
他社にはない精度のスイッチを自社開発
──今回、ZETA DIVISIONと組むことになったきっかけはなんだったんでしょうか?
橋本:キーボードだけでなくゲーミングデバイス全般にについて、複数のチームにお声がけした中で、興味を持っていただけた1チームがZETA DIVISIONさんでした。
──「ZENAIM KEYBOARD」の開発期間はどれくらいかかっているのでしょうか?
橋本:東海理化としてある程度企画が固まってきてから約2年くらいです。ZETAさんと直接開発するようになったのはだいぶ後ですね。
──あらためて、ひとことでこの「ZENAIM KEYBOARD」が他社のキーボードと最も違うところはどこですか?
橋本:やはりスイッチですね。ガタがない、遊びがないキーボードというのはこれまでなかったと思うんです。これまでのスイッチの構造では、ガタを詰めると逆に引っかかり感が出てきてしまう。そこを一新して、自社でオリジナル設計でスイッチを作り直しているというのがポイントです。
──東海理化の技術を使ったさまざまな製品が考えられる中で、なぜゲーミングキーボードだったのでしょうか?
橋本:僕自身も『Apex Legends』をやっていて、今は『VALORANT』もやっているゲーマーなのですが、社内で新プロジェクトを立ち上げる時に、ゲーミングデバイスをいろいろ検討していました。その中でいろいろな課題や(ゲーミングキーボード市場は)ほぼ外資系メーカーしかいないという中から、僕らの技術でこういうことをやったら面白いんじゃないか、と考えたのが始まりでした。
75年以上の自動車部品メーカーとしての矜持
──大変失礼ながら、ゲーム業界の人やeスポーツファンの方にとっては、東海理化がどんな会社なのか、よくご存じない方もいると思うんですが、キーボードのスイッチにも生かされた東海理化の技術力について教えていただけますか?
橋本:そうですね、自動車部品って不良が出ることは絶対に許されない、人の命を預かる部品じゃないですか。その中でも今回の磁気センサーは「シフト・バイ・ワイヤー」という自動車のシフトレバーに使われている技術なのですが、そこには本当に正確性が求められるんです。「R」に入れたつもりが「D」にあったりしたら、それこそアクセルを踏み込んだら事故を起こしてしまう。
そういった精密性が求められる部分の部品を75年以上やってきたということの信頼性・安心感が、ゲーミングキーボードにもつながっているというところが、ストーリーとして感じていただけるんじゃないかと思います。
それと、自動車に搭載されるということは、5年、10年、15年、20年とずっと使われる部品でもあるので、やはり耐久性は一定求められます。その大切な部分のスイッチを設計から開発までしているのも東海理化なので、設計能力ももちろんありますね。
──逆に、「ZENAIM」を作ることによって既存の自動車開発の方に生かされる部分もあるのでしょうか?
橋本:自動車って5年くらいのスパンの中で開発をしていくので、時間の流れはゆっくりなんです。ただ、今回の開発ではスピードが絶対的に求められるので、こんなスピードでも開発できるという経験を自動車に戻すことで、5年で開発していたものをもっと短縮できます。
通常だともっと人員が必要になると思うんですが、「ZENAIM」での開発を自動車に転用できれば、同じ人数でもよりスピードを短縮できると思います。
──「ZENAIM」の開発は独立した部署として行っているのでしょうか?
橋本:開発専任の部隊はそんなに人数は多くなく、品質保証だったり生産技術、生産管理といったメンバーたちは、既存のビジネスも回しながら新規事業をお手伝いしていただけているところもあります。そこまで含めると結構大所帯で回していますね。
プロ選手の感覚のすごさに驚愕
──今回の「ZENAIM KEYBOARD」の開発で最も苦労した点はなんですか?
橋本:そうですね、たくさんありました。自社で全部はできないということで、最初の頃に自分たちのやりたいこと、思い描いていることを伝えて一緒にやりませんか? とメーカーさんにお声がけしに行った時が大変でした。厳しいお言葉をいただいたこともあります。その中で、今日まで一緒にやってくださったメーカーさんが、今日発表させていただいた方々だったんです。
──さまざまな方々の協力を得て、実際に開発していく中で、ZETAのプロ選手たちに使ってもらって驚いたエピソードがあれば教えてください。
橋本:「ZENAIM KEYBOARD」は反応速度が圧倒的に早く、事実としてグラフなどでもお出ししていますが、たとえば「A」を押したら左に動いて、離したら止まる。という行動を60分の1秒とかでカットして比較しないと、普通の人はゲーム画面を見ただけでは正直わからないんです。そういった細かな点をLazさんはゲーム画面だけでわかってしまうところがすごいなと思いましたね。
ほかにも本当にたくさんありまして、指先の感覚も違いますし、グラム単位の押し心地も全部見分けて「多分これは押下圧45gですよね」とおっしゃったり、アクチュエーションポイントの0.1mm単位を見分けるのなんて、一般の方には絶対わからないし、プロですら0.2〜0.3mmしかわからないと思うんです。そういう感覚もやっぱり全然違いました。
──社内にはゲーム好きの方は多んですか?
橋本:若い人はすごく多いと思います。ゲームをやっているとか、ZETAさんが好きだとか。でも社内のeスポーツクラブとかはまだないですね。そういうことも「ZENAIM」の取り組みの中でやっていきたいです。
──価格設定について、これまでのゲーミングキーボードと比べて結構高額な部類だと思うのですが、他には負けないという自信があったのだと思うんです。この価格設定でも売れるという判断はどのあたりでされたのでしょうか?
橋本:原価を詰めてできるだけお手頃な価格で使っていただきたいという思いはもちろんありますが、使っている部材や内容を見ていただいても、どうしてもこれくらいかかってしまうんです。それに見合う性能ももちろん持っていますし、使っていただけたら絶対に満足いただける、この価格でも納得だと思っていただけるギリギリのプライスでもあります。
これまでの開発ストーリーとか、実際に実機をさわっていただけたら納得いただけるんじゃないかと思います。
──通販以外でどこかで実際にふれて試すことは可能ですか?
橋本:店舗での販売は現状考えていないのですが、定期的にポップアップなどは絶対にしていきたいと思っています。
──ありがとうございました!
まとめ
LogicoolやRazerといった老舗ゲーミングブランドが名を連ねる中、まったく違ったジャンルの業界からeスポーツチームとタッグを組んで挑戦するという点においても、ZENAIMは非常にチャレンジングで画期的なブランドだと感じた。
価格帯が4万円台後半というキーボードの中でも高価であること、またロープロファイルという点からも、良くも悪くも人を選ぶキーボードという立ち位置になりそうだが、洗練されたZENAIMのブランド力は非常に高い。
今後はポップアップで実機がさわれる環境も増えていくということなので、まずは実際にさわってみてから購入を検討したいところだ。
ZENAIM公式:
https://zenaim.com/
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