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【インタビュー】『オーバーウォッチ 2』の競技シーンは「見ても参加しても楽しめる大会」に!——新・OW競技シーンのカギを握るWDG JAPAN社長にインタビュー
2024年1月24日(水)、『オーバーウォッチ 2』の新たなeスポーツシーンとなる「オーバーウォッチチャンピオンズ・シリーズ(以下、OWCS)」がアナウンスされた。それと同時にアジア地域の大会運営をWDG JAPANが受け持つことも発表された。
これはオーバーウォッチの競技シーンが一新される一大事であるばかりか、リーグ制からの変化も意味している。今回はWDG JAPANのCEOを務めるクォン・スンホン氏に、大会運営に関する話を聞いた。
ルーツは数学、eスポーツに生かす独自の観察眼
——まずクォンさんがeスポーツに関わるまでの経緯をお聞かせください。
クォン:実は大学では数学を専攻していたくらい、数学が好きな子どもでした。また日本の漫画を読むのも好きで、家の中は漫画本だらけだったんですけど、その中でも特に印象に残っているのが「GTO」という漫画です。
一風変わった教師と、クセの強い生徒たちがいろいろなトラブルを乗り越えていくストーリーなんですが、その影響を強く受けて、将来は数学の先生になりたいと考えるようになりました。
——なるほど。もともとは数学の教師になるのが夢だったんですね。
クォン:はい。ですが、数学科の教師は韓国だと非常に狭き門でもあったため、夢は諦めざるを得ませんでした。
そんな僕に転機が訪れたのは兵役です。このタイミングで英語の勉強にハマりまして、兵役後にカナダへ留学することになりました。留学先では数学の能力を活用できる会計を専攻していて、将来はそういった分野の職種に就くのだろうと考えていました。
——ここまでeスポーツとは大きな接点がなかったんですね。
クォン:ちょっと話が逸れるように感じるかもしれませんが、カナダの気候をご存知ですか?
カナダは9月や10月でも積雪が見られるほど、冬の気候が厳しい地域なんです。東西に広いので気候の幅は広いですが、カナダの大部分が北海道より高緯度に位置しているので、10月以降は室内で過ごす時間が多くなります。
そういったカナダの冬の過ごし方について留学先の友人と話していたら「ひとつくらい(室内でできる)趣味を作った方がいい」というアドバイスを貰ったんです。
そこで始めたのがYouTubeでのLive配信でした。これが意外とうまくいって、半年で登録者数3万人を超えたんですよね。ここで「YouTubeのコンテンツ作りって面白いな」と感じるようになりました。
また『レインボーシックス シージ』で遊ぶこともあり、当時強いチームだったG2 esportsの試合を見てeスポーツにも興味を持ち始めました。その後は、韓国の『オーバーウォッチ』関連のYouTuberたちと親しくなり、eスポーツは私の生活の一部になりましたね。
——半年で3万人というのは珍しいですね。そこで興味が湧いて、YouTubeやeスポーツ関連のお仕事に進むことになったのでしょうか。
クォン:帰国してからの進路をYouTube系にするか、eスポーツ系にするかで当時は大いに悩みました。ただeスポーツの仕事をする上でYouTube関連の知識は必要不可欠ですし、何よりYouTuberの世界に強く興味を持っていたので、まずは韓国の大手VRアイドルグループである「異世界アイドル」にてYouTubeコンサルなどを担当することになりました。
幼い頃から携わってきた数学が、YouTubeチャンネルの分析や拡張と相性がいい上に、僕自身の趣向にも合っているように感じたんです。
そこからしばらくして、十分に経験を積んでから2023年にWDGに転職しました。WDGの代表とは以前からの付き合いで、それこそ初代『オーバーウォッチ』が始まった時からの仲です。特に2016〜2017年の『オーバーウォッチ』が、僕たちの中では忘れがたい熱いeスポーツシーンだったとよく話しています(笑)。
昔から僕はシステムを作ったり整えたりする仕事が好きなので、日本のeスポーツシーンのシステム作りに貢献できれば面白いだろうなと思い、WDG JAPANの担当に就くことになりました。
オープン型の大会形式で誰でも世界大会に挑戦できる環境に!
——そんなWDG JAPANが本年度から始まるOWCSの運営を担当することになったとのことですが、2023年まで開催されていたOWLの違いについてお聞きしてもよろしいでしょうか。
クォン:それでは簡単に概要と狙いについてお話ししますね。2024年から始まるOWCSは、既存のOWLとは全く違う形式で進められる競技シーンです。
2023年まで行われていたOWLはフランチャイズ制だったこともあり、プロチームに所属するプレーヤー以外はほとんど参加できない形式でした。給与の最低保障や大企業の投資という面では素晴らしいシステムだったかもしれませんが、この形式だとOWLプレーヤーになる過程で、ほぼ必ずチームの移籍が発生するので、Tier2チームは苦しい状況にならざるをえませんでした。
また所属プレーヤーの国籍に関しては全体的に自由があり、韓国地域の強いプレーヤーがほぼ半数を占めるようになってしまいました。グローバルなフランチャイズ制を強調している割には韓国一強感が色濃く出てしまい、競技シーンの状態としては少し不健全だったように思います。
しかし2024年からスタートするOWCSは、友人と一緒に参加できるいわゆるオープン型の大会形式を採用しているので、どんなプレーヤーでも世界大会への舞台に挑戦することができます。
また地域クォーター制を導入しているので、OWLほど人種の偏りは発生しにくいですし、2枠分の地域外の選手を加えることでチームの強化も図りやすい形に整えました。基本的には地域に根付いたプレーヤーが中心になってチームが組まれるため、2017年までのOW競技シーンや『オーバーウォッチワールドカップ』に近い視聴体験を得られるのではないかと考えています。
クォーター制とは
一般的に一定の比率で人数を割り当てることを示す。OWCSでは、地域外選手を2名まで取り入れられるルールになることで、所属チームの選手の偏りがなくなると予想される。
一般的に一定の比率で人数を割り当てることを示す。OWCSでは、地域外選手を2名まで取り入れられるルールになることで、所属チームの選手の偏りがなくなると予想される。
——今まで以上に、アマチュアプレーヤーも夢が見られる大会になったわけですね。
クォン:そうですね。我々WDGはプロプレーヤーを敬愛する会社ですが、それと同時に視聴文化を支えるライト層やゲーム初心者の存在も非常に重く見ています。特定の地域のeスポーツが発展するには、そういった層を増やさなければいけないとも考えています。
OWLは先進的な取り組みをした競技シーンではありましたが、ライト層やゲーム初心者、Tier2シーンの競技者にとってはあまり優しくない仕組みでした。
OWCSでは、そういった既存の仕組みを変えていきたいと思っています。
「日本は将来性の高い地域」WDGが日本を重視する理由
——OWCSの地域大会の中に日本地域が用意されていますが、OWにおける日本地域の歴史を考えると破格の待遇だと感じます。なぜ日本枠が存在しているのでしょうか。
日本は文化的に見ても非常に真面目な国で、経済やスポーツも発展しています。オリンピックなどを見ていてもわかる通り、スポーツ全般が強豪国に分類される国です。ただeスポーツに関しては、日本のポテンシャルを鑑みるとどうしても発展途上だと感じてしまいます。
もちろん格闘ゲームや一部のマインドゲームは世界的にも活躍していますが、FPSやMOBAなどのPCゲームタイトルではまだそこまで実績を重ねられていません。
しかし日本のゲーム視聴者数の伸びや、スポーツ文化の繁栄、競技プレーヤーの活躍を観察していると、将来的な伸びしろが大きいのは間違いありません。例えるなら『オーバーウォッチ』初期の頃の韓国のようです。今後もっともっと強くなれる地域だと感じています。
特にVARRELの存在は我々に大きな衝撃を与えました。
——2023年はVARREL躍進の年でもありましたが、特に印象に残ったのはどういった部分でしょうか。
クォン:彼らが抜きんでているのはチームの魅力です。昨年の12月に「FLASH OPS」の決勝グループを韓国現地WDGスタジオにてオフラインで開催したんですが、その舞台にVARRELも参戦していました。
そのオフラインイベントでは試合後にファンミーティングが行われるのですが、運営側の立場からすると正直いってVARRELのファンミーティングは少し不安でした。なぜなら、試合に負けてしまった直後で選手のメンタルが心配でしたし、韓国現地ということもあってVARRELにとってはアウェイの地です。
果たしてどれだけ人が集まるのか——彼らのメンタルは大丈夫なのか——。運営スタッフは見守ることしかできないのでハラハラしていました。
しかし蓋を開けてみると驚くほどの大盛況。韓国現地の『オーバーウォッチ』ファンの心をも鷲掴みにして、長蛇の列もできていたほどです。その時のオフラインイベントには現役の韓国レジェンドプレーヤーも多数参戦していたのですが、どのチームよりも盛り上がっていました。
しかもVARRELはチームグッズを現地で販売していたのですが、こちらも大盛況だったんですよ。WDGスタジオで過去にグッズ販売をした実例がなかったため、我々としても学びの場になったほどです。
チームの魅力や興行に関してはVARRELが一歩先をいっていると言わざるを得ませんでした。
——チームグッズを売るという概念は韓国ではあまりないことなのでしょうか。
クォン:以前、RunAwayという韓国チームなどがオフラインでグッズ販売を行っていたのですが、OWLの時代に移行してからはTier2チームのOW部門は解散してしまったので、韓国のOW競技シーンからはそういった興行的な側面が消滅してしまったという事情もあります。
このような背景もあって、オフラインイベントでファンの期待に応えられるようなサービスができていたのはVARRELだけだったように思います。
見ても参加しても楽しめるような大会を目指す
——今後の競技シーンの展望についてお話しいただけますか。
クォン:我々が作り上げる競技シーンは、プロ以外も対象にしています。OWCSのオフシーズンには、学生大会や一般人向けの大会も開催していく予定です。さらに将来的には日本にオフラインスタジオも作る予定です。
見ても楽しい、参加しても楽しい。そういった大会を作りたいと思っています。ちょっと遊びに行く感覚で、気軽に大会に参加できるような雰囲気を作り上げられたらうれしいですね。
まずは数年間かけてそういった文化を醸成していき、我々もプレーヤーも視聴者も相互作用で変化していきたいです。そのためにも2024年は始まりの年であり、メッセージの年です。今年から急激に変わっていく競技シーンを、ぜひとも見届けてください。
——ありがとうございました!
———
今回のインタビューを通じて、『オーバーウォッチ』の競技シーン再構築の熱量をWDGから感じ取った。彼らはプロプレーヤーと競技シーンの発展に心血を注いでいるが、そのアプローチ方法はOWLとは真逆と表現できるかもしれない。
OWL時代はいわゆるトップ層をベースとしたプロ中心の世界を築いていたわけだが、OWCSやWDGは初心者プレーヤーや視聴者文化などを重視しており、Tier2シーンの構築に非常に熱心な印象だ。
もちろんOWL時代もコンテンダーズというTier2カテゴリの大会はあったが、世界大会への直通ルートはほぼ存在せず、長期間かけて育成したスター選手もOWLチームへ移籍してしまうため、各地域に根付いているプロチームにとっては参戦する旨味があまりなかった。実際問題、フランチャイズ制に参加できた極一部の企業やチーム以外は、ほとんどのプロチームが部門解散の憂き目にあっている。
これに対してOWCSが構想する競技シーンの場合は世界大会への直通ルートが明確に存在しており、地域大会時点での賞金総額も大きい。オフシーズンには学生大会と一般人向けの大会も開催することが決まっている。OWLとは違う形で競技シーンを作っていくという強い意志を感じられる。
今回発表された新しい競技シーンがどのような結果に繋がるかは誰も予想できない。OWLも5年以上かけてさまざまな変遷があった。OWCSも数年後にその答えの片鱗は出るだろう。
しかし『オーバーウォッチ 2』リリース後に太平洋地域の競技シーンが復活し、公式日本語配信が誕生するという流れは、WDGの尽力なしではあり得なかった。日本で『オーバーウォッチ 2』を嗜む者からすれば、ありがたい限りだ。
そして2024年2月中旬には『オーバーウォッチ 2』にも大型のアップデートが舞い込む。競技シーンの口火を切るには絶好のタイミングと言えよう。今後、競技シーンがどのように変わっていくのか、期待の眼差しで見守っていきたい。
■関連リンク
WDGJAPAN 公式X:
https://twitter.com/WDGJAPAN
WDGJAPAN 公式Twitch:
https://www.twitch.tv/wdgjapan_ow
「オーバーウォッチ」eスポーツの今後について:
https://overwatch.blizzard.com/ja-jp/news/24033788/
撮影:いのかわゆう
編集:いのかわゆう
gappo3 プロフィール
『オーバーウォッチ 2』のプロリーグ「Overwatch League」公式日本語配信の解説担当。初代『オーバーウォッチ』にて創設されたプロゲーミングチーム「Green Leaves」での活動を基盤に、2017年からライター業を開始。eスポーツ中心のインタビュー記事やコラム記事を数多く手がけてきた。
Twitter:https://twitter.com/gappo3gappo3
『オーバーウォッチ 2』のプロリーグ「Overwatch League」公式日本語配信の解説担当。初代『オーバーウォッチ』にて創設されたプロゲーミングチーム「Green Leaves」での活動を基盤に、2017年からライター業を開始。eスポーツ中心のインタビュー記事やコラム記事を数多く手がけてきた。
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