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最終的に強さを左右するものはメンタル【中日ドラゴンズ代表選手 新井宇輝選手インタビュー】
NPBとKONAMIが共催し、今年で3年目を迎える「eBASEBALL プロリーグ」。今、eペナントレースが佳境となり、eクライマックスシリーズ、e日本シリーズを迎えようとしています。そこで、「eBASEBALL プロリーグ」で活躍する選手をピックアップし、インタビューを敢行しました。
第1回目となるのは、中日ドラゴンズの新井宇輝(あらいたかき)選手です。新井宇輝選手は、昨シーズン、高校生でありながらプロテストオンライン予選を通過し、見事eドラフト会議でドラゴンズから指名を受けました。今シーズンはドラゴンズから継続契約があり、プロプレイヤーとして2年目を迎えています。
アテネ五輪の卓球日本代表として活躍した父を持ち、新井選手自身も幼き時分から卓球選手として活動していました。ケガで引退を余儀なくされましたが、「eBASEBALL プロリーグ」を新天地として、新たな活躍を期待されています。
なお、インタビューは2020年12月23日(水)に実施しました。
卓球一家に育ち、卓球の英才教育を受けた少年時代
——「eBASEBALL プロリーグ」のプロプレイヤーになる前は、卓球で活躍されていたとのことですが、当時のお話をお聞かせください。
新井宇輝選手(以下新井):僕の家は、父がアテネ五輪に出場、祖父がシンガポールの卓球の監督を務めるなど、父方も母方も卓球に携わるいわゆる卓球一家でした。なので、物心つく前からラケットは握ってましたね。
小学生になると両親が運営する卓球チームに参加し、本格的に活動を始めました。
最初に大きな結果が出たのは小学校4年の時。学年別の個人戦で全国大会5位をとることができ、近畿大会では優勝することができました。
この結果によって、同世代では、上のレベルでやっていけるのではないかと思い始めました。その後、日本代表の練習会に招集され、順調に卓球のキャリアを重ねられていると感じていました。
——卓球選手としての道を突き進む感じですね。
新井:そうですね。順風満帆に見えた卓球人生ですが、小学5年生の春頃に肘に違和感を覚えたんです。厳しい練習をしていたので、ある程度、痛みに関しては仕方ないと考えていたことと、トップクラスに居続けるためには練習を休むことを考えられなかったことから、肘の状態を放っていました。
その結果、肘が故障してしまいました。結局、そのケガの原因は、生まれつきのもので、最終的には回避しようがなかったのですが、選手生命に関わるくらい故障していることがわかり、ドクターストップがかかってしまったんです。それからは、ずっと練習ができない日が続いてしまい、気がついたら6年生になってましたね。
——そうなると、やっぱり進学が気になるところですよね。
新井:はい。6年生になると中学の進学にも影響が出てくるので、大会には出場することになったんです。練習不足ということもあり、個人戦はベスト32どまりでしたが、団体戦は優勝することができました。
——その状態でも優勝できるのはさすがですね!
新井:進学については、肘が悪くなる前から愛工大名電に進学が決まっていたのですが、さすがにケガを抱えた上で進学するのは悩みました。なんといっても愛工大名電の卓球部は名門中の名門ですからね。
ただ進学先の先生方も、「ゆっくりケガを治しながらやっていこう」とおっしゃっていただいて、スポーツ推薦という形で入学することになりました。
ところが、中学に入ってからもケガが良くなることはなく、悪化していきました。結果、なかなか練習をすることもできずもやもやする日が続いていましたね。それでも選抜メンバーに入り、全国大会へ出場して、優勝を手にすることができたのは、仲間のおかげだと思っています。
なんとか続けてきた卓球ですが、中学2年生の時にもう無理だと判断し、天皇杯を最後に、引退を決意しました。
スポーツ推薦ということもあり、卓球を引退した年で地元の大阪に帰るべきとも考えましたが、先生方のご厚意で学費面も援助していただき、中学3年生はマネージャーとして卓球部に所属していました。
——なるほど。ここは新井選手としても悔しいところはありますよね……。
新井:はい。
結局中学、高校と愛工大名電で過ごす予定でしたが、愛工大名電高校にはいかず、大阪に戻って進学することにしました。
引退後は、自分が試合に立ててないことを悔やみ、自分がやれればと思うところもありました。しかし、愛工大名電は選手層が厚く、「目指しているのは世界。全国大会は通過点でしかない」という感じのチームだったので、マネージャーとして活躍できたことは誇りに思います。
卓球で日本を制した少年が、「eBASEBALL プロリーグ」のプロプレイヤーに転身!
——卓球を引退後、「eBASEBALL プロリーグ」の世界に飛び込みますが、そのきっかけはなんだったのでしょうか。
新井:小学5年生の肘のケガで練習ができなくなった時、父が観ていたプロ野球が趣味になりました。それまで卓球しかやったことがなかったので、気分転換になったんだと思います。さらに父が『実況パワフルプロ野球』(以下、パワプロ)もプレイしていたので、それも遊ぶようになりました。
引退してからも『パワプロ』はプレイしていて、「eBASEBALL プロリーグ」が開催されることは知っていました。1年目は挑戦しようとか考えず、YouTubeで「eBASEBALL プロリーグ」の試合を観ていた感じですね。その後、プロテストのオンライン予選が2年目も開催されることを聞き、参加することを決めました。
——『パワプロ』を多少プレイしていたとは言え、プロテストとなれば敷居は高いのではないかと思います。参加することを決めてからどのようなことに取り組んでいましたか。
新井:お恥ずかしい話なんですが、単純に思い出作りっていう気持ちでした(笑)。
——ええっ、そうなんですか?(笑)
新井:はい(笑)。
もともと、読売ジャイアンツのファンだったので、「eBASEBALL プロリーグ」もジャイアンツを中心に観ていました。そこで舘野選手のプレイを観て、ファンになったのが、ひとつのきっかけでもありました。
それで館野選手を追いかけるように動画を見まくっていたら、共同通信デジタルが開催していた「eBASEBALL全国中学高校生大会2020共同通信デジタル杯」という、いわゆる『パワプロ』の甲子園みたいな大会があるということを知ったんです。
せっかくだから、思い出作りに弟と一緒に参加したら、まさかの全国大会まで進出しちゃいまして(笑)。
——それはすごいっ。
新井:まあ、学生に限定されない「eBASEBALL プロリーグ」などと比べれば参加者がそれほど多くなかったというのもあったんですけどね。ただ全国大会に出場したことが自信となり、プロテストにも挑戦しようと考えたわけです。
プロテストを受ける前までは、コンピュータ対戦がほとんどだったんですが、プロテストを受けることをきっかけにオンライン対人戦をプレイするようになりました。このプロテストも記念受験的に参加したんですが、プロテストオンライン予選中に神がかった結果がでてしまい、プロへの道が開けました。プロを目指して訓練していたわけではないので、自分でも驚きました。
さすがにプロテストに受かってからは、真剣に練習しましたね。プロテストは、できすぎの結果だと思っているので、まだまだ他のプロプレイヤーのレベルには到達していません。実際、プロプレイヤーと対戦してみて、そのレベルの高さをまざまざと感じました。
——どのような点でプロとの違いを感じましたか。
新井:まず操作方法が違いました。プロプレイヤーになるまでは、方向キーを使った「デジタル操作」でバッティングやピッチングを操作していました。アナログスティックを使った「アナログ操作」って、初心者には難しいんですよね。
なので、簡単な「デジタル操作」の方を使っていました。ただ、プロプレイヤーになってから、「アナログ操作」をマスターしないと腕が上がらないと思い、1年目のシーズン途中から「デジタル操作」から「アナログ操作」に切り替えました。それこそ猛練習して(笑)。
——すぐに操作法を習得できたのはどうしてですか?
新井:卓球をやっていた時から練習の基本は、数をこなすことでした。なので、基本は練習を繰り返すことですね。「アナログ操作」に切り替える時は、1日15時間くらい練習漬けになりました。アナログスティックの操作感を習得したあとは、ゆっくり技術力をアップする感じですね。
eスポーツで戦い抜くには強いメンタルが必要
——卓球(フィジカルスポーツ)と「eBASEBALL プロリーグ」(eスポーツ)のどちらもハイレベルな環境で戦ってきた新井選手にとって、そのふたつに通じるものはありますでしょうか。また、卓球をやっていたことが、「eBASEBALL プロリーグ」のプロプレイヤーとして役に立ったことはありますでしょうか。
新井:卓球をしていた頃は、ずっとプレッシャーを感じていました。卓球をやめてプレッシャーから解放されましたが、『パワプロ』でもプロの世界では、プレッシャーを感じなきゃいけないのかと思うこともあります。
卓球は体力と精神力の両方が関わってきますが、eスポーツはより精神力が重要となります。なので、試合前の過ごし方とかが卓球の時以上に重要になってきます。実際に『eBASEBALL プロリーグ』でプロの舞台に立ってみて、ほかの選手よりも大舞台に馴れていると言う実感はありますね。
あとは、卓球をずっとやっていたおかげで、反射神経の部分は優れているのかと思います。今、卓球をやってみると、球が速すぎるんですよね。自分のことながら、すごいことをやっていたんだと思います(笑)。
——確かに、卓球は球技の中でもスピードが速いほうですものね。スポーツ選手がケガでプレイができなくなることと、スポーツほどケガやフィジカルの差に依存しないeスポーツの存在について、どう見ていますでしょうか。
新井:僕は卓球の選手歴と同じくらいケガとも戦ってきました。
それを踏まえた上で考えると、スポーツよりもeスポーツの方が、集中力が軸になってくるのは間違いないですね。卓球をしていた頃は、試合前に緊張していても身体を動かすことや声を出すことで、徐々に緊張をほぐすこともできました。
eスポーツの場合は、動かすのは指先だけなので、そこが動かないと意味がないんです。身体を動かしたりしても指先の緊張がほぐれることはあまりないので、そういう意味ではフィジカル以上に精神面、集中力が重要になると思っています。
eスポーツは体力的な限界がスポーツほど出にくいので、長時間プレイすることができます。ただ、集中力を長時間保つのは難しいですし、頭痛や目の疲れなどをどうにかしなくてはなりません。このあたりはフィジカルをケアするスポーツと一緒ですね。精神面の強さは試合でも顕著に表れます。緊張によっていつもできていることができなくなって、いわゆるイップス状態になったり、顔が真っ青になって今にも倒れそうな選手もいました。そのあたりを克服してベストなコンディションで試合に向かわないと結果も出せないのではないでしょうか。
卓球でケガをしてしまい、途中でリタイアしてしまったことは後悔もあるんですが、そのおかげで「eBASEBALL プロリーグ」に出会えたとも言えます。
——なるほど、スポーツとeスポーツでは緊張のほぐし方や調整方法が違うということですね。では、eスポーツの試合前の緊張のほぐし方はあるんでしょうか。また、日々の体調を整えるためにやっていることはありますか。
新井:緊張をほぐす方法はこちらが聞きたいくらいです(笑)。
昨年も緊張はしましたが、今年はよりいっそう緊張してしまっています。自分のことながら、卓球で全国大会の大舞台に出たことがあるとは思えないほど緊張してしまいます(笑)。
卓球をやっていたときは結構勝てていたので、ある意味いい緊張感だったんですよね。今年の「eBASEBALL プロリーグ」では結果を出さなくてはと自分にプレッシャーをかけてしまい、それが緊張感に繋がっているとは思います。
日々の生活については、今年はペースを掴むのが難しいですね。昨年は試合時間がだいたい決まっていたので、その時間にあわせた生活をしていればよかったんですけど、今年は試合時間がまちまちで安定していないんです。試合開始時間が、午前中の時もあれば、夜になる時もあります。なので、昨年以上に控え室の過ごし方が重要になっています。
午前中に試合がある場合は、朝5時に起床し、ホテルで練習してから試合に向かうようにしています。試合開始時間が、午後の場合は一度、仮眠をしてから挑むこともあります。
——卓球では日本一を獲得しましたが、「eBASEBALL プロリーグ」、eスポーツの世界ではそこはまだ成し遂げていないと思います。今後、日本一になるためには何が必要だと思いますか。
新井:まずは毎年プロになり続けることですね。「eBASEBALL プロリーグ」の選手はどの選手も1年契約なので、すべての選手が来年やれるかわからない。eペナントレースでいい結果を残すことだけでなく、いろいろなことが相まって、プロプレイヤーになること、続けることができるわけです。
それは技術的なこともありますし、運的なこともあります。
なので、シーズンが終わって、継続契約ができなくなった場合を考え、再度プロテストを勝ち上がるための準備はいつもしています。実戦を中心に練習し、いろんな人と対戦します。僕はゲームを長時間できるタイプではないので、少ないプレイ時間の中、どれだけ集中してプレイできるか、そして1プレイ1プレイに課題を持って練習できているかを念頭にしています。
プロプレイヤーとなった1年目は自分も相手も情報がなかった状態でした。2年目は、対戦相手の情報がわかりますので、対戦すると思われる選手については、メモをとって、戦い方の傾向などは研究するようになりました。チームメンバーも同様に研究しており、その成果はチーム内でも情報共有しています。こちらが研究するように、相手チームや選手も自分のことを研究していると思います。なので、普段プレイしているオンライン対戦とは違う試合用の戦い方をすることもあります。
——なるほど。情報戦でもあるんですね。eスポーツの世界は戦力差が少ないことが多く、平等な状態で対戦し、プレイヤーの腕前で勝負することが多いですが、「eBASEBALL プロリーグ」の場合、戦力差がある状態で戦いに挑まなくてはなりません。どのように格上のチームを倒すことを考えていますでしょうか。
新井:そこに関してはしょうがないですよね。福岡ソフトバンクホークスの選手が2~3人、ドラゴンズにくれば、かなり強くなれるのにって思ったりしますが(笑)。
まあでも現状の戦力で勝ててないのは、ただの言い訳だと思います。強いチームの選手が楽かと言うと、勝てて当たり前というプレッシャーもあるんじゃないですかね。
ドラゴンズの野手は決して強い選手ばかりではないですが、投手力はトップクラスだと思っています。なので、守り勝つことがドラゴンズを使う上で重要ですね。自分のプレイスタイルとしては、本来、打撃中心なんですが、守り勝つ野球は得意ではないかも知れません。使用するチームにマッチするプレイをするのが勝つことの早道ですね。
実際、2019シーズンの「eBASEBALL プロリーグ」のeペナントレースの優勝チームは千葉ロッテマリーンズ、東京ヤクルトスワローズでした。どちらも2019年のプロ野球のペナントレースでは最下位チームです。チームの戦力に見合った戦い方をしたことで、勝利に繋がりました。今ある戦力で優勝してやろうと思ってやらないとダメですね。
——今シーズンも苦しい戦いが続いていますが、後半戦に向けての意気込みをお聞かせください。
新井:僕個人の成績に関しては、去年はチームに迷惑をかけてしまいました。それでも継続契約をしてくれたので、期待に応えたいと思います。後3~4試合残されているので、そこを勝ち越していきたい。できれば全勝していきたいですね。
あと、個人成績的には、去年は防御率が9点台でした。今年は最終的に2点台にしていきたいですね。あとチームとしては、3位までに入ること。eクライマックスシリーズまで行ければe日本シリーズはチャンスが出てきますので。プロ野球ではドラゴンズはAクラス入りしました。なので、我々もAクラス入りすることは戦力的に難しくないと思っています。
「eBASEBALL プロリーグ」の開催自体、コロナ禍で難しいと思っていました。そこを運営とかスポンサーが頑張ってくれたので、その思いに応えていきたいですね。
——ありがとうございます! 最後にスポーツをしている人は、新井選手のようにケガによって諦めざるを得ない人も多くいます。そういった方々に、次のステージで活躍している新井選手からアドバイスをお願いします。
新井:僕は卓球をやめた時、もちろん寂しさがありました。やめた瞬間は、やることがなくなってしまったとも思えましたが、卓球以外のことをなんでもできると思えるようになったんです。
これからは、何を目指してもいいと思い、楽しくなった部分もありました。いろいろなことをやってみたいと思い、さまざまなことに興味を抱いた結果、「eBASEBALL プロリーグ」に出会うことができました。
これまで積み重ねてきたことを諦めるのは辛いことでもありますが、いろいろな世界にチャレンジした方が生き方も楽しくなっていくと思っています。新しく始めたことが、どうしても合わず、無理だと思うのであれば、その時は無理に続けずやめればいい。そこから、さらに新しいことに挑戦してほしいですね。
——ありがとうございました!
———
卓球の英才教育を受け、結果も出していた矢先にケガによって道半ばで諦めなくてはならないのは、常人には計り知れないものがあると思います。しかし、新井選手はケガによって諦めざるを得ない理不尽さも、長年積み重ねてきた努力が無駄になってしまったことも、すべて受け入れた上で、新たな道を探しだし、それまで以上に注力しているように見えました。
目標が頓挫してしまった時、多くの人はそこで打ちひしがれてしまい、挑戦することから逃げ出してしまいます。そこを新たな挑戦ができる機会がやってきたと思えるのは、本当に素晴らしい考えだと感銘を受けました。
まだまだ将来がみえにくいeスポーツですが、新井選手のようなスタンスであれば、eスポーツ選手を引退したあとも、きっと新たな挑戦をし、道が拓けて行くのではないでしょうか。
新井選手のTwitter:
https://twitter.com/eBASEBALLmikan
新井選手のYouTubeチャンネル:
https://www.youtube.com/channel/UC8PVCkBT1syKUvDh-kjQwJw
「eBASEBALL プロリーグ」公式サイト:
https://e-baseball.konami.net/pawa_proleague/
©NPB © Konami Digital Entertainment
【岡安学 プロフィール】
ゲーム情報誌編集部を経てフリーライターに。ゲーム誌のほか攻略本など関わった書籍は50冊以上。現在はeスポーツ関連とデジタルガジェットを中心にWebや雑誌などで活躍中。近著「INGRESSを一生遊ぶ!」(宝島社)
Twitter:@digiyas
ゲーム情報誌編集部を経てフリーライターに。ゲーム誌のほか攻略本など関わった書籍は50冊以上。現在はeスポーツ関連とデジタルガジェットを中心にWebや雑誌などで活躍中。近著「INGRESSを一生遊ぶ!」(宝島社)
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