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強さだけでなく「マエピー面白い」と思われる選手であり続けたい【オリックス・バファローズ代表選手 前田恭兵選手インタビュー】
eBASEBALLプロリーグインタビューシリーズも今回で3回目となります。中日ドラゴンズの新井宇輝選手、読売ジャイアンツの吉田友樹選手に引き続き登場するのは、オリックス・バファローズの前田恭兵(まえだきょうへい)選手です。
前田選手は、ここ数年の「パワプロ」シーンにおいて、もっとも栄光と挫折を経験した選手といえます。eBASEBALLプロリーグが開催される前年に開かれた「パワプロチャンピオンシップ2017」(以下、「パワチャン」)の「パワプロゲームソフト部門」で優勝し、全国一位のプレイヤーとして輝きました。
2018年から開催されたeBASEBALLプロリーグでは、プロテストから注目を集め、eドラフト会議では4球団から指名が重なり、東京ヤクルトスワローズへ入団しました。しかし、栄光はここまで——。そこから2シーズン、プロプレイヤーとして活動してきましたが、出場10試合で、1勝もできずに終わってしまいました。
3年目となる2020シーズンでは、プロへの参加を見合わせることも考えた上で参加し、初戦で初勝利をあげ、4勝1敗の好成績でシーズンを終了しました。チームもeペナントレース2位に。eクライマックスシリーズでは惜しくも福岡ソフトバンクホークスに敗れたものの、納得の活躍と言えるのではないでしょうか。
そんな波瀾万丈の「パワプロ」生活を送った前田選手が、長かった低迷時代と、大躍進の2020シーズンを振り返ります。
2020シーズンのeペナントレースで流した涙の理由
――いきなりですが、2020シーズンのeペナントレースの初戦で勝利し、涙を流していましたが、その時の心境はいかがだったでしょうか。
前田恭兵選手(以下前田):実は、初戦に関しては例年通りの手応えで、あまり変わりがなかったんです。ちょっと実力は出せていないという感覚でした。野球の試合なので、相手があることですし、本調子ではありませんでしたが、巡り合わせ込みで、勝つことができました。
なので、勝てたこと自体の喜びや安心感はありましたけど、諸手を挙げて喜べる状態ではありませんでした。どちらかと言うと、このままじゃいけないと言う感じですね。
そういう感情だったので、正直、自分では泣くとは思ってなかったんですよ。先ほどお話ししたように、気持ちよい勝ち方ではなかったので、ほっとしたという感じはありました。でも、勝てなかった2年間と言うのは自分で思っていた以上に重いものだったんでしょうね。終わった瞬間足が震えていました。
――インタビューを受けているうちに段々表情が変わり、感極まった感じに見えました。じわじわと感じるものが出てきたんでしょうね。その2年間を受け、2020シーズンはeBASEBALLプロリーグに挑戦するのを辞めようと思っていたと聞きましたが、そうなんでしょうか。
前田:そうですね。仲のいい選手には「今年は出ないかも」と言っていました。なので、3年目の挑戦はかなり迷いました。
2年間eドラフト会議で指名してもらえましたが、どちらも惨憺(さんたん)たる結果で、2シーズンとも継続選手には選んでもらえませんでした。なので、再びプロテストから始めるわけですが、それを突破できるのかもわからないと言うのもありました。
もし、プロテストを通過したとしても、どの球団も2シーズンの実績は知っているわけですから、eドラフト会議で指名されることはないかも知れません。私が挑戦することで、数少ない登録選手の枠を奪うのであれば、若手に道を譲るべきなのではとも思いました。
そして何より、それらの懸念がすべて払拭できて、プロプレイヤーになれたところで、3シーズン目もひとつも勝つこともできないかも知れません。そうであれば、もう「パワプロ」に関しては立ち直れないのではないかと思いました。
――それでも最終的には、プロテストを受け、プロプレイヤーになる道を選びましたが、その決断に至ったのはどうしてでしょうか。
前田:eBASEBALLプロリーグで結果がでなかったんですが、実力の遅れをとっていたとは感じていなかったんですよね。オンラインでプレイしていても、プロプレイヤーやそれに近いレベルのプレイヤーに勝つことはできました。いずれ、体力面、技術面で追いつかなくなって、勝てなくなる日が来ると思いますが、それまでにやることやって、できるのであればやっていきたいと考えるようになりました。私は今年で34歳なので、あと何年、第一線で戦えるかわからないですから。
もうひとつのきっかけとして、2年目にプロ経験した若手が諦めてしまったことですね。自分と同じように成績が残せなかった選手が辛い思いをして、選んで貰ったチームに迷惑をかけてしまったと思ったり、プロプレイヤーとしての実力不足を感じたり、そんな理由で挑戦しないと発信していたんです。
それらを見て「何を言っているんだ」と思いましたよ。
彼らの成績って、確かに活躍したと言えるものではないですけど、私よりも全然、成績いいんですよ。しかも挑戦したのは1年だけですよ?
「こっちは2シーズンで10敗してるんだぞ。ちょっと失敗したくらいで諦めるな」と思ったわけです(笑)。
その奮起を促す気持ちが自分にも向いたんでしょうね。そこから3シーズン目も挑戦しようと決意しました。もし、プロになって、勝利できたら、諦めてしまった奴らに自分の姿を見せたいと思いました。「あんな成績しか残せなかったけど、頑張ってもう一度プロになって勝ってやったぞ、どうだ」ってね(笑)。
そんな事を考えるようになってからは、それまでの落ち込みはなんだったんだと思う位、挑戦したくなったんです。
――なるほど。吹っ切れたんですね。それがプロテストの結果に繋がったわけですか。
前田:そうですね。プロテストの時は気持ち的に晴れやかだったのか、いい形で集中できました。
まあ、最初のうちは強い人も弱い人も当たりますが、勝ち進んでいくうちに勝ち進んだ選手と当たり、終盤になれば簡単に勝つことはできなくなるので、そこまでいい成績を残せないと思っていました。それでも好調を維持することができ、結果、1位タイで抜けられたわけです。
3年目となり実力者が増えた現状で、これだけの成績が残せたので、やはり実力的には大きく不足しているとは感じませんでした。1位タイという成績だけ見ると、eドラフト会議での指名はほぼ確定に思えますが、やはり2シーズン勝てていなかったので、心情的にはeドラフト会議で指名されるかどうかの不安はありました。
――確かにeドラフト会議では、オリックス・バファローズの2位指名と余裕のある指名ではありませんでした。今年は4勝1敗という2シーズンで未勝利だったとは思えない好成績でしたが、この結果についてはいかがですか。
前田:2戦目以降に関しては、自分の力を出せるようになってきたのが大きいですね。自分の力が出せるようになったのは、やはりひとつ勝てたことで心に余裕ができたからでしょうね。
その後の試合では、自分がやりたいことのパフォーマンスが出せるようになりました。今年は、コロナ禍で大会は無観客試合になりましたが、それも多少の影響があるかもしれません。応援してもらうことはうれしいですが、勝てない状況が続いている時はプレッシャーに感じてしまうので、心の余裕が多少できたのかも。
フィジカルよりも試合に取り組むメンタルを整えることが大切
――話は少しさかのぼりますが、そもそも「パワプロ」シリーズはいつ頃から始められたんでしょうか。
前田:遊び始めたのは、中学生くらいですね。当初から自分はかなり強い方だと思っていまして、「パワプロ」の全国大会があれば、自分が一番になれると思っていました(笑)。
実際に、全国大会ができたときは心踊りましたよ。その当時でもう30歳になっていたんですけど、子どもの頃の気持ちのまま喜んで参加しました。eBASEBALLプロリーグが発足すると聞いたときも、なんの疑いもなく参加しましたね。
——なるほど。いつ頃からご自身がトップクラスだと気がつきましたか。
前田:「パワプロ」をやり始めた頃は、当然友達とプレイする機会しかなく、その中で一番強い程度でしたが、2010年でオンライン対戦が始まり、そこでも強さを発揮できたことが、かなりの自信になりました。もし、そこで強さを発揮できなくても「パワプロ」と言う同じ趣味を持った仲間との交流ができたので、「パワプロ」をやってきてよかったと思います。
――eBASEBALLプロリーグに初めて挑戦するときはどんな心境でしたか。
前田:全国大会の「パワチャン」で優勝後、交通事故にあってしまい、数カ月ゲームをさわれなかったんです。なので、プロテストを受ける時は、多少、実力は優勝時よりも落ちているんじゃないかなとは思っていました。ただ、試合に臨めば勝てる実力はあるとも思っていました。
「パワチャン」はひとりで勝ち抜けるものだったから、勝ちも負けも自分次第。実際プロテストでは好成績を残せたことが、eドラフト会議の4球団指名につながったんだと思います。
――前年チャンピオンとしての注目度の高さは、端から見てかなりのものだったと思います。それが影響したことはありますか。
前田:そうですね。それまでの実績から、自分よりも格下の選手だとみられていた選手と対戦し、試合が劣勢になったとしても、「この後、逆転して勝つんだろうな」と思われていた節はあります。
その勝って当然だと思われていたことが重荷になり、初めてプレッシャーを感じてしまいました。そこからは、普段の感覚でプレイができなくなってしまいましたね。たぶん、その感覚がずっと抜けきれず、その後の2年間に大きく影響していたんじゃないかな。
これまでは勝った時のみ、注目されていたんですけど、eBASEBALLプロリーグでは、プロプレイヤーとして負けた後にも記者に囲まれて、負けた心境を話すことをしなくてはいけないんです。それも初めての経験で、かなりしんどかった。それ以降、負の感情が出てしまったのはありますね。
ああいった場で実力を発揮できるかの適正はかなり重要だと思っています。年数を重ねることで、試合への挑み方がわかってくるんですけど、初年度はわからなかったですね。3年経験した今では、自分の中でできることが増えてきました。
――なるほど。eBASEBALLプロリーグ応援監督の真中さんも、前田選手のことを気に掛けていたようで、何度か励ましたと聞いています。
前田:真中さんには何度も励ましていただけました。ただ、その時は、うれしいと言うよりは、申し訳ない気持ちでいっぱいでした。
先も言ったようにeBASEBALLプロリーグが開催するにあたり、注目されていた私が、メディア対応、メディア活動も引き受けていました。そういった活動が負担になったり、プレッシャーになったりしたのでは? と、言われたこともありました。
普段、一緒に「パワプロ」をプレイしている仲間からも、心配されました。ありがたいことなんですが、その度に申し訳ない気持ちになってしまいました。
――期待に応えられないのは辛いですよね。プロ野球選手も期待されながらも活躍できず引退する選手がほとんどです。その選手も前田選手と同じような気持ちだったのでしょうか。
前田:プロ野球は規模も、レベルも、そこに到達するまでの大変さも段違いであるので一概には言えないですが、活躍できなかった選手も同じような気持ちだったのではないでしょうか。
――3シーズン目のプロテストの結果から、実力に大きな差がないと感じたと言っていましたが、3年目は何か変えた部分があるのでしょうか。
前田:試合をするとき、練習の時のような集中力を保てているかを疑問に持ちました。なので、3シーズン目に挑んだとき、技術ではなく、試合にどう臨むかを考えて行きました。その結果、日常から変えていき、いつでも同じ状態になることを目標にしました。
これまでは仕事が終わって帰宅したら、寝るまで練習をしていました。自分を追い込むまで練習したんですね。これも間違った方法ではないと思いますが、この方法は過去2シーズンで結果がでなかったわけです。
そこでメンタル面を強化することを考え、スポーツメンタルの本を何冊か買って、読んでみました。本を何冊か読んでいく中で、「メンタルは急に強くなるものではなく、整えていくものだ」と言う一節が胸に落ちました。それから、平坦な気持ちで試合に臨めるように、生活のリズムを整えるようになりました。
――ちなみに本のタイトルはなんでしょうか。
前田:青山学院大学の駅伝の監督をしていた原晋さんと根来秀行さんの共著の「青学駅伝選手たちが実践! 勝てるメンタル」ですね。
――原監督を敬愛するeスポーツ関係者は多いですね。生活のリズムを整えるようになって、どのように変わったのでしょうか。
前田:昨年までは試合前日になってしまうと、緊張と不安で、食事がのどに通りませんでした。今年は、試合前日になると、多少緊張感があるものの、食事もとれるようになって、大分変わりました。
――eBASEBALLを続けて行く上で、ご家族の支えも大きかったと聞いています。
前田:妻には、負け続けた2シーズンはずっと気を遣わせていたと思います。試合に行って、勝てずに落ち込んで帰ってきた様子を見るのは、かなりストレスだったみたいです。それでも普段通りに私に接してくれるのはありがたかった。
今考えても、2シーズンで10回もそういった状況を経験させてしまったのは、申し訳なかったですね。3シーズン目に挑戦することに二の足を踏んだのは、また、その負担を強いらせてしまうのではないかと言う、懸念があったからです。
――3シーズン目でようやく結果が出せましたが、来シーズンも挑戦するのでしょうか。
前田:気持ちとしては挑戦したいと思っています。ただ、もう34歳になるなか、仕事との兼ね合い、家族との時間の兼ね合いもあり、続けて行くかを考えました。20代であれば、好きなことをやり続ければいい感じでしたが、30代も半ばになるといろいろ難しくなる。ゲームをすること自体が辛くなるときもあるわけです。
まわりのことを考えると、わがままで貫き通すのは、どうかと考えますね。あと、eBASEBALLプロリーグへの負担がかなり大きくなっています。それは自分にもですが、家族にもですね。eBASEBALLプロリーグは報酬を頂けているのですが、報酬の額に対して割いているリソースの割合が高いんですよね。
それこそ日本一のチームが貰えるくらいの報酬があれば、犠牲にしていることに対しての代価となりうると思います。現状だと、eBASEBALLプロリーグは仕事の報酬と言えるものではないので、趣味の延長線上と言えます。それでは家族に迷惑をかけすぎるのではないかと。
——確かに。現状のeスポーツシーンで、あらゆるeスポーツプレイヤーが抱えている問題でもありますね。
前田:元々ゲームが好きで、「パワプロ」以外のゲームも以前はたくさん遊んでいました。今、何かほかにやりたいゲームがあっても「パワプロ」の練習に割ける時間を考えると、ほかのゲームを楽しんでいる余裕がない。ほかの選手だと、いろいろなゲームを楽しんだり、ゲーム以外のことも挑戦したりしていますが、私の場合、そこまで全振りしないとプロプレイヤーとしての活動が難しいと思っています。
まあ、日本一を取れない自分がダメって部分はあるんですけど、もし取れたとしても、毎年取るのは、私だけでなく、どの選手、どのチームでも難しいわけです。
――難しい課題ですね。最後に来季に向けての抱負をお願いします。
前田:いろいろ大変な面はあると思いますが、それでもまだ辞めるつもりはなく、挑戦はしていきます。
3シーズン目の経験を生かし、4年目はさらなるレベルアップもできると確信しています。eBASEBALLプロリーグを楽しみにしている観戦者にもっといい試合を見せられればと思っています。
また、勝つだけでなく、プロ選手として、「マエピー面白い」と言って貰える選手になりたいですね。これは私だけでなく、多くの選手がそうなって、選手ひとりひとりの顔がみられるようになれば、自然とプロリーグの発展になると信じています。少しでも貢献していきたいですね(笑)。
あとは、対戦相手に対しては「こいつが出たら何かやりそうだ」と思われたいですね。特に強いチームと試合だったり、eクライマックスシリーズやe日本シリーズなどの大舞台だったり。土壇場で登場し、期待を持って貰える選手を目指します。
——ありがとうございました!
———
全一獲得後に2シーズン未勝利だったのは、経験した本人にしかわからない、計り知れないものだったのでしょう。だからこそ、3シーズン目にしての初勝利に自然と涙が出たわけです。そして3シーズン目の大躍進は本人以上に、前田選手を見てきた多くの人たちが喜びをかみしめているはずです。
また、「パワチャン」の時は明らかに「パワプロ」好きな人が集まり、強いプレイヤーを決める大会だったのに対して、eBASEBALLプロリーグはプロ選手としてのパフォーマンスを求められる場になっているんだと感じました。そのためには、趣味の延長ではなく、プロプレイヤーとしての技量を得るために、注力しなくてはならないことも改めてわかりました。
そういう意味ではeBASEBALLプロリーグは次のステージに入ったといえるでしょう。今後はeペナントレースの試合数を増やしたり、年間通じて活動するために球団とeスポーツプレイヤーの連携を深めたりと、選手の努力に応じた活躍の場を増やすために新たな施策が必要になってきているのかも知れません。
前田 恭兵選手Twitter:
https://twitter.com/maepi6231
「eBASEBALL プロリーグ」公式サイト:
https://e-baseball.konami.net/pawa_proleague/
©NPB © Konami Digital Entertainment
【岡安学 プロフィール】
ゲーム情報誌編集部を経てフリーライターに。ゲーム誌のほか攻略本など関わった書籍は50冊以上。現在はeスポーツ関連とデジタルガジェットを中心にWebや雑誌などで活躍中。近著「INGRESSを一生遊ぶ!」(宝島社)
Twitter:@digiyas
ゲーム情報誌編集部を経てフリーライターに。ゲーム誌のほか攻略本など関わった書籍は50冊以上。現在はeスポーツ関連とデジタルガジェットを中心にWebや雑誌などで活躍中。近著「INGRESSを一生遊ぶ!」(宝島社)
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