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日本唯一のキックプロコーチ君島良夫はこう見た!ジェイミージャパンのキック戦術を紐解く

2017年6月29日 11:50配信

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君島良夫氏

 今回は、6月の日本代表(ジャパン)対アイルランド代表の2試合をジャパンのキック戦術からレビューしていこうと思う。キックの使い方、精度、チェイス(キックしたボールを追いかけて再獲得やトライに繋げる)、ジェイミージャパンの戦術について触れながら、レビューしていきたい。
第2戦の見どころ記事はこちら

1.第1戦、ジャパンは不要な反則からリズムを崩した
第1戦のレビュー詳細はこちら

 アイルランドはシンプルなアタックでボールを保持し続け、相手の反則を誘い得意のセットプレーや得点に繋げていく戦術を取るチームである。その相手に対してジャパンは不要な反則を繰り返し、ペナルティキックで失点したり、ロングキックで陣地深く入られ、アイルランドが得意とするラインアウトからのプレーで崩されたりと厳しい試合だった。

 ジャパンはコンテストキック(キックで高いボールを上げる、もしくはDFの背後に転がし、味方の再獲得を狙うキック)を織り交ぜながらアタックし続けたが、相手に容易にボールを渡してしまうようなシーンも多く見られた。

 その原因はキックの精度だろうか。スタッツから分析を行いたいと思う。ジェネラルキック数(試合の流れの中でのキック)は、ジャパンが28回、アイルランドが29回とほぼ同数だった。コンテストキックからの再獲得はジャパンが5/13、アイルランド代表は3/18。お互いにそれほど精度は高くなかったと言えるが、コンテストキックからの再獲得率はジャパンの方が高かった。

 アイルランドはキックの精度こそ低いものの、蹴った後のリアクションとディフェンスでしっかりとカバーできていた印象だ。アイルランド代表と比較すると、ジャパンはキック精度は悪くないが、キックとチェイスのリンクがうまくいかなかった。スタッツ上はジャパンのキック戦術が機能したように見えても印象として上手くいかなったように見えた原因はチェイスなどキックの後の展開である。キックとチェイスは切っても切り離せないセットであり、ここにジャパンの課題が見えた。ジャパンはディフェンスの裏へグラバーキック(転がすキック)を多用したが、味方のチェイスが遅れていたり、ハイボールを上げるもキックが長すぎて再獲得のチャンスがなかったりが目立った。第1戦は、キックの精度というよりはチェイスラインを含めたキックゲームに課題が残った。

2.第2戦、ジャパンのキック精度が大きく向上

 第2戦、アイルランドは第1戦から戦い方をほとんど変えずにいわゆる正攻法で戦ったのに対し、ジャパンはキックを少し減らし、自陣からも積極的に攻めるプランに変更した。キックはスクラムハーフからのボックスキックで再獲得を狙う。もしくはバックスラインから相手WTBの背後を狙うグラバーキックを多用し、そのうちの1つはトライにもつながった。

 第1戦はコンテストキックの再獲得率が5/13だったのに対し、2戦目は8/10と大きく向上した。スクラムハーフに入った流大選手(背番号9番)、田中史朗選手(背番号21番)のボックスキックの精度が向上したことに加えて、チェイスする側の意識向上が見受けられた。

3.キック攻撃。ジャパンが相手に見習うべき点とは

 キック攻撃に重要な要素として、キックの精度はもちろんだが、それに加えてキッカーだけでなく、バックライン全員の意思統一が不可欠である。第2戦のあるシーンを振り返って見たい。前半13分、ジャパンはペナルティから、クイックタップで速攻を仕掛けボールを動かすと、すかさずペナルティのアドバンテージを獲得。

 そこでスクラムハーフの流選手は相手DF背後のスペースを見つけ、絶妙なグラバーキックを左コーナーに繰り出した。

ところが、そのキックへの反応に一歩出遅れたジャパンのチェイスラインは、そのキックを再獲得することができず、ボールはタッチラインに出てしまい、この試合最初のスコアチャンスを逃してしまった。

 このシーンでキーとなることは、キッカーの流選手と、チェイスラインの選手たちの意思疎通だ。流選手がキックモーションに入った瞬間に、チェイスラインが反応してフラットの位置からチェイスするか、もしくは初めからキックの指示をWTB福岡堅樹選手(背番号11)、FB野口竜司選手(背番号15)あたりが伝達することで、統率の取れたキック&チェイスになり、限りなくトライに近づいていただろう。

 一方、アイルランドはどうだっただろうか。後半23分、キックオフのボールを長身ロックのデビン・トナー選手(背番号5)が直接キャッチすると、ジャパンのディフェンスの裏にスペースがあると見るや否や、大外のキース・アールズ選手(背番号14)からスタンドオフのパディ・ジャクソン選手(背番号10)に素早くキックの指示を伝達。

 それに反応したジャクソン選手は正確なキックでディフェンスの背後に落とすコンテストキックを見せた。WTB福岡選手の素晴らしい戻りで失点こそ免れたものの、コンテストキックから確実にチャンスを作る、アイルランドのこの一瞬の意思疎通とスキルはジャパンが見習うべき点である。

4.ジャパンの強みであるゴールキック。その精度は

 続いては伝統的にジャパンの強みである、ゴールキックに注目してみたい。先日のルーマニア戦は5/5、アイルランド第1戦が3/4、そして今回の第2戦が1/3であった。

 第2戦こそ精度が下がったが、ゴールキックは依然としてジャパンの強みである。しかしアイルランドは、2戦トータルで12/13と、92%の成功率を誇る。この結果を見ても、ジャパンには更に向上の余地があることは言うまでもない。

 ジャパンのキッカーは田村優選手(背番号12)、小倉順平選手(背番号10)、松田力也選手(背番号22)の3名。接戦の鍵を握るのは、間違いなくゴールキッカーのゴール成功率である。3名とも優秀なキッカーなだけに、大舞台を経験して、さらなる精度向上を期待したい。

5.19年W杯へ。80分間、ジャパンのラグビーを表現できるか

 ジャパンはアイルランドを相手に第1戦こそ大きなスコア差をつけられたが、第2戦はよく立て直し、現在世界ランキング3位の相手を十分苦しめることができたと言える。

 特に第2戦後半のディフェンスは、若い選手の多いジャパンにとっても大きな自信に繋がる出来だっただけに、前半の立ち上がりに立て続けに失点したことが尚更悔やまれる。しかしこれが世界トップ3の実力。手が届きそうで届かない世界との差なのかもしれない。

 毎試合80分間、高いワークレートでジャパンのラグビーを表現し続けることは最も難しいことだが、2019年W杯で好成績を残すための唯一の方法だと信じて、プレーしてもらいたい。

 11月には強豪オーストラリア代表とのテストマッチも控えているジャパン。キックを大きな武器としたジェイミージャパンの更に進化したアタックを見せてもらいたい。

文:君島良夫
撮影協力:延原ユウキ

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