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インタビュー

パラ卓球・岩渕幸洋(前編):「辛い日々」からの脱却と旗手の大役

2021年8月13日 11:37配信
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近年、日本が飛躍的に力をつけ、世界一の座にも手が届きつつある卓球。

試合では、スピード、回転、コースの変化を組み合わせ、戦術を練り、その勝敗には、メンタル面も大きく影響する。選手たちは、わずか直径40mm、重さ2.7gのボールに人生をかけ、それぞれの物語を紡いでいる。

この連載コラムでは、さまざまな選手たちにインタビューし、そのプレーや人間性の魅力に迫る。

今回は、2大会連続のパラリンピックに臨む岩渕幸洋選手。(インタビューは7月14日実施)

(聞き手・文=山﨑雄樹)



<前編:「辛い日々」からの脱却と旗手の大役>

―パラリンピックまで約1か月となりましたが、現在の心身のコンディションはいかがですか。

「この1か月は心の準備が大事です。今は、すごく辛い日々ですが、試合が始まれば、自信を持ってプレーできると思います。あとは、この1か月すごく辛いと思いますが、しっかり準備をして本番に臨みたいです」


―いきなり、「辛い日々」という衝撃的な言葉が出てきて驚きましたが、どういったことか教えていただけますか。

「実は4月に出場した日本リーグ選手権・ビッグトーナメントが終わってからプレーの感覚が何もなくなってしまって、3週間ぐらい皆に迷惑をかけっぱなしでした。練習でさえ、打った球が何も入らなくなりました。2本2本(フォアハンドとバックハンドを2本ずつフットワークを使って打つ基本練習)も続かないぐらいで、あさっての方向に打っていました。右の肩甲骨のあたりが固まってしまっていて、手先でコントロールしようとして変になってしまっていました。今は、そういった状態からやっと戻ってきて、動くようになったので、しっかり練習できるようになりました。確かにビッグトーナメントの結果(予選リーグ0勝3敗で敗退)はかなりショックでした。自分でも何がしたいのかのか定まっていないまま、試合が終わってしまいました。その後、気持ちよく卓球ができない、気持ちよく身体が動かせないという状態でしたが、ここ2週間ぐらいはすごく前向きに練習ができています」


―復調のきっかけは何ですか。

「(パラ卓球日本代表特命監督の)伊藤誠さんと『武者修行シリーズ』をやっています。誠さんがいろいろ準備をしてくださって、6月中旬に緊急事態宣言が明けてから会社(所属している協和キリン)の許可を得て、いろいろなところに行かせてもらいました。最初は『東海シリーズ』と題して、デンソー(日本リーグ女子1部)や豊田自動織機(同2部)、桜丘や愛み大瑞穂といった強豪高校を回らせてもらいました。

その次は、兵庫県の甲南大学に行き、強い選手や高校生、大学生などいろいろな選手とやらせてもらうなかで、『こういったプレーがいいんだ』と自信を得ることができました。試合勘が本当になかったので、すごくありがたかったです。初めて対戦する選手は何をしてくるかわかりません。どこに打っても、どこにでも返ってくる可能性があります。自分が的を絞り切れずに、全部のコースを待ってしまっていて、結局どこも取れない状態だったのかなと、振り返って思います。今は、自分のプレーによって相手が打つコースを限定できていて、『ここに出したらこう』という流れが見えてきて、自信につながっています」


―試合勘が戻ってきたり、判断の精度が上がったりしたのですね。

「新しいサーブなど準備していったことに対し、初めて対戦する選手がどうリアクションするのかというデータも集めることができて、より自信を持ってサーブも出せるようになりましたし、サーブからの3球目攻撃、5球目攻撃といった流れも作ることができてきています。この1年間やってきたことは無駄じゃなかったということも感じることができましたし、それをどう組み合わせて試合で使っていくのか、パズルを組み立てるような感じでできてきていますので、少しずつ気持ちよく動けるようになってきましたし、楽しくなっているところです」



―安心しました!ところで、開会式では旗手をつとめられますね!

「本当にびっくりしました。まさか、そんな大役を任せていただけるなんて。6月の中旬にJPC(日本パラリンピック委員会)の方から電話で打診があり、『情報解禁までは誰にも言わないで下さい。少しでも名前が漏れたら、変更の可能性がありますので』と言われたので、誰にも言えませんでした(笑)。5月はこうした取材依頼もまったくなく、5年前のリオ大会からやらせてもらってきて、これほどまで練習以外の予定がないことはありませんでした。びっくりするほどで『本当に大会をやるのかな』と思っていました。ですので、旗手の依頼をいただいたことで、大会に向けた準備が進んでいることを実感できて、パラリンピック開催が現実味を帯びてきて、励みになってモチベーションも高まりました。自分のなかでも覚悟を決めて、やるぞという気持ちになっています。また、自分がやってきた卓球以外にも、いろいろ発信していく活動をしていますので、それを認めていただけたのかなと感じています。すごく嬉しいですし、競技以外の発信も引き続き大切にして、臨みたいです」


―ここから1か月間、どういうことを想定して、練習していきますか。

「新しいことをするよりは、今の自分をどう出していくかという準備になります。今は、自分がやってきたこととパラリンピックでやるべきことが少しずつ見えるようになってきました。1年間準備してきて、持っているものを、本番にどうつなげていくかという準備になると思います」


―パラリンピックが1年、延期になった影響について、「プラスになった、プラスにした」面と、マイナス面を教えていただけますか。

「この1年は、本当に試合がありませんでした。ただ、試合がない分、対戦相手の対策を本当に細かく詰めるというよりは、もう少し大きく、自分の卓球そのものの質を上げることに時間を使えたことはよかったと思います。インパクトの強さやボールの捉え方など、1年間、迷走していたことも多かったです。1月から2月にかけて裏裏(両面裏ソフト)で3週間ぐらい練習していた時期もありました(本来のラバーはフォア面が裏ソフト、バック面が表ソフト)。そのときはバックハンドの感覚がおかしくて、何も入りませんでした。何も入らなくなることが多いんですけど(笑)。バックハンドを打つときに手首が動いてしまうことが癖で、『手首を使って打つのは表ソフトではなく裏裏の形じゃないか』という状態でした。回転がかかりやすい裏ソフトで練習することの狙いは、手首を固めてタイミングを掴むことで、その感覚を落とし込むことができました。その練習のおかげで、今は気持ちよく振れるようになってきました。本当にこの1年間、いろんなことが起きました」


―そんなことがあったとは、驚きです。今のお話は、プレーの修正点だと思いますが、強化したところはありますか。

「実は今、試合で使うサーブの配球は以前とはガラリと違うものになっています。以前は巻き込みサーブばかりで、ゴリ押ししていく感じだったのですが、今はバックサーブが主軸です。サーブから3球目攻撃の流れを大事にしていて、自分が動きすぎないようにしています。以前は、回り込んでしまって自分が動く展開ばかりになって、『無理やり取る』みたいな感じでしたが、バックサーブを使うことで落ち着いて入れるようなってきました。対戦相手にも、『岩渕は巻き込みサーブを出してくる選手』だというイメージがあると思うので、巻き込みサーブを出さずに、最後までずっとバックサーブで行くことができれば、相手は驚くはずです。そこはパラリンピックが1年延期になって、試合がなかったことの利点として考えてやっています」


―あらためて今回のパラリンピックの目標を教えてください。

「ぶらさずに『金メダル以上』ということは大切にして東京パラリンピックに臨みたいです。パラリンピックという機会こそ、いろいろな方に注目していただける場ですし、なおかつ今回は東京ということで、パラスポーツ界にとってもチャンスです。そこで自分がプレーをすることで、多くの方に楽しんでいただけたらという思いもあります。自分が観てきたパラリンピックの世界が本当に素晴らしいと感じてきました。そういった世界があるということを発信するという意味でも、『金メダル以上』という思いを多くの方に知っていただきたいです」


【プロフィール】

岩渕 幸洋(いわぶち こうよう)

1994年12月14日生まれ。東京都練馬区出身。中学1年生のときに部活動で卓球を始め、高校3年生からパラ卓球の国際大会に出場。出身校は早稲田実業学校、早稲田大学。パラリンピックには、2016年のリオデジャネイロ大会に初出場。2018年の世界選手権では3位に輝く。日本リーグの協和キリンでプレー。自身のYouTube公式チャンネルでも卓球やパラスポーツの魅力を伝えている。戦型は右シェークハンド裏ソフトと表ソフトの前陣速攻型。得意なプレーはサーブ。先天性の両下肢機能障害で「クラス9」、世界ランキングは4位。


【著者プロフィール】

山﨑 雄樹(やまさき ゆうき)

1975年生まれ、三重県鈴鹿市出身。小学生、中学生と懸命に卓球に打ち込んだが、最高成績は県4位、あと一歩で個人戦の全国大会出場はならず。立命館大学産業社会学部を卒業後、20年間の局アナ生活を経て、現在は、フリーアナウンサー(圭三プロダクション所属)として、Tリーグ(dTVチャンネル・ひかりTV・AmazonPrimeVideoなど)や日本リーグ(LaboLive)、全日本選手権(スポーツブル)など卓球の実況をつとめる。東京2020オリンピック・パラリンピックではNHKEテレのナレーションを担当。

また、愛好家として、40歳のときにプレーを再開し、全日本選手権(マスターズの部・ラージボールの部)に出場した。

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