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インタビュー

卓球・伊藤美誠(後編):東京2020オリンピック後の目標と自身のスタイル

2021年10月27日 10:00配信
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近年、日本が飛躍的に力をつけ、世界一の座にも手が届きつつある卓球。

試合では、スピード、回転、コースの変化を組み合わせ、戦術を練り、その勝敗には、メンタル面も大きく影響する。選手たちは、わずか直径40mm、重さ2.7gのボールに人生をかけ、それぞれの物語を紡いでいる。

この連載コラムでは、さまざまな選手たちにインタビューし、そのプレーや人間性の魅力に迫る。

今回は、東京2020オリンピックで混合ダブルスの金メダルをはじめ、3種目すべてでメダルを獲得した伊藤美誠選手。(インタビューは9月12日実施)

(聞き手・文=山﨑雄樹)



<後編:東京2020オリンピック後の目標と自身のスタイル>

―東京2020オリンピック、銅メダルを獲得したシングルスを振り返っていかがですか。

「混合ダブルスの疲れも最初はあったのですが、だんだんと自分の卓球を取り戻すことができました。まず、中国人選手以外には絶対に勝つという目標は達成できましたが、準決勝で中国の孫穎莎選手と対戦したときに、自分の力を出し切れなかったという思いがすごくありました。もちろん、タイミングの崩し方やサービスでの崩し方が中国人選手は本当にうまくて、その方法も1つではありません。1つ、2つ、3つとどんどん崩してくると言うか、簡単そうに見えるボールでも、私にとって難しいボールを送ってきました。

見た目ではわからない部分が結構あります。そういったところで私自身は、シングルスで力を出し切ることができなかったので、3位で銅メダルを獲ったときも、嬉しさと言うより悔しさが強かったです。感情もどちらかと言うと、笑えない、素直には喜べないという気持ちでした」

―悔しさを抱えたシングルスから最後の種目である団体戦にむけて、どう準備されましたか。

「シングルスが終わって、団体戦が始まるまで2日間お休みがありました。シングルスが終わった次の日は、睡眠を取ることを最優先し、しっかりと睡眠を取ることや身体のケアにつとめました。動きが激しい混合ダブルスが終わったあとに、足のマメがひどくなってしまっていて、1試合1試合痛みも増していたので、鎮痛剤を飲んだこともありました。点滴も打ちました。すると、次の日からすごく調子がよくなりました。睡眠も10時間ぐらい取れたので、団体戦では1試合目から最高の状態で臨むことができました」

―団体戦では前回の銅メダルを上回る銀メダルを獲得しました。

「団体戦はすべてがよかったです。楽しく試合ができました。楽しく試合ができたのは、ケアなどのサポートをして下さったスタッフの方のおかげです。早田(ひな)選手などリザーブメンバーとして会場にいる選手やスタッフもそうですが、会場には入れず、(拠点の)ナショナルトレーニングセンターにいるスタッフも、午前4時ぐらいまでサポートして下さいました。中国との決勝戦に負けて『また負けたか』という悔しさもありましたが、シングルスよりは最後に出し切れたという思いがあったので、『やり切った』という感覚がすごく強かったです」


―卓球スタイルについておききします。伊藤選手は特に独特のサービスのモーションに注目されることが多いです。ただ、「相手にわかりにくい」という狙いだけではないと思うのですが、いかがですか。

「そうですね。最初は回転量とかラケットのどこに当てるかとかを考えます。でも、私は『はい、こうやって』という規定みたいなものが苦手と言うか、形を作ることがあまり好きではなくて、自由と言うか、ぐちゃぐちゃなのが好きなんです。(松﨑太佑)コーチから『こうやってみて』と言われてやるんですけど、少し違うんです。教えてもらったサービスを真似しても、自然に自分のアレンジが加わります。それが自分の良さだと思います。自分で考えて出すこともありますし、コーチが動画投稿サイトで面白いサービスを発見して、『やってみて』と言うこともあります。

もちろん、わかりづらさという意味ではモーションも大事ですが、回転量や長さなど、1つ1つの細かい部分は、自然とそうなると言うか、私自身も『だいたいこういうサービスを出したいな』と思っているぐらいです。『このサービスを絶対に出そう』と言うより『このサービスを出して、出ちゃったら対応するしかない』という思いでやっています。もちろん最終的に最高な場所に出したいですが、サービスも回転量やスピードが必要な攻撃なので『ミスしても仕方がない』と思っています。私はそのミスがもったいないとは思いません。『安全にサービスが入っていれば点数が取れる』と考える人もいますので、それぞれだと思いますが、サービスは攻撃ですので、私はそうは思っていません」

―グリップを浅く持ったり、打球面が相手に見えなかったりという特徴についても教えていただけますか。

「それこそ自然にです。サービスも1か月ごとに少しずつ変わっていくと思います。大きく見ると半年ごとに変わっているかもしれません。同じサービスに見えても、半年後には全然違うサービスになっていることもあります。感覚のなかでやっていますし、そのときに出しやすいサービスを出したり、そのときに生み出したりしたサービスもあります。どんどん種類が増えていくので自分でも面白いです」


―バック面に表ソフト(表面が粒状で回転がかかりにくい一方、スピードがあるボールや無回転など変化をつけたボールを出せる)をずっと使われている理由は何ですか。

「福原(愛)さんが使っていたラバーの組み合わせということで、フォア面が裏ソフト、バック面が表ソフトというのが当たり前だと卓球を始めた頃から思っていました。たまに裏ソフトにしたいときもあって、少し試しましたが、正直、レシーブが難しかったですし、表ソフトの方が面白味があります。ラバーの種類もずっと変えていません。このラバーでできることを全部追求していこうと考えています。できないことはないと言えるぐらいまで追求したいと思っています。裏ソフトでできることは表ソフトでもできるという感覚です」


―伊藤選手にとって、卓球とはどんなものですか。また、これから卓球とどう関わっていきたいですか。

「私自身、家族がやっていたから卓球の世界に入りましたが、あらためてすごく面白いなと思います。私は性格上、目標があれば頑張れるタイプです。だからこそ、目の前の目標を決めてやってきました。また、卓球をやっていたから、逆に卓球だけではなくて、いろいろな方とお話しする機会に恵まれて、すごく楽しいです。卓球以外の競技の方もそうですが、自分が大好きな洋服、アパレル関係の方とのかかわりも持てました。私自身、自分の道を進むタイプで、結構、独特だと思います。

ですので、独特な感性を持った方とお話しすることもすごく面白いです。そして、何より卓球があったからこそ、自分のために頑張ることができています。もしかしたら、勉強など他のことに取り組んでいたら、自分のためにと言うより、誰かのためにやっていたかもしれません。スポーツだったからこそ、卓球だったからこそ、自分で決めた目標にむかって、私自身が頑張れます。自分のために頑張ることで、オリンピックのときも、周りの方やいろいろな方から『卓球って面白いね』、『こんなに盛り上がるスポーツなんだ』、『勇気が出た、元気が出た』と言っていただけました。

ですので、自然と勇気や元気を届けられる存在になっていけたらいいなと思います。試合で戦っているときも練習しているときも、もちろん感謝の気持ちはすごくあります。いろいろな支援や応援があってこそ卓球や試合ができていますので、『試合を開催してくれてありがとうございます』という気持ちももちろんあります。でも、いざ試合の舞台に立ったら、私は自分のために勝ちたいです。『応援をお願いします』と言うよりは、その姿を観て、自然と『応援したいな』と思ってもらえるような選手になりたいです。人それぞれだと思いますので、『この選手は好みではないな』という感情は人間的に絶対にあると思います。100%の人に好かれるというわけではなくて、私の気持ちや性格について、面白いと思ってもらえる人がいることは、私にとってすごく嬉しいです。

これからも私自身は、いろいろな形があると思いますが、『楽しい、ゾクゾクする、ウキウキする』道に行きたいなと思います。誰も行かないような道に行って、その道を開いて、自分の道を突き進みたいなと思います」

―あらためて今後の目標を教えてください。

「目の前のことをやり遂げたいと思います。オリンピックのシングルスには各国の代表選手が2人までしか出られませんが、世界選手権には中国人選手も含め各国5人の選手が出場できます。世界チャンピオンは過去に日本から誕生していますが、世界中の選手が成長している今の時代の方が強いと思います。

また、10年後は10年後で、その時代の選手の方が強いと思います。私は、オリンピックで成し遂げられなかったことや、オリンピックより難しいことを世界選手権で成し遂げたいです。世界選手権をオリンピックだと思って戦って、シングルスもダブルスも金メダルを獲るという目標でやっていきたいです」


―本当に貴重なお話をきかせていだたき、ありがとうございました。とても楽しい時間でした。

「普段は試合の話ばかりしかしませんが、この記事を読んで、卓球について『本当は奥が深いんだよ』ということを知ってもらえたら嬉しいです!ありがとうございました」


【プロフィール】

伊藤 美誠(いとう みま)

2000年10月21日生まれ。静岡県磐田市出身。2歳のときに両親の影響で卓球を始める。2016年のリオデジャネイロオリンピックに15歳で初出場し、団体戦で銅メダルを獲得。全日本選手権では2019年、2020年と2年連続でシングルス、ダブルス(早田ひな選手とのペア)、混合ダブルス(森薗政崇選手とのペア)の3冠に輝く。東京2020オリンピックでは、混合ダブルス(水谷隼選手とのペア)で日本卓球界史上初の金メダル、団体で銀メダル、シングルスで銅メダルと、出場した3種目すべてでメダルを獲得。戦型は右シェークハンド裏ソフトと表ソフトの前陣攻撃型。所属はスターツ。


【著者プロフィール】

山﨑 雄樹(やまさき ゆうき)

1975年生まれ、三重県鈴鹿市出身。小学生、中学生と懸命に卓球に打ち込んだが、最高成績は県4位、あと一歩で個人戦の全国大会出場はならず。立命館大学産業社会学部を卒業後、20年間の局アナ生活を経て、現在は、フリーアナウンサー(圭三プロダクション所属)として、Tリーグ(dTVチャンネル・ひかりTV・AmazonPrimeVideoなど)や日本リーグ(LaboLive)、全日本選手権(スポーツブル)など卓球の実況をつとめる。東京2020オリンピック・パラリンピックではNHKEテレのナレーションを担当。また、愛好家として、40歳のときにプレーを再開し、全日本選手権(マスターズの部・ラージボールの部)に出場した。

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