インタビュー
九州アスティーダ・橋本帆乃香(前編):「緊張」のTリーグ参戦と前期MVP
近年、日本が飛躍的に力をつけ、世界一の座にも手が届きつつある卓球。
試合では、スピード、回転、コースの変化を組み合わせ、戦術を練り、その勝敗には、メンタル面も大きく影響する。選手たちは、わずか直径40mm、重さ2.7gのボールに人生をかけ、それぞれの物語を紡いでいる。
この連載コラムでは、さまざまな選手たちにインタビューし、そのプレーや人間性の魅力に迫る。
今回は、今シーズンからTリーグ・九州アスティーダの一員としてプレーし、前期MVPに輝いたカットマン・橋本帆乃香選手。(インタビューは2月2日実施)
(聞き手・文=山﨑雄樹)
<前編・「緊張」のTリーグ参戦と前期MVP>
―まずは、全日本選手権(1月24日~30日・東京体育館)お疲れ様でした。新型コロナウイルスの影響で棄権者も多く出る大変な大会でした。シングルスはベスト16という結果でしたが、振り返っていかがですか。
橋本帆乃香選手(以下、「」のみ)
「試合を無事に終えられたことはよかったです。シングルスもダブルスもまずまずの成績だったので、自分としては何となく力を出し切れなかった感じです。シングルスは6回戦で早田ひな選手と当たることを想定していて、対策のための練習をかなりしてきましたが1-4で負けてしまいました。その大きな山場を越えるために練習をしてきましたので、悔しいです。早田選手は自分にとって格上の選手だと思います。世界選手権代表選考合宿(2021年8月30日~9月2日)で対戦したときに、4-3で勝ちはしましたが、早田選手も私も体力的にも肉体的にも追い込まれた状況で、最後に何とか自分が粘り勝てた試合でした。
今回は、お互いに対戦することが想定されたなかでの試合で、自分の作戦がなかなか効かなかったり、『ここがポイントだ』という勝負どころで1点を取り切れなかったりしたことが、勝負を分けたと思います。やはり、強い選手に勝つためには、最初に畳みかけることや、大事なポイントで自分が取り切ることがすごく大事だと感じています」
―ベスト8だったダブルスについてはいかかがですか。
「全日本選手権の前からTリーグの試合に佐藤瞳選手と揃って出場するときは、ダブルスでも出場させてもらっていて、自分たちのペアリングの調子もいい状態に仕上がっていましたが、準々決勝で伊藤美誠選手と早田選手のペアに簡単に負けてしまったので(0-3)、『ここが駄目だったから負けた』というよりは、あっけなく終わってしまった印象です。サービスやレシーブなど最初の技術がかなり劣っていたので、負けてしまったのだと思います。
2019年の世界選手権で対戦したとき(2-4)は、私たちにとって初めての舞台だったので『少しでも長く試合ができたらいいな』と挑戦する気持ちで戦っていました。また、その世界選手権の前の全日本選手権(準決勝0-3・2019年1月)で対戦していましたので、相手ペアにも私たちのペアについての情報があって『だいたいこういったプレーをしてくるだろう』と考えていたと思うのですが、自分たちは挑戦するだけでしたので、『持っているものを全部出し切ってやろう』と思い切ってプレーすることができました。
でも、今回は、自分たちも『絶対、勝ってやろう』という気持ちで入ったことで硬さがあったのかはわかりませんが、難しい試合になってしまいました。最初に畳みかけられて、自分もそうですが、おそらく佐藤選手も『あれ、どうしよう、どうしよう』と次のプレーを迷ってしまって、悪循環になってしまいました」
―さて、Tリーグでは、前期(2021年9月~12月)の12試合中11試合に出場し、ダブルスとシングルスで起用され、ダブルスは5勝6敗、シングルスは9勝2敗の成績を残し、前期MVPに選ばれました。おめでとうございます。どんなお気持ちですか。
「最初は『え!私ですか!?』みたいな感じでした。(木下アビエル神奈川の)木原美悠選手と勝利数が並んでいて(9勝)、直接対決で負けていたので(2-3・12月26日)、木原選手がMVPだと思っていました。また、首位のチーム(日本ペイントマレッツ)から選ばれるときいていたので、『誰なんだろう』と思っていましたが、川面創監督から連絡がきて『え!?え!?』みたいな感じで本当にびっくりしました(笑)。
MVPを狙っていたわけではなくて、『Tリーグ出させてもらってたくさん試合をしたい』という気持ちでしたので、まさか自分がMVPに選ばれるとは思っていませんでした。川面監督からはLINEで『この勢いでセミファイナル、ファイナルに残れるように頑張りましょう』という言葉をかけてもらいました」
―御自身の成績についてはいかがですか。
「思った以上に調子がよかったです。開幕戦(対日本生命レッドエルフ・2021年9月10日)で第1マッチのダブルスに出て、すごく緊張して硬いまま試合をしてしまった後、第4マッチのシングルスでは長﨑美柚選手と対戦しました。長﨑選手とも直前に対戦していて(世界選手権代表選考合宿で4-3、最終ゲームは13-11という大激戦で勝利)、最初は『うわ、また当たるんか』みたいな感じでしたが、3-0で勝つことができました。
それ以降は、自信がついたというか、気持ちが乗っていきました。その次の試合(9月20日)でも、去年の全日本選手権で負けた南波侑里香選手(日本ペイントマレッツ)にもリベンジができました。一番印象に残っているのは、石川佳純選手と対戦して(対木下アビエル神奈川・10日10日)、勝ち切れたことです。すごく嬉しくて、自信になりました」
―橋本選手でも緊張するのですね!
「高校生のときのインターハイ(2016年)や2018年の国体以来、ひさしぶりの団体戦で『自分だけで戦っているわけじゃない』という気持ちがあったり、九州アスティーダを観に来てくださっている方もいて『おお、こういう感じなんだ』と会場の雰囲気に少し圧倒されたりして、最初にサービスを出すときにすごく手が震えていて、自分でもびっくりしました。0-0から出した最初のサービスはバウンドがボコボコですごいことになっていました(笑)」
―卓球ファンにとっては待ちに待ったTリーグ参戦です。私も司会をさせていただいた世界選手権銅メダル獲得祝賀会で、当時Tリーグチェアマンだった松下浩二さんが挨拶で「皆さん、橋本選手がTリーグでプレーしている姿を観たくありませんか」と呼びかけられていたことを思い出します。参戦しようと思われた理由を教えていただけますか。
「所属しているミキハウスの木村皓一社長や大嶋雅盛監督が決断してくださいました。コロナ禍で国際大会も含め試合がなくなってきている状況で、試合ができないと選手にとってモチベーションが落ちてしまいます。練習していてもそれを試す場所がないと、どうしても苦しいです。Tリーグは試合が続いていて、試合がたくさんできることが参戦の大きな理由です」
―緊張したり、自信を得たりしながらのプレーですが、他に新しい発見はありましたか。
「一番は応援をいただけることです。観客の皆さんから手拍子や拍手をいただけると本当に楽しくプレーすることができます。自分の調子も上がります」
―ミキハウスや練習拠点をともにする四天王寺高校からは同じ九州アスティーダに佐藤瞳選手と塩見真希選手、横井咲桜選手、面田采巳選手が、ライバルチームの日本ペイントマレッツに芝田沙季選手、大藤沙月選手が所属しています。いわゆる「同士討ち」のような試合もありますね。
「試合ではあまり当たりたくないなと思います(笑)。もちろん、同じチームにいることはめちゃくちゃ心強いですが、逆に相手チームにいると『いないで。こっちに来てー』と思います」
―これは小学生から社会人までどのカテゴリーでも、同じチーム内や部内ではカットマンは「慣れられる」という面もあって難しいと思うのですが、芝田沙季選手と大藤沙月選手のペアに勝ちましたね(対日本ペイントマレッツ・12月25日)。
「練習試合も含めて過去10試合で、勝ったのはあの試合が初めてです。それまでは1ゲーム取れるかどうかというぐらい勝てなくて『どうやってやろう』と佐藤選手とふたりでずっと相談しました。『どうやってくるかな?』、『(相手は)慣れてるし、何でくるかなんて読めないよね』という感じで『とりあえず練習してきたことをやりながら、試合に入って調整してみよう』と臨みました。
勝つことができた大きなポイントは、佐藤選手も私もお互いが攻撃できるようになったことです。今までは守って守って、仕方なく打ち(攻撃)にいっていたのですが、お互いにすごく攻撃の練習をするようになりました。佐藤選手が特に攻めていたと思うのですが、仕掛けにいくボールが1本目で入ったり、相手に大きなプレッシャーを与えられるプレーをできるようになったりしたことが、一番大きいです」
―Tリーグでの今後の目標を教えてください。
「今は、5チームのなかで(セミファイナルに出場できる)3位に入っていますが、2月からかなり多くの試合が入ってきます。川面監督も言っているようにまずはセミファイナルに駒を進められるようにチームに貢献できるように頑張ります」
【プロフィール】
橋本 帆乃香(はしもと ほのか)
1998年7月5日生まれ。愛知県名古屋市出身。祖父・允至(みつし)さんが創設した卓伸クラブで5歳のときに卓球を始める。出身校は四天王寺羽曳丘中学・四天王寺高校。2016年度と2018年度の全日本選手権のシングルスでベスト4に入り、国際大会では2019年の世界選手権で佐藤瞳とのダブルスで銅メダルを獲得。今シーズンからは九州アスティーダの一員としてTリーグに参戦。戦型は右シェークハンド裏ソフトと表ソフトのカット主戦型。美しいフォームからのカットでファンを魅了する。所属はミキハウス。
【著者プロフィール】
山﨑 雄樹(やまさき ゆうき)
1975年生まれ、三重県鈴鹿市出身。小学生、中学生と懸命に卓球に打ち込んだが、最高成績は県4位、あと一歩で個人戦の全国大会出場はならず。立命館大学産業社会学部を卒業後、20年間の局アナ生活を経て、現在は、フリーアナウンサー(圭三プロダクション所属)として、Tリーグ(dTVチャンネル・ひかりTV・AmazonPrimeVideoなど)や日本リーグ(LaboLive)、全日本選手権(日本卓球協会・卓球TV)など卓球の実況をつとめる。東京2020オリンピック・パラリンピックではNHKEテレのナレーションを担当。また、愛好家として、40歳のときにプレーを再開し、全日本選手権(マスターズの部・ラージボールの部)に出場した。