インタビュー
九州アスティーダ・橋本帆乃香(後編):カットマンとして~きっかけと醍醐味~
近年、日本が飛躍的に力をつけ、世界一の座にも手が届きつつある卓球。
試合では、スピード、回転、コースの変化を組み合わせ、戦術を練り、その勝敗には、メンタル面も大きく影響する。選手たちは、わずか直径40mm、重さ2.7gのボールに人生をかけ、それぞれの物語を紡いでいる。
この連載コラムでは、さまざまな選手たちにインタビューし、そのプレーや人間性の魅力に迫る。
今回は、今シーズンからTリーグ・九州アスティーダの一員としてプレーし、前期MVPに輝いたカットマン・橋本帆乃香選手。(インタビューは2月2日実施)
(聞き手・文=山﨑雄樹)
<後編・カットマンとして~きっかけと醍醐味~>
―橋本選手が卓球を始めたのは5歳のときで、御祖父様(允至さん)が運営する卓伸クラブの練習を御父様(明正さん)が手伝っていたことがきっかけだったとききました。
橋本帆乃香選手(以下、「」のみ)
「そうですね。5歳のとき私は家にいて、『お父さんはどこに行ってるの?』と母にたずねると、母が『卓球を教えに行ってるよ』と教えてくれました。父のことが好きだったのかはわかりませんが(笑)、『あした、行く!』と言って卓球道場に通うようになりました。私は、たぶん身体を動かしたかったのだと思います。道場に入るとすぐに卓球台があって、『ええーっ!こんなに人がいるんだ!』と驚きましたが、『帰りたい』という気持ちはなくて『やりたい』と思いました。元日本代表の石垣優香さんもいました」
―すぐにカットマンになったのですか。
「5歳のときに卓球を始めて、6歳(小学1年生)のときに攻撃型のスタイルで全日本選手権ホープス・カブ・バンビの部に出場しました。予選リーグで全敗して帰ると、祖父に『カットマンにならないか』と突然言われました。最初は『え!カットマン!?カットマンって何?』と思いましたが、少ない戦型で珍しい、少ない戦型だからこそ勝てるのではないかと考えました。ですので、祖父に言われたことがきっかけですね。
今は『パリオリンピックに出場する』という言葉に変えましたが、世界選手権でメダルを獲るまではデスクに『会長先生(祖父)のためにがんばる』という紙を貼って、初心を忘れないようにしていました。祖父は孫としてではなくて他の選手と分け隔てなく指導してくれたので、甘えも出ず強くなれたのだと思います。
もちろん卓球から離れたときは優しかったですが、『おじいちゃん』ではなく常に厳しい『先生』という感じでした。私自身も選手を続け、祖父も指導者を続けているので、恩返しができたらなとすごく思っています」
―橋本選手の美しいフォームは多くのファンを魅了していますが、意識していることはありますか。
「全然ないですね。中学生や高校生の頃は、自分に試合の映像を観ることが本当に嫌いでした。『なんでこんなくにゃくにゃしてるんだ!』みたいな感じでした(笑)。でも、試合が終わった後に反省をするために、映像を観なければなりませんでした。
ただ、自分ではまだそう思ってはいませんが、フォームがきれいだと言われるようになって、自信がついたというか、『そう思ってくださる方がいるんだ』と嬉しくなりました。四天王寺羽曳丘中学に入って大嶋雅盛監督から教えてもらったことを忠実にずっとやってきましたので、自分で『こういうフォームにしよう』と意識したことはないですね」
―カットマンの魅力や醍醐味については、いかがですか。
「カットマンにしかできないプレーがあります。コートを大きく使って、どんな不利なラリーになっても何とか拾って拾って、相手が(安全に)入れにきたり、休んだりするボールを逃さずに仕留めにいくとことが、カットマンの一番の魅力だと私は思います」
―攻撃で転じるときの判断材料は相手のボールの高さですか。
「高い、低いももちろんあるのですが、流れというか、選手によって違うとは思うのですが、私は拾って拾って盛り返して、相手の入れにきたボールが『だいたいこの辺にくるな』と予測した通りの軌道できたときは狙いにいきます」
―趣味やオフの過ごし方などリフレッシュ方法を教えていただけますか。
「オフといっても完全なオフはなくてトレーニングに通わせてもらっているので、ラケットを握っていないという状態ですね。ですので、基本的に体は動かしています。あとの時間は、音楽を聴くことがすごく好きなので音楽を聴きながら過ごしたり、掃除をしたりします。
特に今は外出できる状況ではありませんので、音楽を聴くか、部屋の掃除をするか、目一杯おいしいものを食べるかして過ごしています。サツマイモが好きで、なかでも干し芋が好きです。メインシーズンが冬なので年中は食べられませんが、サツマイモのデザートがめっちゃ好きです!」
―掃除と言えば、Tリーグ前期MVPで掃除ロボットが贈られますね!
「寮の自分の部屋はロボット掃除機を使うほど広くはないので、卓球場の掃除機にするのか、使い道は考えます(笑)」
―最後に今後の目標を教えて下さい。
「もちろん2024年のパリオリンピックに出ることが目標です。3月から国内での代表選考会も始まり重要な試合が細かくありますので、気はまったく抜けませんが、体調を崩さずにひとつひとつ目標をクリアできるように頑張っていきたいです」
【プロフィール】
橋本 帆乃香(はしもと ほのか)
1998年7月5日生まれ。愛知県名古屋市出身。祖父・允至(みつし)さんが創設した卓伸クラブで5歳のときに卓球を始める。出身校は四天王寺羽曳丘中学・四天王寺高校。2016年度と2018年度の全日本選手権のシングルスでベスト4に入り、国際大会では2019年の世界選手権で佐藤瞳とのダブルスで銅メダルを獲得。今シーズンからは九州アスティーダの一員としてTリーグに参戦。戦型は右シェークハンド裏ソフトと表ソフトのカット主戦型で美しいフォームからのカットでファンを魅了する。所属はミキハウス。
【著者プロフィール】
山﨑 雄樹(やまさき ゆうき)
1975年生まれ、三重県鈴鹿市出身。小学生、中学生と懸命に卓球に打ち込んだが、最高成績は県4位、あと一歩で個人戦の全国大会出場はならず。立命館大学産業社会学部を卒業後、20年間の局アナ生活を経て、現在は、フリーアナウンサー(圭三プロダクション所属)として、Tリーグ(dTVチャンネル・ひかりTV・AmazonPrimeVideoなど)や日本リーグ(LaboLive)、全日本選手権(日本卓球協会・卓球TV)など卓球の実況をつとめる。東京2020オリンピック・パラリンピックではNHKEテレのナレーションを担当。また、愛好家として、40歳のときにプレーを再開し、全日本選手権(マスターズの部・ラージボールの部)に出場した。