インタビュー
日本生命レッドエルフ・森さくら(前編):Tリーグ4連覇の原動力「一番追い込んできたという自信がありました」
近年、日本が飛躍的に力をつけ、世界一の座にも手が届きつつある卓球。
試合では、スピード、回転、コースの変化を組み合わせ、戦術を練り、その勝敗には、メンタル面も大きく影響する。選手たちは、わずか直径40mm、重さ2.7gのボールに人生をかけ、それぞれの物語を紡いでいる。
この連載コラムでは、さまざまな選手たちにインタビューし、そのプレーや人間性の魅力に迫る。
今回は、今シーズン後期MVPを獲得するなど、Tリーグ・日本生命レッドエルフの4連覇に大きく貢献した森さくら選手。(インタビューは4月15日オンラインで実施)
(聞き手・文=山﨑雄樹)
前編・Tリーグ4連覇の原動力「一番追い込んできたという自信がありました」
―まずは、Tリーグ4連覇おめでとうございます。振り返っていかがですか。
森さくら選手(以下、「」のみ)
「ありがとうございます。今までのシーズンのなかで一番苦しかったです。日本ペイントさんが首位を走っていて、途中で少し離されてしまって『4連覇は難しいかな』と感じることもありました。新しくセミファイナル(レギュラーシーズン2位対3位)もできましたので、レギュラーシーズンを1位で通過することが大事だとはわかっていました。前半はあまりうまくいきませんでしたが、最終戦で1位が決まりました。皆が最後まで諦めなかったことが4連覇の大きな要因だと思います」
―レギュラーシーズンでは後半に9連勝を記録しました。
「2月に入るとレギュラーシーズンも終盤なので、皆で『1位で行くぞ』という気持ちが高まってきました。また、日本ペイントさんとの差も少しずつ縮まって、直接対決も(3試合)残っていて、『そこで勝てれば』という望みが私たちにあったので、頑張ることができました」
―プレーオフ・ファイナルはいかがでしたか。3-0という結果ですが、森選手と長﨑美柚選手のダブルス(2-1で勝利)も平野美宇選手(大藤沙月選手に3-1で勝利)の試合も紙一重だったと思います。
「私と長﨑さんのダブルスはレギュラーシーズンに1敗(9勝)だけしました。その相手がファイナルで対戦した日本ペイントのフォンティエンウェイ選手と大藤選手のペアでしたので、作戦を密に立てました。私は皆のことを信頼していましたので、『ダブルスが勝てば必ずチームも勝てる』と思っていました。(平野)美宇ちゃんも競ってはいましたが、最後は実力で勝ってくれました。私たちの個々の実力と総合力が勝(まさ)ったと思います」
―ダブルスでの「作戦」とは、言える範囲内で教えていただけますか。
「Tリーグのダブルスは3ゲームマッチのうえ、最終ゲームは6-6から始まりますので、すごく早く終わってしまいます。ラリーになることも少ないですし、サービスからの3球目攻撃などの戦術がうまくハマることが大事です。また、誰のボールを受けるかという意味では、サービスとレシーブを決めるコイントスも重要になってきます。実は、そのコイントスでも私たちにラッキーが働いたと思っています」
―確かに!サービスは2本交代ですから、すべての組み合わせが1巡すると8ポイント動きますし、ゲーム毎に誰のボールを受けるかということも変わりますね。
「私たちはコイントスで負けたんです。でも、相手がサービスを選んでくれて、私たちの望む形のレシーブになりました。第1ゲームは私がすごく緊張してしまって、うまく作戦通りにいかず落としてしまいましたが、最終ゲームは自分たちの得意な形(大藤→長﨑→フォン→森の打球順)になってよかったです」
―4連覇が決まった瞬間はいかがでしたか。
「本当に嬉しかったです。(国際大会などの影響で)今シーズンは(早田)ひなちゃんと(平野)美宇ちゃんが揃うときも少なくて、『難しいかな』と思ったこともありましたが、皆でファイナルにくることができて、3-0で勝つことができましたし、ファイナルでは(オーダーに名を連ねた)4人全員が試合に出られたことも嬉しかったです」
―個人でもシングルスが11勝4敗(リーグ5位)、ダブルスが11勝2敗(リーグ2位)という素晴らしい成績を残され、後期MVPにも選ばれました。御自身の成績についてはいかがですか。
「皆がいないときに、つなぎ役として、いろいろな意味で重要なポジションにいるということは自分でもわかっていました。『ひなちゃんや美宇ちゃんが戻ってきたときに、いいチームの状態でふたりにバトンを渡せたら』とずっと思っていたので、自分の役目は果たせたと思います」
―「つなぎ役」というよりシーズンを通して試合に出て結果を残した大黒柱だと思いますが…
「ありがとうございます。うーん。ただ、つなぎ役と思った方が自分の気も楽ですし、ひなちゃんや美宇ちゃんがいないときは、相手のエース格の選手もいらっしゃらないことが多く、Tリーグは、そこでの戦いが毎年重要になってきます。フルメンバー同士の戦いは少ないですし、それ以外の試合でどれだけ勝ち星を重ねていけるかがすごく重要です。今シーズン、私も含めて皆で勝点を積み上げられたことは本当に大きいです」
―シングルスでは開幕から3連敗しましたが、その後はビクトリーマッチで1度敗れただけ(11勝)です。
「昨シーズンはすごく負け越してしまい(5勝11敗)、その原因は精神的に崩れてしまったことだとわかっていたので、その反省をいかしました。また、今シーズンを迎えるにあたり、一番追い込んで(練習して)きたという自信がありました。(木下アビエル神奈川の)張本美和選手にも全然いい試合ができずに負けて3連敗してしまいましたが、『今までやってきたことを自信に変えてやるんだ』という気持ちを最後まで持ち続けることができたので、いい結果につながったと思います。自分を最後まで信じることができました」
―「追い込んだ」とは、練習の量ですか、質ですか。
「練習量もめちゃくちゃ増やしましたし、練習で長い時間集中力を保つことができるように、身体づくりにも取り組みました。筋力トレーニングもすごくやりましたし、ボクシングも始めて、自分が変わることができました。練習時間も1日1時間半ほど長くできるようになりましたし、集中力も続くようになりました。(昨シーズン)負けてものすごく悔しかったので、オフシーズンは卓球のことだけに集中するという日々が続きました。体力がないと集中力が続きませんし、練習量が多いと怪我も増えてしまいます。怪我をすることなくシーズンを終えることができて、本当によかったと思います」
―同い年の前田美優選手の引退もありました。プレーはもちろん、日本生命レッドエルフのベンチを含めた明るさや元気は、森選手と前田選手の存在が大きかったと思いますが、影響はいかがでしたか。
「(前田)美優がいなくなって、自分が最年長なんだとあらためて気づきました。チームの明るさは美優がいてもいなくても、皆明るいですし、元気よく応援しますし、試合以外のところではキャピキャピ明るいチームなので、それほど影響はなかったのですが、チームをまとめるとか、話し合いのときに自分が決断をしなければならないときとか、最年長は自分ひとりなんだなという実感がありました。私たちのチームは個人個人で皆強いですし、トッププレーヤーばかりだと私は思っていますので、あまり言うことも注意することもないですけど、何かを決めるときに『私が優柔不断になってはいけない、皆に迷惑をかけちゃいけない』と思っています」
(後編につづく)
【プロフィール】
森 さくら(もり さくら)
1996年4月17日生まれ。大阪府大阪市出身。父・春夫さん、母・裕美さん、兄・聡詩さんの影響で3歳のときに卓球を始める。出身校は青森山田中学・昇陽高校。高校2年生時の2013年度全日本選手権シングルスで準優勝の成績を残し、2014年の世界選手権(団体戦)で銀メダルを獲得。Tリーグでは1stシーズンから日本生命レッドエルフで活躍。2ndシーズンでは、シーズンMVPと後期MVPを獲得。戦型は右シェークハンド両面裏ソフトのドライブ攻撃型。サービスからの3球目攻撃が持ち味。
【著者プロフィール】
山﨑 雄樹(やまさき ゆうき)
1975年生まれ、三重県鈴鹿市出身。小学生、中学生と懸命に卓球に打ち込んだが、最高成績は県4位、あと一歩で個人戦の全国大会出場はならず。立命館大学産業社会学部を卒業後、20年間の局アナ生活を経て、現在は、フリーアナウンサー(圭三プロダクション所属)として、Tリーグ(dTVチャンネル・ひかりTV・AmazonPrimeVideoなど)や日本リーグ(LaboLive)、全日本選手権(日本卓球協会・卓球TV)など卓球の実況をつとめる。東京と北京のオリンピック・パラリンピックではNHKのナレーションを担当。また、愛好家として、40歳のときにプレーを再開し、全日本選手権(マスターズの部・ラージボールの部)に出場した。