インタビュー
木下マイスター東京・田添健汰(後編):ダブルスのスペシャリストとして~パートナーがどこにいるかを意識~
近年、日本が飛躍的に力をつけ、世界一の座にも手が届きつつある卓球。
試合では、スピード、回転、コースの変化を組み合わせ、戦術を練り、その勝敗には、メンタル面も大きく影響する。選手たちは、わずか直径40mm、重さ2.7gのボールに人生をかけ、それぞれの物語を紡いでいる。
この連載コラムでは、さまざまな選手たちにインタビューし、そのプレーや人間性の魅力に迫る。
今回は、Tリーグ・木下マイスター東京の2シーズンぶり3回目の優勝に大きく貢献した田添健汰選手。(インタビューは4月19日実施)
(聞き手・文=山﨑雄樹)
後編・ダブルスのスペシャリストとして~パートナーがどこにいるかを意識~
―「ダブルスのスペシャリスト」としてのお話をきかせていただきます。まず、今シーズンのTリーグでは、6人の選手(𠮷田雅己選手・水谷隼選手・松島輝空選手・郡山北斗選手・大島祐哉選手・藤村友也選手)とペアを組みました。左右のプレーヤーがいて、年齢もさまざまで苦労はありませんでしたか。
田添健汰選手(以下、「」のみ)
「僕自身はどんな選手と組んでもやり辛いとは思わないんですよね。それぞれの選手にいい部分があるので、そこをどういう風に引き出すかということを常に考えています。例えば、フォアハンドが強い選手だったら、フォアサイドに(ボールが)来るようにとか、(フォアハンドで)回り込めるようにとか、レシーブなどで打つコースを考えています。少しフェイントを入れると、(相手の返球が)遅れて、コースを限定できる確率が上がってきます。
試合前には、パートナーに『こうしたら、8割ぐらいはこっちに来るから、回り込んで狙って』という話をしています。また、試合の時は、年上・年下は関係ないと思っているので、気にならないです。でも、年下の選手と組んだ方が『このコースで絶対待っておけよ』と、言いやすい部分はありますね(笑)。大島さんとはいつもフレンドリーな感じで話をしているので、まだ言いやすいのですが、水谷さんにはさすがに言えなかったです(笑)。
右きき、左ききについては、右ききの選手が、左ききの選手と組むとフォアハンドでのレシーブが多くなり、右ききの選手と相性のいい選手はチキータレシーブから入ることが多くなります。ただ、僕はそこまでチキータレシーブが得意ではないし、フォアの方が自信があるので大島さんと組んでもフォアのレシーブが多くなります。バックでレシーブしたとしても、ストップやツッツキになってしまうので、もう少しチキータを強化したいという気持ちがあります。そうすればもっと引き出しが増えると思います」
―今年1月の全日本選手権でも、張本美和選手と組んだ混合ダブルスでベスト4に入り、大島選手と組んだ男子ダブルスでも、新型コロナウイルスの影響で残念ながら準決勝で棄権となりましたが、ベスト4という成績でした。
「ミックスダブルスは自信がありました。張本美和選手もかなり強く、男子選手でも取れないぐらいの質の高いチキータを持っていて、僕が一番驚いていました。(張本美和選手のレシーブから)4球目を待っていても、狙いやすく楽でした。僕のレシーブが少し甘くなって(相手に強打されて)も、しっかりブロックしてくれるので、安心してレシーブできました。初めて練習したときに、『組みやすいな。上位を狙えそうだ』と思いました。一番はバックハンドの技術が高いことです。どうしても右ききの選手と右ききの選手が組むとバックサイドを狙われることが多いので、そこで質の高いバックハンドのボールを打ち返せると、その後の展開がまったく違ってきます。(プレーエリアも)張本美和選手が卓球台にくっついて僕が後ろから動くという形で組みやすかったです。大島さんとの男子ダブルスは全日本社会人選手権(2021年10月)の決勝で(協和キリンの平野友樹・松山祐季ペアに)敗れ2位でしたが、かなり僕らも練習して自信を持って全日本に臨むことができました。優勝を目指していたので悔しいところはあります」
―松島輝空選手は12歳年下、張本美和選手とは13歳年下です。どんなことを心がけましたか。私は、田添選手について「優しいお兄さん」という印象があります。
「松島選手とは、普段試合がないときでも僕から話しかけてコミュニケーションを取り、フレンドリーに接することができるようにしています。張本美和選手とは、試合で張本選手が打ちやすいところにくるように、頑張ってコースを狙っていました。僕が『このコースで待って』と伝えたときに、そのコースで待てるというメンタルの強さもありますし、技術力もかなり高く、『ここで、こういう技術をして』と僕も言いやすかったです。できないことを『やって』とは絶対に言いません。右ききと右ききのペアはラリーで不利になることが多いのですが、まったく苦にならなかったです。僕の想像とは桁違いでした。女子のトップ選手のなかでもすごいのに、それが13歳となるとさらに驚きです」
―ダブルスで大事なことはどんなことでしょうか。
「僕が一番意識していることは、パートナーがどこにいるかということです。本来、パートナーがどこにいるのかは見えないので、空間認識力というのでしょうか。例えば、パートナーがフォア側にいる場合、(相手の)バック側に打てば(こちらの)バック側に返ってくる可能性が高く、パートナーも大きく動かなければなりません。逆にフォア側に打てば、フォア側に返ってくるのでフォア側を狙います。全然準備ができていないのに、速いボールを送ってしまったら、速く返ってきて、(パートナーの動きが)遅れてしまいます。そういうときは緩いボールを使います。あとは、パートナーのことを常に考えています。パートナーが打ちやすいボールを送るように心がけています。自分が打ちやすいボールばかりだと点数が取れませんので、パートナーが打ちやすいボールがくるようにサービスやレシーブを工夫しています」
―趣味やオフの過ごし方などリフレッシュ方法を教えていただけますか。やはり釣りですか。
「それは弟(響選手)です(笑)。僕は釣れなかったら嫌なので行かないです(笑)。最近はNetflix(映画やドラマ、アニメなどの動画配信サイト)を見てのんびりしています。2年ぐらい前に『ワンピース』を第1話から見始めて、今900話ぐらいまできました。めちゃくちゃ面白いですよ。主人公のルフィが普段はおちゃらけた船長なのに、いじめなどが大嫌いで正義感が強く勝負どころでは気合いを入れて勝ちにいく姿がいいなと思います。感動的な場面では泣いてしまうこともあります。『黒子のバスケ』もやはり(題材が)スポーツで、(登場キャラクターが)本当に集中したときに『ゾーン』に入るのですが、どうやったらゾーンに入れるか、そんなことを考えながら真剣に見ていました。『メジャー』も漫画で全巻読みました。もちろん『鬼滅の刃』もです」
―最後に今後の目標を教えて下さい。
「Tリーグではシーズンを通して勝てるような選手になり、ファイナルで勝って2連覇したいです。個人としては、全日本選手権で男子ダブルスも混合ダブルスも3位と悔しい結果だったので今年度こそ優勝を狙います。シングルスではベスト8に入ったことがないので、まずはベスト8以上を目指して頑張ります」
【プロフィール】
田添 健汰(たぞえ けんた)
1995年4月2日生まれ。福岡県北九州市出身。父・浩さんの勧めで6歳のときに石田卓球クラブで卓球を始める。出身校は中間東中学、希望が丘高校、専修大学。全日本選手権混合ダブルスでは前田美優選手と組んで2012年度、2015年度、2016年度と3度優勝し、2017年の世界選手権でもベスト8の成績を残す。Tリーグでは1stシーズンから木下マイスター東京で活躍。2ndシーズンでは、宇田幸矢選手とのペアでベストペア賞を獲得。弟・響選手もTリーガー。戦型は右シェークハンド両面裏ソフトのドライブ攻撃型。ダブルスでは、ツッツキやストップなど台上の技術が光る。
【著者プロフィール】
山﨑 雄樹(やまさき ゆうき)
1975年生まれ、三重県鈴鹿市出身。小学生、中学生と懸命に卓球に打ち込んだが、最高成績は県4位、あと一歩で個人戦の全国大会出場はならず。立命館大学産業社会学部を卒業後、20年間の局アナ生活を経て、現在は、フリーアナウンサー(圭三プロダクション所属)として、Tリーグ(dTVチャンネル・ひかりTV・AmazonPrimeVideoなど)や日本リーグ(LaboLive)、全日本選手権(日本卓球協会・卓球TV)など卓球の実況をつとめる。東京と北京のオリンピック・パラリンピックではNHKのナレーションを担当。また、愛好家として、40歳のときにプレーを再開し、全日本選手権(マスターズの部・ラージボールの部)に出場した。