インタビュー
中国電力(京都カグヤライズ)成本綾海(前編):名門・中国電力のエース「練習で気を抜いている選手は誰ひとりとしていません」
近年、日本が飛躍的に力をつけ、世界一の座にも手が届きつつある卓球。
試合では、スピード、回転、コースの変化を組み合わせ、戦術を練り、その勝敗には、メンタル面も大きく影響する。選手たちは、わずか直径40mm、重さ2.7gのボールに人生をかけ、それぞれの物語を紡いでいる。
この連載コラムでは、さまざまな選手たちにインタビューし、そのプレーや人間性の魅力に迫る。
今回は、実業団の名門・中国電力のエースとして活躍し、今シーズンからTリーグにも参戦する成本綾海選手。(インタビューは7月22日オンラインで実施)
(聞き手・文=山﨑雄樹)
前編・名門・中国電力のエース「練習で気を抜いている選手は誰ひとりとしていません」
―まずは、全日本実業団選手権(6月30日~7月3日・徳島県鳴門市)での優勝おめでとうございます。振り返っていかがですか。
成本綾海選手(以下、「」のみ)
「ありがとうございます。前期日本リーグ和歌山大会の後、すぐ1週間後の大会であまり調整をする時間もありませんでしたが、その分試合の感覚が残ったままでした。日本リーグで勝てなかったのは(5勝2敗で3位)、ダブルスが全勝できなかったり、シングルスでも誰かひとりが落としてしまったりというミスがあったことが要因だったので、ダブルスを変えたり、オーダーを考えたりして、準備をしました。選手はやるだけでした。試合感覚が残っていた分、決勝戦でも勝ち切れました(3-2昭和電工マテリアルズ)。
私自身もダブルスで勝てると気持ちの面で良い影響が出て、シングルスでも勝ちやすくなります。パートナーの井(絢乃)ともしっかり話し合うことができていました。決勝戦でも(ゲームカウント)1-1の1-5でリードされていたのですが、その場面で私が井に『どうしたらいいかな』と質問をして、井からも『こうした方がいいんじゃないですか』という提案があって、しっかりコミュニケーションを取れたことが逆転勝利につながりました」
―優勝が決まった瞬間の気持ちはいかがでしたか。
「全日本実業団選手権では優勝したことがなかったので、昨年度も優勝したいと思っていたのですが、(新型コロナウイルスの影響で)大会が中止になってしまいました。さらに、昨年度の後期大会とファイナル4で優勝したメンバーから宋(恵佳)と庄司(有貴)という中心選手が引退したので、会社の方からも『勝つのが厳しくなるんじゃないかな』と言われていました。そのなかで、初優勝することができて安心しましたし、『まだまだできるぞ』ということを見せられたかなと思います」
―中国電力は日本リーグ1部で2018年度後期の初優勝から4回の優勝、総合優勝(ファイナル4での優勝)もされていますが、チームの良さはどんなところですか。
「練習で気を抜いている選手は誰ひとりとしていません。試合に出ていない選手でも、どうにかしようと試行錯誤をしていて、本当に皆集中しています。それは、伊藤(春美)監督や和田(圭輔)コーチが、選手の意見を聞いてくれるなどコミュニケーションをたくさん取ってくれ、私達が高い意識を持って練習に取り組める環境を作ってくれているおかげです。
また、OGのサポートもあって、『これだけしてもらっているんだから頑張らないと』という気持ちが強いのだと思います。(2018年度まで主将だった)土井(みなみ)さんや宋、庄司、和田コーチの奥さんの(旧姓𡈽田)美紀さんたちが練習場に来てくれます。(カットマンの)庄司は合宿に帯同して、同じ戦型の相馬(夢乃)にアドバイスをしてくれています。私もキャプテンとして、もちろんチームをまとめたり、コミュニケーションを取ったりすることが求められますが、OGが入ってくれてサポートしてくれているので本当に助かっています」
―成本選手も2019年度後期、2020年度後期と2回、最高殊勲選手に選ばれていますね。入社以来、順調に結果を残されてきたのでしょうか。
「チームが初めて優勝した2018年度は、私も入社2年目で対戦相手からあまり分析されていませんでした。相手が私のプレーに慣れていなくて、悪い言葉で言うと『勝ちやすい』状態で、勝ち越すことができていました。でも、だんだん分析されたり、慣れられたりすることで勝ちと負けが同じぐらいになってきました。そこで『しっかり勝っていかないといけない』という気持ちになり、練習量が増えました。1日の規定練習が4時間ぐらいだったとすると、その後に多球練習や筋力トレーニングなどの時間を増やしました。休日もコーチに頼んで練習することもありました。1日あたり1~2時間は増えました」
―個人戦でも今年1月に行われた全日本選手権のダブルスで準優勝に輝きました。
「宋とのペアで日本リーグでも勝ってきたので、私達もある程度自信があり、決勝進出を狙えるレベルではあると思っていました。(準々決勝の)芝田沙季・大藤沙月ペア(ミキハウス・四天王寺高)との試合がポイントだったと思います。宋が(2019年度まで主将をつとめた)𡈽田美佳さんとダブルスを組んで、一昨年の準々決勝で芝田・大藤ペアに負けていて、宋にも悔しい思いがありました。組み合わせが発表されたときも『またいるじゃん。今回は頑張って勝とう』と話して、準備をしました。ラリーではなくてサービスやレシーブの練習をすごくしたので、競った場面でその成果が出ました。嬉しい準優勝と言っていいと思います。
(決勝戦で敗れた)伊藤(美誠)・早田(ひな)ペアは世界のトップレベルで戦っているダブルスで、正直なところ、私達があんなにリードできるとは思っていませんでした。試合中に『競れるぞ』というところはありましたが、勝てそうで勝ち切れませんでした。1ゲーム目も9-3とリードして点差があるのに、逆転されてしまいました。いろいろな人に『勝てたよね』と言われ、私達も『チャンスはあったな』と思いますが、伊藤・早田ペアの実力が上だったと思います」
―さて、「日本卓球リーグは、サステナブルで、仕事と卓球を両立できるステージである」という理念にあるように、社業との両立が求められますが、1日のスケジュールを教えていただけますか。
「出社するときは午前8時50分から午後3時まで仕事をします。その後、4時30分からボールを打ち始め、終わるのは7時すぎで、そこからトレーニングをして帰るのは8時ぐらいというのが、1日の流れです。基本的に月曜日から金曜日まで仕事をしますが、会社の理解もあって(集中して練習する)合宿の期間も設けてくれていますので、試合前にはしっかりと準備ができます」
―やりがいや苦労はいかがですか。
「社員が応援してくれていて、雰囲気もとても良いです。『試合結果を見たよ』、『(日本リーグの試合を配信している)LaboLive見たよ』と言ってくれる人が本当にたくさんいます。ですので、仕事上のコミュニケーションも取りやすいです。私は、広報を担当していて、ホームページ関係の業務や問い合わせへの対応をしています。応援してくれる分、仕事でも役に立ちたいと思える職場ですので、社業との両立ができていると思います。
また、出社して仕事をすることで、ずっと卓球に向き合っていない部分があるので、いい意味で気持ちを切り替えられています。苦労と言えるかどうかはわかりませんが、平日は3時まで仕事をして、その後練習という繰り返しなので、8時に自宅に帰って食事を作って食べて、寝るだけの生活になります。そうなると、リフレッシュの時間があまり取れないので、木曜日あたりになるとちょっと顔に出てきます(笑)」
(後編では「Tリーグへの参戦」についてうかがいます)
【プロフィール】
成本 綾海(なるもと あやみ)
1995年3月13日生まれ。岡山県瀬戸内市出身。兄・晃海(あきうみ)さん、姉・奈帆美(なほみ)さんの影響で5歳のときに卓球を始める。四天王寺羽曳丘中学・四天王寺高校から同志社大学に進む。大学時代には全日本大学選手権で優勝。2017年に中国電力入社後も日本リーグで2度最高殊勲選手賞に輝くなど、エースとして活躍。今年の全日本選手権では宋恵佳選手とのペアで準優勝。今シーズン、京都カグヤライズからTリーグに初参戦する。戦型は左シェークハンド裏ソフトと表ソフトの前陣速攻型。多彩なサービスからの3球目攻撃やカウンター攻撃が持ち味。
【著者プロフィール】
山﨑 雄樹(やまさき ゆうき)
1975年生まれ、三重県鈴鹿市出身。小学生、中学生と懸命に卓球に打ち込んだが、最高成績は県4位、あと一歩で個人戦の全国大会出場はならず。立命館大学産業社会学部を卒業後、20年間の局アナ生活を経て、現在は、フリーアナウンサー(圭三プロダクション所属)として、Tリーグ(dTVチャンネル・ひかりTV・AmazonPrimeVideoなど)や日本リーグ(LaboLive)、全日本選手権(日本卓球協会・卓球TV)など卓球の実況をつとめる。東京と北京のオリンピック・パラリンピックではNHKのナレーションを担当。また、愛好家として、40歳のときにプレーを再開し、全日本選手権(マスターズの部・ラージボールの部)に出場した。