インタビュー
中国電力(京都カグヤライズ)成本綾海(後編):京都カグヤライズからTリーグ初参戦「勝っても負けても応援していただける選手に」
近年、日本が飛躍的に力をつけ、世界一の座にも手が届きつつある卓球。
試合では、スピード、回転、コースの変化を組み合わせ、戦術を練り、その勝敗には、メンタル面も大きく影響する。選手たちは、わずか直径40mm、重さ2.7gのボールに人生をかけ、それぞれの物語を紡いでいる。
この連載コラムでは、さまざまな選手たちにインタビューし、そのプレーや人間性の魅力に迫る。
今回は、実業団の名門・中国電力のエースとして活躍し、今シーズンからTリーグにも参戦する成本綾海選手。(インタビューは7月22日オンラインで実施)
(聞き手・文=山﨑雄樹)
後編・京都カグヤライズからTリーグ初参戦「勝っても負けても応援していただける選手に」
―大学時代を過ごされた京都に誕生した京都カグヤライズからTリーグに参戦されます。参戦の理由を教えていただけますか。
成本綾海選手(以下、「」のみ)
「新型コロナウイルスの影響で大会が中止になったり、国際大会に出場する権利があってもなかなか海外に行けなかったりするなかでも、もっと自分を強化していきたいと考えたからです。トップ選手と対戦することでいろいろな経験ができますし、試合の感覚を失わずにいられます。以前から『Tリーグに参戦したい』という思いはありましたし、周囲にも伝え、Tリーグに出られるように、伊藤(春美)監督が会社の方に掛け合ってくれ、会社の方にも動いてもらいました。
京都カグヤライズができて、『(代表の)池袋(晴彦)さんが京都にゆかりのある選手を探している』ということを噂で聞いたので、『出たいんです』ということを伝えてもらいました。私が学生時代に京都にいたときも、京都の方から応援していただきましたし、今回、京都からTリーグに参戦することを知って連絡をくださった方もいます。池袋さんも会見で『勝っても負けても応援されるようなチームにしたい』と言われていたので、その言葉通り私自身も、勝っても負けても京都の方に応援していただけるような選手になりたいと思っています」
―Tリーグに抱くイメージはいかがですか。
「日本リーグは試合会場に何台も卓球台があり、そういう環境でしか試合をしたことがありません。Tリーグはコートの周りが暗くて、卓球台も1台だけで、今までに経験したことのない雰囲気のなかでプレーするので、ちょっと緊張しています(笑)」
―チームメートはドイツ代表・シャンシャオナ選手、シンガポール代表・フォンティエンウェイ選手、香港代表・ドゥホイカン選手という3人のオリンピックメダリストに、9歳の松島美空選手です。
「癖が強そうなメンバーですよね(笑)。海外のトップ選手がどんな練習をしているのかも気になりますし、試合前はどういう行動をしているのだろうと思いますし、チーム内でもそういった勉強ができることが楽しみです。アドバイスももらえたらなと思います」
―成本選手の四天王寺高校での高校日本一や中国電力での実業団日本一の経験は、京都カグヤライズにとっても大きな力になると思います。団体戦で大切なことは、どんなことでしょうか。
「チームワークはもちろん大事です。ただ、チームワークだけでは勝てないことがあります。チームに貢献できるように自分自身のレベルを上げるために追い込んで練習できるかだと思います。四天王寺高校時代も、やらされていたとまではいきませんが、優勝しないといけない立場だったので、よく夜中まで練習しました。どれだけ自分を追い込めるかだと思います」
―2020年度の日本リーグプレーオフ・JTTLファイナル4では石川佳純選手に勝利しました。
「石川さんのような選手と対戦するときは気持ちの面で楽になれる部分もあります。9-9の場面でも積極的に回り込んで攻めていくなど、1本1本違うことをしないと勝てません。あの試合ではそういったプレーができました。ですので、力が同等な選手と対戦したときにも競った場面で思い切ったプレーができるようにならないといけないなと思っています」
―8月13日(土)14日(日)に個人戦が行われ、9月にレギュラーシーズンが開幕しますが、意気込みはいかがですか。
「Tリーグに参戦するために大きな手続きも必要で、会社の上の方たちもすごく動いてくれましたので、簡単には負けたくありません。負けたとしても最後まで諦めず、会社の方に応援されるようなプレーがしたいです。池袋さんにも声をかけていただいたので、京都カグヤライズにもしっかり貢献できるような選手になることが最初の目標です。
また、Tリーガーと対戦するのは、これまで全日本選手権ぐらいしかありませんでした。今年の全日本選手権で森さくら選手(日本生命レッドエルフ)と対戦しましたが(5回戦・2-4で敗れる)、日本リーグの対戦相手と比べると、パワーがあったり、1本多く返ってきたりして、試合の流れが違いました。Tリーグに参戦して、そういった選手たちと対戦することで力をつけ、全日本選手権でも上位を目指せるような選手になりたいです」
―成本選手は、バック面に変化系の表ソフト(粒がやや高く、無回転などの不規則なボールを出しやすい)を使用されていますが、どんなことを意識されていますか。
「コースもそうなのですが、緩急をつけるときに、ボール1個分長くなってしまうと、相手にとってチャンスボールになってしまいます。どんなボールでも際どいところに落として、全力で打たれないように心がけています。私は、新しい技術を身に付けようとしても、すぐにできる選手ではありません。何週間も同じことに取り組んで、何回も繰り返さないと身に付けられない選手なので、どれだけ徹底して練習できるかが勝負です」
―趣味やオフの過ごし方などリフレッシュ方法を教えていただけますか。
「ひとりで映画館に行くことが多いです。あとは、映画館の近くにある岩盤浴によく行きます。最近は『トップガン マーヴェリック』を観ましたが、衝撃的でした。主演のトム・クルーズが海軍の戦闘機に実際に搭乗して撮影しているらしく、本当にドキドキハラハラしました。予告だけでも見てもらえれば私が言いたいことがわかるはずです(笑)。本当におすすめです!『ワイルド・スピード』も好きです」
―今後の目標を教えて下さい。
「個人戦では、これまで全日本社会人選手権の優勝を目標にしてきました。それは達成できるまで、目標であり続けます。これからTリーグに参戦するにあたっては『日本リーガーもやるよ。一緒のレベルで戦えるよ』ということをアピールできたらと思います。そこでいろいろな経験を積んで、全日本選手権のシングルスで表彰台に乗りたいです」
―読者の皆さんに一言いただけますか。
「卓球をしていない方も試合会場に来てくださると思いますので、『こんな選手がいたんだ!』と注目してもらえるようなプレーができたらなと思います。お客さんにもたくさん来ていただきたいです!」
【プロフィール】
成本 綾海(なるもと あやみ)
1995年3月13日生まれ。岡山県瀬戸内市出身。兄・晃海(あきうみ)さん、姉・奈帆美(なほみ)さんの影響で5歳のときに卓球を始める。四天王寺羽曳丘中学・四天王寺高校から同志社大学に進む。大学時代には全日本大学選手権で優勝。2017年に中国電力入社後も日本リーグで2度最高殊勲選手賞に輝くなど、エースとして活躍。今年の全日本選手権では宋恵佳選手とのペアで準優勝。今シーズン、京都カグヤライズからTリーグに初参戦する。戦型は左シェークハンド裏ソフトと表ソフトの前陣速攻型。多彩なサービスからの3球目攻撃やカウンター攻撃が持ち味。
【著者プロフィール】
山﨑 雄樹(やまさき ゆうき)
1975年生まれ、三重県鈴鹿市出身。小学生、中学生と懸命に卓球に打ち込んだが、最高成績は県4位、あと一歩で個人戦の全国大会出場はならず。立命館大学産業社会学部を卒業後、20年間の局アナ生活を経て、現在は、フリーアナウンサー(圭三プロダクション所属)として、Tリーグ(dTVチャンネル・ひかりTV・AmazonPrimeVideoなど)や日本リーグ(LaboLive)、全日本選手権(日本卓球協会・卓球TV)など卓球の実況をつとめる。東京と北京のオリンピック・パラリンピックではNHKのナレーションを担当。また、愛好家として、40歳のときにプレーを再開し、全日本選手権(マスターズの部・ラージボールの部)に出場した。