インタビュー
日本ペイントマレッツ・芝田沙季(前編):初めてのTリーグ参戦「人生であの試合を経験することができてよかった」
近年、日本が飛躍的に力をつけ、世界一の座にも手が届きつつある卓球。
試合では、スピード、回転、コースの変化を組み合わせ、戦術を練り、その勝敗には、メンタル面も大きく影響する。選手たちは、わずか直径40mm、重さ2.7gのボールに人生をかけ、それぞれの物語を紡いでいる。
この連載コラムでは、さまざまな選手たちにインタビューし、そのプレーや人間性の魅力に迫る。
今回は、名門ミキハウス所属で、昨シーズンから日本ペイントマレッツのメンバーとしてTリーグに参戦している芝田沙季選手。(インタビューは9月5日オンラインで実施)
(聞き手・文=山﨑雄樹)
前編・初めてのTリーグ参戦「人生であの試合を経験することができてよかった」
―「昨シーズン、初めて参戦したTリーグ、チームはレギュラーシーズン14勝6敗、勝点47でプレーオフ・ファイナルに進み2位、個人ではシングルス9勝5敗、ダブルス4勝2敗という成績でした。振り返っていかがですか。
芝田沙季選手(以下、「」のみ)
「初めてのTリーグで、シーズン前半は自分もしっかり勝つことができて、チームの勢いを作り出すことができたと思いますが、後半は自分の負けがチームの敗戦につながってしまったので、正直、悔しいシーズンになってしまいました」
―四天王寺高校時代や2018年の「福井しあわせ元気国体」以来のひさしぶりの団体戦はいかがでしたか。
「自分は団体戦が好きですし、マレッツの応援はすごく盛り上げてくれます。勝った嬉しさや負けた悔しさはもちろんありましたが、プレーしていて本当に楽しかったです。今シーズンは、(同じミキハウスに所属する)佐藤(瞳)、橋本(帆乃香)、横井(咲桜)、面田(采巳)が移籍してきましたし、中学生や高校生の選手たちにも、試合に出る出ないは別として、そういった雰囲気を感じてもらいたいです。(日本ペイントの)社員の方が、遠方でのアウェイの試合に応援に来てくださったり、観客が少ない会場でもすごく盛り上げてくださったりします。その社員の方が雰囲気をつくってくださり、ファンやサポーターの方も一緒に乗ってくださいます」
―今シーズンの初戦は9月16日(金)トップおとめピンポンズ名古屋との対戦です。今シーズンの目標や意気込みはいかがですか。
「昨シーズンはレギュラーシーズンもプレーオフも悔しい結果になってしまいました。チームの目標は、他のチームもかなり強いですが、レギュラーシーズン1位で、プレーオフでも優勝できるよう、チーム一丸となって頑張ります。個人の目標としては、求められたところで勝つこと、チームを勢いづけられるプレーをすることです。出場した試合はすべて勝つつもりでいますけど…」
―すべて勝つとMVPも見えてきますが、いかがですか。
「じゃあ、ひっそり狙ってるということにしておいてください(笑)昨シーズンは、(九州アスティーダでプレーしていた)橋本が前期とレギュラーシーズンMVPを獲得しましたが、大藤(沙月)がずっと狙っています。大藤は、レギュラーシーズンMVPの賞金100万円をいただけたら、『(練習拠点の)ミキハウスの(古くなった)卓球台を全部買い替えるんだ!』と意気込んでいました。大藤も昨シーズン好成績を残していましたが(シングルスはリーグ2位の13勝4敗・ダブルスは8勝2敗)、MVPにわずかに届かず、ものすごく悔しがっていました。『本当にいい子なんだな』と思いました。本気で悔しがっていたので、さすがにそこで私が『自分がMVPを狙います』とは言えないですね…それぐらい、今シーズン大藤は気合いが入っています」
―9月16日(金)、17日(土)は東京・大田区総合体育館でのホームマッチですね。
「日本ペイントのホームマッチはかなり盛り上がります。どこの試合に行っても、『自分たちのホームマッチが一番いいな』と思います。関東方面の方にも感じていただけるように、選手とチームが力を合わせて、いい雰囲気を作っていけたらと思っています。Tリーグの日本ペイントマレッツの選手としても、普段の所属先のミキハウスの選手としても、実際に会場に来て、試合の雰囲気を感じていただきたいです。本当にマレッツのホームマッチはMCや音楽などの演出も含め、Tリーグのチームのなかでも盛り上がる方だと思います。Tリーグが気になっているという方は、まず、マレッツの試合を観に来てほしいです。まだ準備段階で、何事も最初にやることは難しいと思いますが、他のチームがやっていないことを、まずマレッツがやって、そこから他のチームに広がっていったら嬉しいです。チームスタッフには、本当に頑張ってもらっているので、選手もその頑張りに応えたいです。加入して、すぐそこまでの気持ちになれるチームはなかなかないと思います」
―昨シーズンのホーム最終戦(2月23日・東大阪アリーナ・2-3木下アビエル神奈川)での挨拶や、先月の「Nojima Cup」での「日本ペイントマレッツを知ってほしい」という言葉からもとてもチームを思う気持ちが伝わってきます。
「昨シーズンのホーム最終戦は、敗れた悔しさで泣いたというよりも、会場の雰囲気がすごく温かくて、拍手をいただいたり、私が言葉に詰まったときに『よく頑張った』とエールを送ってくださったりしたことに感動して、涙が止まらなくなってしまいました。負けたからどうとかではなかったです。素晴らしい雰囲気のなかで試合をさせていただいて、幸せな気持ちでいっぱいになり、感情が溢れてしまいました。すべての試合がそういった雰囲気になることは難しいとは思いますが、そういった試合を続けていくことがマレッツにとっても大事なことだと思いますし、自分たち選手にとっても、プロ意識を高め、成長につながります。自分ももちろんそういう雰囲気のなかで試合をしたいですし、後輩たちにもその雰囲気を感じながら試合をしてほしいです。ですので、マレッツを知ってもらって、応援していただけるような発言を心がけています」
―それほどまでに心が震える試合だったのですね。
「プレーしながら鳥肌が立ちました。人生であの試合を経験することができてよかったと思えるぐらいでした。『一番印象に残っている試合は?』とたずねられたら、間違いなくあの試合を挙げます。世界選手権の伊藤美誠選手との試合ももちろん印象に残っていますが、プレーしながら鳥肌が立つということは、そうありません。(当時の)三原(孝博)監督も試合中に会場の盛り上がりに合わせて手拍子をしていて、『何してんの!?アドバイスしてよ!』と思いました(笑)。そういった面白い出来事もありましたが、『ひとりじゃない』と思うことができたんです。卓球は、個人競技なので、どうしても孤独感や寂しさを感じることもあるのですが、本当に『ひとりじゃない』と感じました」
―SNSを通して、卓球専門店や卓球スクールなどにポスター掲示のお願いもされていました。
「自分たちもそうなのですが、ファンの方たちにも会場ならではの緊張感を味わっていただきたいです。そのためには、たくさんの観客の方に来ていただきたいので、自分たちも積極的に動いていけたらと思っています」
(後編は大好きな野球観戦や今後の目標についてうかがっています)
【プロフィール】
芝田 沙季(しばた さき)
1997年8月25日生まれ。千葉県旭市出身。いとこの榎澤彩さん・涼太さんの影響で6歳のときに卓球を始める。千城台南中学から四天王寺高校に進み、卒業後はミキハウスに入社。全日本選手権のダブルスでは大藤沙月選手とのペアで準優勝2回。2021年、アジア選手権には日本代表として出場し、団体で優勝、シングルスは3位の成績を残す。また、世界選手権にも初出場を果たした。昨シーズンから日本ペイントマレッツのメンバーとしてTリーグに参戦。戦型は右シェークハンド両面裏ソフトのドライブ攻撃型。粘り強いプレーが持ち味。
【著者プロフィール】
山﨑 雄樹(やまさき ゆうき)
1975年生まれ、三重県鈴鹿市出身。小学生、中学生と懸命に卓球に打ち込んだが、最高成績は県4位、あと一歩で個人戦の全国大会出場はならず。立命館大学産業社会学部を卒業後、20年間の局アナ生活を経て、現在は、フリーアナウンサー(圭三プロダクション所属)として、Tリーグ(dTV・ひかりTV・AmazonPrimeVideoなど)や日本リーグ(LaboLive)、全日本選手権(日本卓球協会・卓球TV)など卓球の実況をつとめる。東京と北京のオリンピック・パラリンピックではNHKのナレーションを担当。また、愛好家として、40歳のときにプレーを再開し、全日本選手権(マスターズの部・ラージボールの部)に出場した。