インタビュー
日本ペイントマレッツ・芝田沙季(後編):個人戦の振り返りとこれからの目標「パリオリンピック出場と人の役に立てる人間に」
近年、日本が飛躍的に力をつけ、世界一の座にも手が届きつつある卓球。
試合では、スピード、回転、コースの変化を組み合わせ、戦術を練り、その勝敗には、メンタル面も大きく影響する。選手たちは、わずか直径40mm、重さ2.7gのボールに人生をかけ、それぞれの物語を紡いでいる。
この連載コラムでは、さまざまな選手たちにインタビューし、そのプレーや人間性の魅力に迫る。
今回は、名門ミキハウス所属で、昨シーズンから日本ペイントマレッツのメンバーとしてTリーグに参戦している芝田沙季選手。(インタビューは9月5日オンラインで実施)
(聞き手・文=山﨑雄樹)
後編・個人戦の振り返りとこれからの目標「パリオリンピック出場と人の役に立てる人間に」
―先月のTリーグ個人戦「Nojima Cup」(8月13日・14日)を振り返っていかがですか。
芝田沙季選手(以下、「」のみ)
「初日の1回戦から準々決勝までは自分のなかでもいい試合ができたと思っていますが、2日目の準決勝と3位決定戦で、あまりいい内容の試合ができなかったので、どちらかと言うと、悔しさの方が大きくて課題がはっきりした大会でした」
―まず、1回戦で麻生麗名選手に4-1、2回戦で長﨑美柚選手に4-0と伸び盛りの2人に勝ちました。
「麻生選手との試合は初戦でしたし、麻生選手自身も昨シーズンのTリーグでいいプレーをしていたので、警戒していました。3月(5日・6日)の第1回パリオリンピック代表選考会「LION CUP TOP32」以来の国内の大会だったので、緊張もありました。勝ちはしましたが、プレーが全体的に硬かったです。長﨑選手との試合は緊張も取れて、程よい緊張感で試合ができたことと、戦術面でも対策として準備してきたことがうまくできました」
―準々決勝では伊藤美誠選手に4-3、それもファイナルゲームは13-11という大激戦の末、勝利しました。
「去年の世界選手権で対戦したときは3-4と惜しい試合でしたが、今年の全日本選手権は0-4と完敗でしたので、『勝ちたい』という気持ちももちろんありましたが、『まず今取り組んでいることをしっかりやろう』と、向かっていく気持ちで臨めました。そのなかで自分の持ち味であるフォアハンドや粘り強さをしっかり出せました」
―私も試合を実況させていただいていたのですが、第2ゲームに入ってすぐ、「芝田選手が台から少し距離を取っていますね」と実況しました。芝田選手のループドライブ(弧線を描く回転量の多いドライブ)が効果的だったように見えたのですが、いかがですか。
「申し訳ないのですが、あまり覚えてなくて…。その後、試合の映像も見ていなくて、はっきりとは覚えていないのですが、今回は『フォアハンドで勝負に行く』ということがポイントでした。ですので、ループドライブで相手のミスを誘うと言うよりは、しっかり狙い打つという形でした」
―勝った瞬間はいかがでしたか。
「『無』…。『無』でした(笑)。嬉しいという気持ちはもちろんあったのですが、試合が行われた時間帯も遅かったですし、試合の内容も濃かったので、勝った嬉しさよりも終わった安堵感の方が大きかったです」
―その後の準決勝(1-4平野美宇)、3位決定戦(0-4木原美悠)を含め、収穫と課題はいかがですか。
「技術的なところでは、平野選手も木原選手もレシーブでの台上のプレーが多彩で、そこに対応できませんでした。それまでの試合ではサーブやレシーブ、台上プレーでも優位に立てていましたが、2人との試合では台上プレーの質の差が出てしまいました。自分の形にできないときに流れを持ってくることができず簡単に負けてしまったところが課題です」
―木原選手には、その後の第2回パリオリンピック代表選考会「全農CUP TOP32 福岡大会」(9月3日・4日)で、4-1で勝ちました。
「サービスの配球などを大きく変えたこともありますが、相手の状態もあると思います。Nojima Cupのときに比べると木原選手の状態が良くなかったと感じています」
―試合の映像を観られないのは、今回がたまたまですか。それとも、普段からあまり観られないのですか。
「基本的に、自分の試合をあまり観たくなくて…。自分の卓球があまり好きではなくて(笑)。試合前に、対策のために『こういうボールがあったよ』とか『こういう展開だったよね』とか、確認はしますが、基本的に自分の試合は嫌いなのであまり観ないです。観ていると自分のプレーについて、『なんでそんなプレーをするんだろう?』と思ってしまうので観ないです」
―逆にどんな卓球が好きなのですか。
「好きな選手は(中国の世界チャンピオン)樊振東選手です。『人間やめてる』感じが好きです(笑)。『絶対にそんなボール入んないじゃん』とか、『そんな速いボール、打てる!?』とか、人間業とは思えないプレーを普通にしているところが好きです。私も周りからはパワフルだと言われるのですが、自分ではまったくそう思っていません」
―今、日本の女子卓球界は、世界でも通用する強い選手が揃っていて、まさに「群雄割拠」だと思います。そんな時代に卓球選手でいることについて、どう感じますか。
「勝つのが難しいことはずっと感じています。本当にレベルが高くて、誰と対戦しても、ひとつの戦術で結果が変わってしまいます。その難しさはありますが、だからこそ勝ったときに味わえる嬉しさは自分のモチベーションにもなり、もっと成長したい、もっと頑張りたいと思うことができます。そういった意味では、いいタイミングで卓球ができていると感じます。その高いレベルでオリンピックの代表争いに少しずつ加わることができていると思いますので、自分の成長も楽しみながら卓球に打ち込めていると思います」
―趣味やオフの過ごし方などリフレッシュ方法を教えていただけますか。やはり野球観戦ですか。
「はい。いろいろなチームの結果を見ていますし、個人的に気になる選手もたくさんいます。(野球に詳しい)チームスタッフに豆知識を教えてもらっています。大谷翔平選手は背番号も同じ『17』にさせていただいています。ヤクルトの村上宗隆選手やベイスターズの山﨑康晃選手、オリックスの山本由伸選手なども有名な選手ですが、気になります」
―御自身の25歳の誕生日(8月25日)にTwitterで「25歳の目標はBIG BOSSならぬBIG SIBAになることです!」と発信されていましたね。
「『BIG BOSS(日本ハム・新庄剛志監督)』も好きなのですが、面白いことが思い浮かびませんでした(笑)。京セラドームにオリックスと日本ハムの試合を観に行きました。チケットを取って、めっちゃいい席で観たんです。その試合で、BIG BOSSを観ていて、『BIG SIBAっていいじゃん』と自分で勝手に思ったんです。単純に卓球も人間的にももっと大きく成長していけるようにという意味を込めました」
―今後の目標を教えて下さい。
「まずは、パリオリンピックの出場権を取ることです。出場権を取れば中国を倒して、金メダルという目標に変わっていくと思いますが、まずはオリンピックに出ることが結果という意味での目標です。もうひとつは、両親、特に母の教育方針として、『自分ひとりでは生きていくことはできないから他人への感謝を忘れないように』と言われてきました。誰かの喜んでいる姿や成長しているところを目の当たりにすることが、私自身がプレーする、さらには生きるモチベーションになっているところもあるので、将来は人の役に立てる人間になりたいと思っています」
【プロフィール】
芝田 沙季(しばた さき)
1997年8月25日生まれ。千葉県旭市出身。いとこの榎澤彩さん・涼太さんの影響で6歳のときに卓球を始める。千城台南中学から四天王寺高校に進み、卒業後はミキハウスに入社。全日本選手権のダブルスでは大藤沙月選手とのペアで準優勝2回。2021年、アジア選手権には日本代表として出場し、団体で優勝、シングルスは3位の成績を残す。また、世界選手権にも初出場を果たした。昨シーズンから日本ペイントマレッツのメンバーとしてTリーグに参戦。戦型は右シェークハンド両面裏ソフトのドライブ攻撃型。粘り強いプレーが持ち味。
【著者プロフィール】
山﨑 雄樹(やまさき ゆうき)
1975年生まれ、三重県鈴鹿市出身。小学生、中学生と懸命に卓球に打ち込んだが、最高成績は県4位、あと一歩で個人戦の全国大会出場はならず。立命館大学産業社会学部を卒業後、20年間の局アナ生活を経て、現在は、フリーアナウンサー(圭三プロダクション所属)として、Tリーグ(dTV・ひかりTV・AmazonPrimeVideoなど)や日本リーグ(LaboLive)、全日本選手権(日本卓球協会・卓球TV)など卓球の実況をつとめる。東京と北京のオリンピック・パラリンピックではNHKのナレーションを担当。また、愛好家として、40歳のときにプレーを再開し、全日本選手権(マスターズの部・ラージボールの部)に出場した。