インタビュー
T.T彩たま・松平健太(前編):Tリーグでの活躍とT.T彩たまホーム最終戦へ
近年、日本が飛躍的に力をつけ、世界一の座にも手が届きつつある卓球。
試合では、スピード、回転、コースの変化を組み合わせ、戦術を練り、その勝敗には、メンタル面も大きく影響する。選手たちは、わずか直径40mm、重さ2.7gのボールに人生をかけ、それぞれの物語を紡いでいる。
この連載コラムでは、さまざまな選手たちにインタビューし、そのプレーや人間性の魅力に迫る。
今回は、ファースト所属で、TリーグではT.T彩たまでプレーしている松平健太選手。(インタビューは2023年2月13日オンラインで実施)
(聞き手・文=山﨑雄樹)
前編・Tリーグでの活躍とT.T彩たまホーム最終戦へ
―まず、Tリーグで自身初のシングルス2桁勝利(2月12日終了時12勝8敗)、勝利数もリーグ2位、日本人選手トップの好成績です。御自身にとってはいかがですか。
松平健太選手(以下、「」のみ)
「毎シーズン、勝ち越すことを個人的な目標としています。どれだけの試合に出られるかわかりませんので、2桁勝利というのはあまり頭にありませんでした。今シーズンはたくさん試合に出させてもらっているので、2桁勝利を挙げることができましたが、あまり実感はありません。嬉しいことは嬉しいですが、そこまで特別な思いはないですね」
―「勝ち越し」という面から見ても、過去のシーズンでは一度もなかった勝ち越した状態ですが、いかがですか。
「目標にしていた勝ち越しを達成できそうで、個人的には嬉しいです。あとは勝率をもっと上げられるように残りの3試合頑張りたいです。12勝11敗だと見栄えもよくないですし、15勝8敗の方が同じ勝ち越しでもはるかに価値が高いです」
―2019年の11月に国際試合からの引退を発表されましたが、「健在」というよりもさらに強く、巧くなっている印象が大きいです。
「僕ももちろんその実感はあります。成長している、強くなっているということを感じます。国際大会に出ることはありませんが、今の実力で出たらどうなるんだろうという気持ちは少なからずありますね」
―出てほしいです!
「出ないんですけど、想像するというちょっとした楽しみがあります(笑)」
―以前と比べ、良くなった点や変わった点を教えていただけますか。
「まずは引き出しの多さです。同じことをずっとやらないようにしています。いろいろなところにサービスを出したり、いろいろなレシーブをしたりしています。ラリー中のコース取りは、そのときの相手のボール次第で変わりますが、サービスとレシーブは自分でコントロールできる部分です。早い段階で相手に山を張らせないようなプレーができていることが、良くなっている点だと思います」
―以前から技術力に定評があったと思いますが、その技術を戦術、戦略面でうまく使えるようになったということですか。
「そうですね。すべて出し切ることを心がけています。今まではプレーが単調になることが多かったです。やろうと思えばできる技術はいっぱいありますが、試合の流れでその技術を出せなくなって、単調になってしまうというのが負けるパターンでした。今は、負けるときも比較的いろいろなプレーができています。負けたとしても自分のプレーができているというところが以前とは違います」
―今シーズンのTリーグの試合で強く印象に残っているのは、張本智和選手との試合(22年9月24日)です。ゲームオールの9-11で敗れはしましたが、感動すら覚える大激戦でした。
「その前に試合をしたのは3rdシーズン(21年2月20日)で、そのときは0-3で敗れました。前回の対戦からお互いにプレースタイルも変わっていると思ったので、1ゲーム目はどんな感じか確かめながら入りました。プレーは、事前に映像などを見て想像していた通りではありましたが、10-11で取られました。ただ、取られはしたものの『いけそうだな。2ゲーム目を取れば何とかなる』という手応えがありました。2ゲーム目を取ることができて、その後、ゲームカウント2-2で5ゲーム目に入りました。そこからは真っ向勝負になって、最終的には実力で負けてしまいましたが、やっていることは間違っていないという実感もありましたし、僕が考えてきた戦術通りに試合は進みました。(ゲームカウント)2-1の4ゲーム目も4-1とリードしていたので、僕のペースではありましたが、そのゲームを取り切れなかったことが僕の実力不足ですし、張本選手の強さだと思います。また、次に対戦したときには勝ちたいです」
―次の対戦がありますから、戦術や戦略について具体的に話していただくことは難しいですか。
「いえ!全然。まず、チキータ対策です。サービスとレシーブをすごく考えました。チキータの質を落とすようなサービスの配球を意識しました。張本選手はレシーブからどんどんチキータで仕掛けてくることが強みですので、長いサービスを使いました。レシーブも長いレシーブを多めにしました。張本選手はチキータをメインに基本的に台のなかに入ってきます。こちらのストップをチキータしてくることが強みです。その強みを半減させるぐらいの気持ちでした。サービスもレシーブも、バックだけでなく、ミドルやフォアなど大胆なコースの組み立てを心がけました。あとは、対張本選手に限ったことではありませんが、僕のプレーの特長である緩急をうまく使うことです。同じテンポで戦っても打球点などは張本選手の方が速いので、そのテンポを崩すために緩急は絶対に必要です。真っ向勝負をしても、相手は世界ランキング2位になったことがある選手なのでなかなか難しいです。うまくかわしながらリードすることができたのですが、緩急も常にうまく出せるわけではなくて、試合の終盤にうまく出せずに、張本選手のペースになりました。最後までうまく出すことができていれば結果は変わっていたかもしれません」
―また、現在、パリオリンピック代表選考ポイントで2位につける若手のホープ篠塚大登選手(木下マイスター東京)には3戦全勝(3-0・3-0・3-1)です。
「正直に言って、篠塚選手は良い選手ですので毎回対戦したいとは思っていません。対戦したら勝てるという自信もないですし、得意だとは思っていません。ただ、篠塚選手がやり辛そうにプレーしているとは感じます。他の選手との試合を見ても、僕との試合のときとは全然違います。僕がどうこうというよりも篠塚選手がやりにくいのだと思いますし、僕はやりやすいと思ったことは一度もないです。僕はいつも通り、テンポを変えたり、台上から崩したりということをやっていますが、誰と対戦してもそこは変わらないです。篠塚選手はそれに合っていないという印象です。僕はバックのレシーブのときにストップやツッツキが中心でチキータをあまり使わないので、篠塚選手をはじめ今の若い選手たちからするとチキータでどんどん仕掛けてくる選手の方がやりやすいのかもしれません」
―とても興味深いお話です。さて、松平選手が感じるTリーグの面白さはどんなところですか。
「駆け引きだと思います。競った場面、例えば10-10(ファイナルゲーム以外はデュースなしの1本勝負」)でどうするかです。最近で言えば、丹羽孝希選手(岡山リベッツ)と林昀儒選手(木下マイスター東京)の試合ですね(2月12日)。(ゲームカウント)2-1の10-10の場面で林選手は(バッククロスに)ロングサービスを出して、丹羽選手が完全に逆を突かれていました。『そこでその選択をするんだ!』という驚きもあり、そういった駆け引きが面白いと思います。先に相手に10点目が入っていても、追いつけば逆にゲームポイントやマッチポイントが取れることもそうです。あとはファイナルゲームが6-6から始まることです。(ゲームカウント)2-0から2-2になった場合、(ファイナルゲームが)0-0からのスタートだと追いついた方が有利だと思いますが、6-6からだと短期決戦なのでどうなるかまったくわからないです。僕自身も11日の及川瑞基選手(木下マイスター東京)との試合も12日の吉村真晴選手(琉球アスティーダ)との試合も2-0から2-2に追いつかれました。流れは僕の方が悪いはずなのに、(Tリーグ以外の)普通の試合とは違った駆け引きもあって、勝つことができました」
―2月25日(土)と26日(日)にはホーム最終戦が待っています。
「『声出し応援』が解禁されて初めてのホームマッチです。僕は2ndシーズン(2019-2020)から彩たまでプレーしていますので、『爆援』といわれる熱烈な応援を経験していますが、ほとんどの選手は経験していません。11日の川崎での試合(アウェイ・対木下マイスター東京)でも声を出しての応援ができました。ホームではないのでベンチの後ろの少ない人数ではありましたが、他の選手たちは『応援がすごかった』と話していました。これがホームになればもっとすごいと思います。僕もひさしぶりの『声出し応援』を味わいましたし、ホームマッチ2連戦で、さらにすごい応援が味わえることを楽しみにしています。ただ、ファンやサポーターの皆さんにとっても、ひさしぶりで最初はなかなか声を出す勇気が出なくて、難しいかもしれませんので、そこは(アリーナMCの)パーマ大佐に誘導してもらって、一緒に会場を盛り上げてほしいです(笑)。『爆援』がT.T彩たまの魅力のひとつです。プレーオフ・ファイナル進出の可能性はなくなってしまいましたが、来シーズンにつながる試合をお見せすることと勝利を届けることが僕たちの役目です。最後まで一緒に戦えたらと思います」
―ファンやサポーターの皆さんにお伝えしたい思いはいかがですか。
「いつもホーム・アウェイ関係なく応援に来てくれる方もいますし、会場に来られなくてもSNSなどを通して応援してくれていることを知ることができています。Tリーグでも全日本選手権でもすべての試合をずっと応援してくれている方もいて、感謝の気持ちしかありません。Tリーグがなければ、これだけたくさんの方に応援をしてもらえなかったかもしれません。Tリーグができたことによって、元々応援していた選手だけでなく、その選手が所属するチームの選手全員を応援してもらえる流れができました。個人だけでなくチームを応援してくれていることを、彩たまは特に強く感じます。まさに『箱推し』のようです。全日本選手権の会場でも『推しタオル』を掲げてくれていました。選手全員の『推しタオル』を持っている方もいますね。本当にありがたく、喜怒哀楽を共有できる存在です。2ndシーズンの最終戦(勝った方がプレーオフ・ファイナル進出という琉球アスティーダとの大一番)で負けて泣いている方もいましたし、逆に昨シーズンは初めてのファイナル進出を喜び合うことができました。それだけに、僕は勝つことが恩返しになると思っています。最近は連敗が続いていますので、最後のホームマッチ2連戦は何としても勝って締めくくりたいです」
(後編はプレースタイルの変化について、さらに詳しく、そして御家族のお話もうかがっています)
【プロフィール】
松平 健太(まつだいら けんた)
1991年4月11日生まれ。石川県七尾市出身。実家が経営する松平スポーツの卓球場で2人の兄・敏史さんと賢二さんの影響で「自然な流れで」5歳のときに卓球を始める。賢二さんは協和キリン、妹の志穂さんもサンリツで活躍する現役選手。全日本選手権では丹羽孝希選手とのペアでダブルス優勝2回、石川佳純選手とのペアで混合ダブルス優勝1回。世界選手権でも2013年のパリ大会でシングルスベスト8、2015年の蘇州大会ではダブルス(パートナーは丹羽選手)で銅メダルを獲得するなど長く日本代表として活躍。また、2022年の全日本選手権では高校2年生のとき以来13年ぶりの準優勝。戦型は右シェークハンド両面裏ソフトのドライブ攻撃型。緩急を使ったプレーなど高い技術が持ち味。青森山田中学・高校から早稲田大学に進み、現在はファースト所属。
【著者プロフィール】
山﨑 雄樹(やまさき ゆうき)
1975年生まれ、三重県鈴鹿市出身。立命館大学産業社会学部を卒業後、20年間の局アナ生活を経て、現在は、フリーアナウンサー(圭三プロダクション所属)として、Tリーグ(dTV・ひかりTV・AmazonPrimeVideoなど)や日本リーグ(LaboLive)、全日本選手権(日本卓球協会・卓球TV)など卓球の実況をつとめ、「日本一卓球を愛するアナウンサー」と呼ばれる。また、小学生、中学生と懸命に卓球に打ち込んだが、最高成績は県4位、あと一歩で個人戦の全国大会出場はならず。その後、愛好家として、40歳のときにプレーを再開し、全日本選手権(マスターズの部・ラージボールの部)に出場した。