インタビュー
トップおとめピンポンズ名古屋・鈴木李茄&安藤みなみ(前編):チーム史上最高成績で初のプレーオフへ
近年、日本が飛躍的に力をつけ、世界一の座にも手が届きつつある卓球。
試合では、スピード、回転、コースの変化を組み合わせ、戦術を練り、その勝敗には、メンタル面も大きく影響する。選手たちは、わずか直径40mm、重さ2.7gのボールに人生をかけ、それぞれの物語を紡いでいる。
この連載コラムでは、さまざまな選手たちにインタビューし、そのプレーや人間性の魅力に迫る。
今回は、Tリーグ・トップおとめピンポンズ名古屋のキャプテン鈴木李茄選手とエースの安藤みなみ選手。(インタビューは2023年3月6日オンラインで実施)
(聞き手・文=山﨑雄樹)
前編・チーム史上最高成績で初のプレーオフへ
―まずは、Tリーグ・プレーオフ進出おめでとうございます。
鈴木・安藤「ありがとうございます」
―鈴木選手は、実業団(日立化成・昭和電工マテリアルズ・現レゾナック)に所属していたときからトップ名古屋でプレーされています。昨シーズンはビクトリーマッチ(マッチカウント2-2の場合に決着をつける1ゲームマッチ)で敗れ、悔し涙を流す場面もありました。
鈴木「1stシーズン(2018-2019)からトップ名古屋はプレーオフに進出したことがなく、今回、初めて進出することができました。チームとして、なかなか勝てず何連敗もした時期もありましたが、監督やコーチ、スタッフも含めて本当にチーム全員で頑張ってきた結果、プレーオフに進出できましたので、その分、喜びも大きいです」
―安藤選手は、愛知県名古屋市出身です。専修大学時代の1シーズン(2018-2019)プレーし、その後、社会人になってからは実業団(十六銀行)を辞めて3rdシーズン途中(2021年2月)から再びトップ名古屋でプレーされています。
安藤「まず、セミファイナル(レギュラーシーズン2位対3位)を目標に皆で頑張ってきました。その目標を達成することができて、すごく嬉しいです。1stシーズンからずっと応援してくださっている方もいますので、これまではなかなか結果を出すことができませんでしたが、ようやく今回、少し恩返しができたかなと思います。また、地元にプロチームがあることはなかなかないことですし、地元でプレーしているからこそたくさん応援していただいています。例えば、母が卓球をしていて、母の友人からも本当に温かい応援をいただいています」
―6チーム中2位という好成績です。他チームの前評判も高かったなかで、チーム史上最高成績を残すことができた要因は何でしょうか。
鈴木「今年、専用の練習場ができたことにより、合宿をするなど、たくさんの時間を皆で過ごすことができました。ひとりひとりの卓球のレベルとチーム力の両方が上がったことだと思います」
安藤「私も同じ答えになってしまいますが、合宿をする回数が増えてチームワークが高まったことです。合宿はいつも約1週間で、1日練習の日と半日練習の日があります。1日練習のときは午前中に2時間、午後に2時間、その後は居残り練習という流れです。また、5番(ビクトリーマッチ)まで回って勝つ試合が多かったです(リーグ最多の6試合)。苦しい試合を勝ち切ることができたことがすごく大きかったです」
―鈴木選手は、南波侑里香選手とのダブルスで全試合に出場されました。これは過去のTリーグのどのチームでもなかったことですし、成績も12勝8敗でリーグ1位、自身2度目のベストペアにも選ばれました。
鈴木「20試合全部出場するという経験はなかなかできません。私たちのダブルスを全試合起用してもらえたことに感謝しています。そのなかでベストペア賞をいただくことができて、パートナーの南波選手にも感謝しています。どのチームにも強いペアがいたので、最初はあまり自信がありませんでしたが、だんだんと手応えを掴んでいくことができました。開幕戦は負けてしまいましたが(0-2佐藤瞳・橋本帆乃香ペア/日本ペイントマレッツ)、シーズンの序盤で何度か勝つことができました。その後、4連敗などもあり、勝つと調子が維持できて、負けるとそのまま引きずってしまうという自分たちの課題がはっきりとしました。他のチームのダブルスよりも多く練習を積むことができているおかげで、後半は自分たちのコンビネーションもよくなってきました。南波選手は思い切ってプレーしてくれるタイプでたくさん良いボールを決めてくれます。逆に私はコースを突いたり、戦術面で声をかけたりして、2人の役割分担もできています」
―安藤選手もシングルス14勝9敗とリーグ1位の成績です。
安藤「私もすべての試合に出させていただきました。本当にありがたいことです。レギュラーシーズンが終わると、あっという間だったと感じますが、これだけ試合に出ていると、勝って嬉しかったり、反対に負けが続いたりということがありました。それでも、精神的に安定した状態で最後までプレーすることができたのがよかったと思います。昨シーズン(12勝6敗)、前半(6連勝を含む8勝1敗)はよかったのですが、最後の方で負けが続きました(4連敗)。今シーズンは最後まで安定して戦うことができました。負けても落ち込みすぎずにすぐに切り替えることを心がけていました。また、試合前には若宮(三紗子)監督や木原(翔貴)コーチのアドバイスを基に対戦相手の対策を徹底して練習できたこともよかったです」
―それぞれ印象に残っている試合を教えていただけますか。
鈴木「ダブルスでは、木下アビエル神奈川の長﨑美柚選手と木原美悠選手と対戦した試合(11月19日・2-1で勝利)です。他の選手と組んだダブルスでも、そのペアにずっと勝てなくて、強いという印象がありましたが、練習の成果を発揮することができて、初めて勝てました。結果も内容もよかったです。また、チームとしては、2月18日の九州アスティーダ戦です。レギュラーシーズンは残り3試合で、セミファイナル進出がかかった大事な試合でした。皆、良い試合をしていて、ベンチから観ていてチームメイトでも感動するほどでした。結果的にビクトリーマッチ(チェンイーチン選手13-11加藤美優選手)もデュースで勝ち切れたことが大きかったです」
安藤「私も、鈴木さんと同じく11月19日に仙台で行われた木下アビエル神奈川戦です。シングルスの第4マッチ(3-2張本美和選手に勝利)とビクトリーマッチ(11-3平野美宇選手に勝利)に出場しました。張本選手は、その前の対戦で負けていた相手ですし(3月5日・LION CUP TOP32 1回戦1-4で敗れる)、今すごく勢いのある選手ですので、自分が向かっていく気持ちでプレーすることができました。平野選手との試合は、第4マッチからそのまますぐにビクトリーマッチに入ったので、身体もすごく良い状態でした。第4マッチから連続して出場する場合は、5分間の休憩を取ることができるのですが、第4マッチが接戦で身体が温まった状態だったので、それほど休憩を取らず、すぐに試合に入ることができました。ビクトリーマッチは1ゲームマッチで本当にあっという間に終わってしまうので、1本目から自分の得意とするパターンを使ったり、相手の苦手なところを突いたりと、『作戦を後に取っておく』ということではなくて、最初からすべて出し切ることを考えています。チーム全体では、2月4日の日本生命レッドエルフ戦(3-2で勝利)です。第1マッチのダブルスもすごい接戦(鈴木李茄選手・南波侑里香選手2-1森さくら選手・早田ひな選手)で、南波選手が声でごまかしながら(笑)、気合いで最後の1本をもぎ取って勝ってくれて、第5マッチも接戦(チェンイーチン選手11-9伊藤美誠)で勝ってくれて、すごく感動しました」
―プレーオフ・セミファイナル(3月22日・代々木第二体育館)では日本生命レッドエルフと対戦します。意気込みを教えてください。
鈴木「レギュラーシーズンの20試合も1試合1試合、皆で大事に戦ってきました。プレーオフは私たちにとって初めての舞台ですが、気負わずにレギュラーシーズンの1試合と同じように1球、1試合を大切に頑張りたいです」
安藤「いろいろな方に応援していただいたおかげでここまで来ることができました。感謝の気持ちをしっかり持って、トップ名古屋らしく良い雰囲気で試合に臨んで勝てるように頑張ります」
(後編ではふたりの出会いやプロ転向についてうかがっています)
【プロフィール】
鈴木 李茄(すずき りか)
1994年11月8日生まれ。静岡県静岡市出身。実家が経営する「プロショップ スズキ」で6歳のときに卓球を始める。仙台育英秀光中学に1年通った後、JOCエリートアカデミーに1期生として入校、その後は青森山田高校、専修大学に進学。全日本カデット、インターハイ、全日本大学総合選手権と中学、高校、大学でシングルス日本一に輝く。実業団(日立化成・昭和電工マテリアルズ・現レゾナック)に進んだ後も、2022年に全日本選手権の混合ダブルスで準優勝(吉村真晴選手とのペア)。Tリーグでは、1stシーズンからトップおとめピンポンズ名古屋でプレーし、2ndシーズンには、梁夏銀選手とのペアでベストペアに選ばれ、4thシーズンからキャプテンをつとめる。戦型は左シェークハンド両面裏ソフトのドライブ攻撃型。得意なプレーはバックハンドドライブ。
安藤 みなみ(あんどう みなみ)
1997年2月12日生まれ。愛知県名古屋市出身。母・小百合さんと兄・史弥さんの影響で6歳のときに名古屋市の「卓伸クラブ」で卓球を始める。青森山田中学から青森山田高校に進み、高校2年生の秋、熊本県の慶誠高校に転校。専修大学時代は、全日本大学総合選手権のシングルスで2度、ダブルスで3度、優勝。実業団の十六銀行では、日本リーグ最高殊勲選手賞に選ばれるなどチームの年間総合優勝に貢献。プロに転向した2021年にはアジア選手権に日本代表として出場し、団体では金メダル、シングルスとダブルスは銅メダルを獲得。戦型は右シェークハンド裏ソフトと表ソフトの前陣速攻型。速いテンポのラリーが持ち味でカウンター「あんパンチ」は必見。
【著者プロフィール】
山﨑 雄樹(やまさき ゆうき)
1975年生まれ、三重県鈴鹿市出身。立命館大学産業社会学部を卒業後、20年間の局アナ生活を経て、現在は、フリーアナウンサー(圭三プロダクション所属)として、Tリーグ(dTV・ひかりTV・AmazonPrimeVideoなど)や日本リーグ(LaboLive)、全日本選手権(日本卓球協会・卓球TV)など卓球の実況をつとめ、「日本一卓球を愛するアナウンサー」と呼ばれる。また、小学生、中学生と懸命に卓球に打ち込んだが、最高成績は県4位、あと一歩で個人戦の全国大会出場はならず。その後、愛好家として、40歳のときにプレーを再開し、全日本選手権(マスターズの部・ラージボールの部)に出場した。