JRA-VANコラム
重賞競走における休養明けを考える
高松宮記念でスタートしたこの春のG1戦線。その高松宮記念をダノンスマッシュ(前走香港スプリント)が制したのを皮切りに、大阪杯はレイパパレ(同チャレンジC)、桜花賞はソダシ(同阪神JF)と、昨年暮れ以来の休養明けだった馬が3連勝を飾った。そこで今回は、重賞競走における休養明けについて考えてみたい。データの分析にはJRA-VAN DataLab.とTARGET frontier JVを利用し、集計対象は平地重賞競走(除外・取消を挟む馬を除く)、集計期間は2016年以降本年4月11日までとした(表2以降)。また、表や本文では便宜上「複勝率」と記しているが、実際は複勝式2着払いのレースにおける3着馬を含む「3着内率」の数字を掲載している。
まず表1は、平地重賞競走に中9週以上で出走した馬の成績を5年きざみで調べたものである。2006~10年は該当馬のべ1581頭で複勝率19.9%、2016年~20年は同2561頭で25.2%と、近年は休養明けで出走する馬が増え、なおかつ好走確率も向上した。その結果、3着以内の好走馬数は2006~10年が314頭、2016~20年は646頭と2倍以上に増えている。これほどの差があれば、ほとんどのファンの方が「休養明けの馬がよく走るようになった」と実感していることだろう。
ここからは2016年以降、本年4月11日までの成績をみていきたい。表2はレース間隔別の成績で、Target frontier JVの区分でもっとも好走確率が高いのは中9~24週=約2カ月半から半年の休養明けの馬だった。また、中25週以上の馬もまずまずの成績を収めており、今や重賞競走における休養明けは「プラス材料」と捉えることができる。
中9週以上の馬についてグレード別の成績を調べると、G2やG1の成績が良くG3はやや見劣る結果となった。グレードの高いレースのほうが、休養明けでも態勢を整えて出走してくる馬が多いということになるだろうか。
ただ、この集計期間中に中25週以上でG1勝ちを飾った馬はいない。過去にはトウカイテイオー(1993年有馬記念優勝)などの偉業もあるものの、2016年以降ではフィエールマン(2011年天皇賞・秋)、ミッキーアイル(2016年スプリンターズS)の2着が最高である。G1競走での1着候補は、休養期間が半年以内の馬が妥当だ。
人気別成績を中9週以上とその他で比較すると、1番人気の成績に大きな差がついた。中9週以上の1番人気は勝率36.6%を記録するのに対し、その他の1番人気は勝率29.9%。連対率や複勝率、単複の回収率も中9週以上のほうがかなり高くなっている。休養明けで1番人気の支持を受ける馬は特に信頼性が高いと覚えておきたい。逆に2、3番人気の勝率は中9週以上のほうがやや低い。
表5は馬体重とその増減別の成績である。一般的に大型馬は叩き良化型、小型馬は仕上がり早といわれるが、この表5を見るかぎりは特に大型馬の休養明けが不利という傾向は出ておらず、むしろ520キロ以上の馬は好走確率が高いほど。休養明けの馬を「大型馬だから」という理由だけで軽視してしまうのは危険だ。
前走比の馬体重増減をみると、10キロ以上のマイナス体重で出走した中9週以上の馬はのべ145頭で1勝のみ(2017年エルムS・ロンドンタウン)。対して10キロ以上のプラス体重馬は、2019年の秋華賞をプラス20キロで制したクロノジェネシスなど計55勝。休養明けの大幅馬体減は明らかにマイナス材料となる。
最後に表6は調教師成績(中9週以上の勝ち鞍順)である。最多の14勝を挙げたのは藤沢和雄調教師だが、中9週以上とその他で好走確率はほとんど変わらず、このランキングでは特異な存在だ。過去には1998年の阪神3歳牝馬S(現阪神JF)を連闘のスティンガーで制したほか、1992年にはやはり連闘だったシンコウラブリイがマイルCSで2着に好走した実績があり、どんな間隔で出走しようと信頼性に差がない厩舎と言えるだろう。
他の7名は勝率か複勝率の少なくとも一方では、中9週以上の成績がその他の成績を大きく上回っている。特に中内田充正調教師は中9週以上での勝率26.5%に対しその他は10.7%。約16ポイントもの差がついており、休養明けでこそ狙いたい厩舎の筆頭だ。
以上、平地重賞競走における休養明けについてのデータをいくつか調べてみた。近年は休養明けが減点材料とはならないこと(表1~2)や、大型馬=叩き良化型とは言えないこと(表5)あたりは、競馬ファン歴の長い方ほど注意したいところだ。また、休養明けの好成績を牽引しているのは主に1番人気馬であること(表4)あたりは、しっかりと頭に入れておきたい。
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