JRA-VANコラム
意外と語られない障害戦の種牡馬別成績を分析する
今回は、意外と語られない障害戦の種牡馬事情について調べてみたい。障害戦は短くても2700m超、J・G1ともなると4000mを超える距離で争われる。直感的にはスタミナタイプの種牡馬が強いような気もするが、実際のところどうなっているのかをデータで確認しておきたい。集計期間は2018年1月7日~2021年10月17日。データの分析には、JRA-VAN DataLab.とTARGET frontier JVを利用した。
表1は、特に条件をつけない障害戦全体の種牡馬別成績(着別度数順の上位10頭。以下同)。今回の集計期間では、キングカメハメハが最多の26勝を挙げている。平地戦では馬場や距離を問わない万能種牡馬として有名だが、障害戦にもしっかりと対応。勝率14.5%、単勝回収率246%も優秀だ。このキングカメハメハの直仔にあたるルーラーシップも4位におり、好走率では父以上の数値をマークしている。そして、着別度数順では8番手ながら、表1掲載の10頭でベストの好走率を記録しているのがハービンジャーだ。
表1全体を見渡すと、5位のダイワメジャー、9位のアドマイヤムーンといった短距離~マイル向きの種牡馬もいるが、あとの8頭は平地戦で2400m以上のG1勝ち馬を送り出している。やはりと言うべきか、基本的にはスタミナをしっかり備えた種牡馬がよく勝っているようだ。
表2は、1~3番人気に限った障害戦の種牡馬別成績。全体1位のキングカメハメハはこのランキングでも好成績ながら、順位としては3位にダウン。代わって全体2位のステイゴールド、全体4位のルーラーシップがそれぞれ1、2位に繰り上がった。特にルーラーシップの好走率はかなり高い。そして、6位のハービンジャーはさらに上回る好走率を残しており、ルーラーシップともども障害戦の1~3番人気で信用できる種牡馬の代表格と言える。なお、9位のスズカマンボは凡走なしの素晴らしい成績ではあるのだが、この14走中12走は現在の障害王者であるメイショウダッサイ1頭によるもので、参考記録にとどめておきたい。
表3は、4番人気以下に限った障害戦の種牡馬別成績。これは障害戦で穴馬1着が多い種牡馬のランキングと言い換えることもできるだろう。ここで最多の10勝を挙げたのがキングカメハメハで、上位10頭のなかで勝率8.1%は2番目、単勝回収率301%はもっとも高い。前項で見た1~3番人気の成績も優秀だったが、4番人気以下の場合はさらに警戒が必要になりそうだ。そのほか、4位のメイショウボーラーや10位のアドマイヤムーンの単勝回収率も高い。ともに平地戦では短距離向きのイメージがあるだけに、そのギャップが穴を生んでいる可能性はあるだろう。
表4は、重賞に限った障害戦の種牡馬別成績。いずれも5勝のスズカマンボ、ステイゴールドが1、2位に入っているが、前者の好走はメイショウダッサイ、後者も2着1回を除いてオジュウチョウサンによるもので、どちらもチャンピオン1頭で稼いだ部分が大きいことは留意すべきだ。そこで層の厚さという観点から「2回以上好走した産駒が何頭いるか」に重きを置くと、産駒3頭が重賞で3着以内に入っている3位のアドマイヤムーンが浮かび上がる。また、複数の重賞勝ち馬を送り出した種牡馬には、前述のアドマイヤムーン(ラヴアンドポップ、マーニ)のほか、5位のディープインパクト(タイセイドリーム、フォイヤーヴェルク)、8位のハーツクライ(スマートアペックス、スプリングボックス)がいる。これらは現在の障害重賞で強い種牡馬とみなせるのではないか。
現行のルールにおいて3場開催時の障害戦は、重賞などを除いて原則として第3場(裏開催)で行なわれる。そこで、現在開催中の新潟と、11月6日にスタートする福島における種牡馬別成績を見ていきたい。
まずは新潟から(表5)。最多の7勝を挙げたディープインパクトは、18年にタイセイドリーム、20年にフォイヤーヴェルクがそれぞれ新潟ジャンプSを制して重賞2勝と内容も充実している。ただし、単勝60%、複勝53%と回収率は伸び悩み、いわゆる妙味には乏しいようだ。一方、2位のゴールドアリュール、3位のルーラーシップ、4位のキングカメハメハ、5位のダイワメジャーはいずれも回収率が高く、好走率でもディープインパクトと互角かそれ以上の数値を記録。馬券という点では、これら4頭がより狙い目とも考えられる。
続いて福島(表6)。新潟で1位だったディープインパクトは、福島では19戦1勝でランク外という思わぬ成績に。代わって1位になったのがステイゴールドで、好走率もなかなか優秀だ。同じく6勝で2位のキングカメハメハは8番人気や13番人気での勝利があり、単勝回収率は790%にも達する。とはいえ、残り4勝は2、3番人気で挙げており、穴専門というわけではない。そのほか5位のゴールドアリュールや6位のシングンオペラの単勝回収率もかなり高い数値を記録。ちなみに、福島の障害戦はトータルで単勝回収率84%と、比較的単穴が出やすい競馬場であることも押さえておきたい。
ライタープロフィール
出川塁(でがわ るい)
1977年熊本県生まれ。上智大学文学部卒業後、出版社2社で競馬専門誌、競馬書籍の編集に携わり、2007年からフリーライターに。「競馬最強の法則」「サラブレ」「優駿」などへ寄稿するほか、出版社勤務時代を含めて制作に関わった競馬書籍は多数。馬券は単勝派だが、焼肉はタン塩派というわけではない。メインの競馬のほか、サッカーでも密かに活動中。
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