JRA-VANコラム
「逃げて勝った馬の次走」について分析する
少し前の話になるが、G1・大阪杯で注目された馬の1頭にジャックドールがいる。前走の金鯱賞で逃げて2馬身半差の快勝をおさめ、大阪杯では2番人気の支持を集めた。結果は5着とG1の壁に跳ね返されることになったが、逃げ馬には特有の魅力があり、今後の活躍が改めて期待される。ところで、ジャックドールの大阪杯のように「逃げて勝った馬の次走」となるケースでは、予想においてはどのような方針をもとに考えるべきなのか。今回は、そのデータを調べてみたい。集計期間は2019年1月5日~2022年4月10日で、対象は平地戦のみ。データの分析には、JRA-VAN DataLab.とTARGET frontier JVを利用した。
TARGET frontier JVには、「逃げた馬」を簡単に抽出する機能がある(画像参照)。今回はここから集計した馬をもとに、分析を進めていきたい。
そもそも、逃げて勝った馬の次走は有利なのか不利なのか。その全体傾向を最初に確認しておきたい。そこで「逃げて勝った馬」の次走成績を、「勝った全馬(=平均)」の次走成績と比較したのが表1。なお、現行ルールで勝った馬の次走は原則昇級戦となるが、最上位クラスのオープンでは次走も同クラスとなる(格上挑戦や長期休養などで例外が生じるケースはある)。表1でも、昇級戦と同クラスでデータを分けて掲載した。
どのような傾向が出ているかといえば、逃げて勝った馬の次走は、全馬と比べて好走率、回収率ともに数値を若干下げていることがわかる。つまり、逃げて勝った馬の次走は、通常より少し結果を出しにくい。逃げ切り勝ちは目立ちやすく、次走では警戒されてマークが厳しくなりがち。このデータからは、そんな推察も可能かもしれない。
表2はクラス別成績。複勝率ベースで見ると、1勝クラスからオープン特別は28%前後で、ほぼ同等の数字が並ぶ。しかし、リステッド競走、G3、G2では20%前後にダウンし、G1では12.2%まで下がってしまう。言い換えると、逃げて勝った馬の次走において、オープン特別までは比較的通用しやすいが、リステッド競走から上の格になると通用しづらくなる。特にG1は厳しく、3年強の集計期間で出走した延べ41頭で、勝ったのは19年フェブラリーSを制したインティしかいない。このデータを見る限り、冒頭に挙げたジャックドールも決して簡単な挑戦ではなかったという見方はできるかもしれない。
表3は人気別成績。逃げて勝った馬の次走において、1番人気に推された場合は標準レベルの成績を収めている。しかし、2~4番人気は水準に及ばず、やや苦戦の傾向が見て取れる。その一方で6番人気や8番人気の単勝回収率は100%を超えており、あまり人気にならないほうが好走しやすい面はありそうだ。
表4は脚質別成績。なお、脚質の分類はTARGET frontier JVによる。当然かもしれないが、もっとも結果を出しているのは「逃げ」。つまり、逃げて勝った馬にとっては、その次走でも逃げるのがベストの戦法といえる。ただ、実際に逃げることができたのは全体の3割ほどで、意外と簡単には逃がしてもらえないことも事実だ。逃げられなかった場合でも「先行」できればまずまずだが、「中団」や「後方」からの競馬になったときは苦戦を覚悟しなくてはならないだろう。
表5は馬場別成績。これも当然ではあるが、芝で逃げて勝った馬は次走も芝、ダートなら次走もダートを使う例が大半を占める。「芝→芝」と「ダート→ダート」の成績を比べると、後者の勝率が若干高い程度で、芝・ダートのどちらかが好走しやすいということはなさそうだ。馬場替わりでは「ダート→芝」にはそれなりの出走例があるが、あまり結果にはつながっていない。「芝→ダート」はさらに好走率が下がるものの、わずか10走では参考記録とすべきだろう。
表6は距離別成績を芝・ダート別で表したもの。また、距離短縮・同距離・延長の成績もそれぞれ掲載している。ただ、距離別成績に関しては、芝・ダートともに2100m以上の距離で少し数値を下げる傾向はあるものの、どの距離も極端な好走率の差は見られない。短距離から長距離まで、概ねフラットと考えていいのではないか。
一方、距離変化のほうは傾向が出ている。明らかなのは、芝・ダートともに「延長」で好走率を大きく落とすこと。逃げて勝った馬の次走が距離延長となる場合は、芝・ダートを問わず慎重に扱ったほうがよさそうだ。そのほか、芝で安定しているのは「同距離」。「短縮」も複勝率は大差ないものの、3着が多いことから勝率、連対率で数字を落とすことには気をつけたい。ダートでは「短縮」の好走率がもっとも高く、回収率でも有利になっている。
ライタープロフィール
出川塁(でがわ るい)
1977年熊本県生まれ。上智大学文学部卒業後、出版社2社で競馬専門誌、競馬書籍の編集に携わり、2007年からフリーライターに。「競馬最強の法則」「サラブレ」「優駿」などへ寄稿するほか、出版社勤務時代を含めて制作に関わった競馬書籍は多数。馬券は単勝派だが、焼肉はタン塩派というわけではない。メインの競馬のほか、サッカーでも密かに活動中。
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