JRA-VANコラム
牡牝の産駒で成績の差が大きい種牡馬は?
先日の安田記念ではソングラインがG1初制覇を飾った。キズナ産駒のG1勝ちはアカイイトに次ぐ2頭目で、いずれも牝馬によるものだ。父キズナではほかにも、ファインルージュ、マルターズディオサなど重賞では牝馬の活躍が目立つ。そこで今回は「牡牝の成績差がある種牡馬」について考えてみたい。集計期間は2019年1月5日~22年6月5日で、対象は平地戦のみとする。データの分析には、JRA-VAN DataLab.とTARGET frontier JVを利用した。
表1では基礎的なデータとして「全種牡馬の牡牝別成績(セン馬は牡馬に含む)」を確認しておきたい。牝馬が強くなったと言われる近年だが、表1の通り、全体の好走率としては牡馬のほうが高い数値を記録。具体的には、勝率で1.2ポイント、連対率で2.3ポイント、複勝率で3.1ポイントほど牡馬の数値が高い。言い換えれば、基本的にはどの種牡馬も牡馬の好走率が牝馬より高いのが普通ということ。この基礎データを踏まえたうえで、表2、表3の項を見ていきたい。
前項で確認した通り、全種牡馬の平均では牡馬の好走率が高い。裏を返すと、牝馬の好走率が多少でも牡馬を上回っていれば、牝馬がよく走る種牡馬とみなしてもいいのではないか。
そこで、集計期間内に牡牝合計で平地50勝以上を挙げた種牡馬52頭を対象に「牝馬の勝率、連対率、複勝率のいずれかが、牡馬を上回っている種牡馬」を抜粋したのが表2。この12頭のなかでも、牝馬の勝率、連対率、複勝率がすべて牡馬を上回る7頭について、上から順に「牝馬産駒の得意条件」を紹介していきたい。
サウスヴィグラスはダート得意の種牡馬として有名なだけに、牝馬の好走率が高いというデータには意外な印象もある。そのサウスヴィグラス牝馬は、ダートで1~3番人気に推されると45勝、勝率26.5%、単勝回収率103%と信頼でき、加えて6~8番人気でも13勝、勝率9.2%、単勝回収率162%と中穴級の激走も期待できる。
クロフネは牝馬がよく走る種牡馬として以前から有名で、現在もソダシが活躍中。クロフネ牝馬は芝の1番人気で11勝、勝率44.0%、単勝回収率131%としっかり勝ち切り、1~3番人気に広げても21勝、勝率29.6%、単勝回収率109%の好成績を収めている。
ゴールドシップはオークス馬ユーバーレーベン、目黒記念勝ちのウインキートスと、これまで重賞を勝った産駒3頭中2頭が牝馬。この両馬に代表されるように、ゴールドシップ牝馬は芝2200m以上で複勝率38.2%、複勝回収率107%と長丁場で安定感ある走りを見せている。
ミッキーアイルも、重賞5勝のメイケイエール、小倉2歳Sと函館スプリントSを勝ったナムラクレア、オークス4着のピンハイなど牝馬の活躍が目立つ。ミッキーアイル牝馬には関西圏の勝ち鞍が関東圏のほぼ倍という特徴があり、具体的には京都、阪神、中京、小倉の4場で23勝、勝率16.4%、単勝回収率144%と優秀だ。
アドマイヤムーンは牝馬33勝のうち30勝が芝に偏る。その芝でアドマイヤムーン牝馬が7~12番人気のとき、8勝、勝率4.7%、単勝回収率130%と激走の可能性を秘める。のみならず、1~3番人気でも15勝、勝率22.1%、単勝回収率88%と水準以上の成績を残している。
リアルインパクトは牝馬32勝の内訳が芝・ダートともに16勝と半々で、好走率も大きな差はない。ただ、回収率には差があり、芝の単勝38%、複勝51%に対し、ダートは単勝97%、複勝86%。馬券的には、ダートを使ってきたリアルインパクト牝馬のほうが狙いやすそうだ。
カジノドライヴは牡牝合計56勝中55勝がダートという専門タイプ。もちろん、カジノドライヴ牝馬の得意条件もダートで、1~5番人気時に24勝、勝率25.3%、単勝回収率132%と、印が集まっているケースで頼りにできそうだ。
ところで、表2には、冒頭で名前を挙げたキズナの名前がない。実のところ、キズナの牡牝別成績は、牡馬の勝率10.6%、連対率20.0%、複勝率29.7%に対して、牝馬は勝率9.0%、連対率17.7%、複勝率25.2%と、3項目とも牡馬が上回っている。キズナ産駒の本賞金順では上位5頭中4頭が牝馬で(6月5日時点)、重賞など注目度の高いレースで牝馬が目立つのは確かながら、産駒全体の好走率では牡馬のほうが高い。それでもキズナ産駒は牝馬が強いというイメージの影響から過小評価されるのか、牡馬の単勝回収率が111%と高いことも覚えておいてよさそうだ。
続いて、牡馬がよく走る種牡馬を見ていきたい。牡馬の場合、牝馬より好走率が高いのが標準なので、一定以上の差があってはじめて牡馬優位とみなすべきだろう。ここでは「牡馬の勝率が牝馬より4.0ポイント以上高い」ことを基準とし、該当する5頭を表3に掲載した。
ドゥラメンテといえば、スターズオンアースの牝馬二冠制覇が記憶に新しい。ただ、産駒全体では牡馬の好走率が明らかに上。特にダートの成績に差があり、牡馬の52勝、勝率14.6%、単勝回収率131%に対し、牝馬は18勝、勝率6.3%、単勝回収率42%にとどまる。現役時代の実績もあって芝の印象がある種牡馬だが、ドゥラメンテ牡馬のダート狙いはひとつの作戦として成立しそうだ。
このドゥラメンテと種牡馬同期のモーリスにも牡馬優位の傾向が見られる。特に、芝では3、4番人気で18勝、勝率16.8%、単勝回収率133%、ダートでも2、3番人気で11勝、勝率24.4%、単勝回収率123%の好成績。誤解のないように記しておくと、モーリス牡馬は1番人気でも水準以上の数値を残している。ただ、それ以上に本命馬に挑む有力馬という立場のときに力を発揮してくるようだ。
スマートファルコンは牡牝合計で70勝中69勝がダートという特化型。そのダートで1番人気に推されたスマートファルコン牡馬は20勝、勝率52.6%、単勝回収率106%とかなりの確率で勝ち切ってくる。2~5番人気でも23勝、勝率13.7%、単勝回収率93%となかなかの成績で、人気サイドの信頼性は高い。さらには9~13番人気でも単勝回収率161%、複勝回収率117%と激走の期待も持てる。
ドレフォンは牝馬も決して悪い成績ではないが、それ以上に牡馬の勝率15.2%、単勝回収率121%が際立つ。芝・ダートを問わず1~5番人気のドレフォン牡馬は35勝、勝率27.1%、単勝回収率137%で、皐月賞を勝ったジオグリフも5番人気の評価だった。
ディスクリートキャットは明らかに牡馬優位と言ってよさそうな成績。牡牝を問わず勝ち鞍の約8割はダートだが、ディスクリートキャット牡馬に関しては芝を含めて1600mで10勝、勝率14.9%、単勝回収率163%と、マイル戦なら馬場を問わず巧者の傾向を示している。
ライタープロフィール
出川塁(でがわ るい)
1977年熊本県生まれ。上智大学文学部卒業後、出版社2社で競馬専門誌、競馬書籍の編集に携わり、2007年からフリーライターに。「競馬最強の法則」「サラブレ」「優駿」などへ寄稿するほか、出版社勤務時代を含めて制作に関わった競馬書籍は多数。馬券は単勝派だが、焼肉はタン塩派というわけではない。メインの競馬のほか、サッカーでも密かに活動中。
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