JRA-VANコラム
波乱も多い牝馬限定ハンデG3のマーメイドSを占う
今週の重賞は、東京のユニコーンSと阪神のマーメイドS。今回は後者の牝馬限定ハンデG3を取り上げたい。メンバー唯一の重賞勝ち馬で、今年はトップハンデを背負うウインマイティーの連覇はなるのか。それとも、夏の新星誕生はあるのか。過去10年の結果に基づき、レースを展望していこう。データの分析には、JRA-VAN DataLab.とTARGET frontier JV を利用した。
過去10年の1~3着馬30頭のうち、半数以上の16頭が6番人気以下だったマーメイドS。ただし、表1の単勝オッズ別成績を確認すると、単勝30倍以上の好走は3着1回だけ。つまり、穴を狙うにしても単勝10~20倍台が主なターゲットとなり、極端な人気薄の激走は意外に少ないことも押さえておきたい。
表2は枠番別成績。1枠と2枠が各2勝、逆に7枠が3勝、8枠が2勝と、内外の枠から勝ち馬が多く出ていることがわかる(ほかに4枠が1勝)。複勝率を見ても、1枠および7、8枠の数値が高く、内外の枠から好走馬が多く出ている様子が見て取れる。ただし、過去10年のうち、13~20年は3回阪神4日目、21~22年は同2日目の開催だったところ、今年は6日目に組まれた。過去10年とは条件が異なるため、当日の枠や馬場の傾向を入念に確認したほうがいいだろう。
表3は前走クラス別成績。過去10年のマーメイドSでは前走3勝クラスが7勝を挙げており、これは特筆に値する。また、前走2勝クラスも複勝回収率131%を記録し、このケースで好走した3頭は「前走3番人気以内かつ1着」だったのが共通点だ。
その一方で、前走重賞(G1~G3)出走馬の勝利がなかったことには、ハンデ戦と知っていても驚いてしまう。2、3着にはしばしば入っているものの、実績馬でも勝ち切るのは容易ではないようだ。なお、前走オープン特別およびリステッド競走はどちらも好成績を収めているが、今年は該当する馬の登録がなかった。
表4は前走3勝クラス出走馬について、前走の着順別と人気別のデータをまとめたもの。着順から見ていくと、好走した11頭中10頭は前走の3勝クラスで1~4着に入っており、例外は21年1着のシャムロックヒル(前走14着)だけだった。
人気に関しては、必ずしも前走で上位人気に支持されている必要はない。複勝率ベースでいえば、前走1~3番人気より、前走4~9番人気のほうが高い数値を残しているぐらいだ。とはいえ、さらに人気を落とすと厳しく、前走10番人気以下の好走例は19年1着のサラス(前走11番人気)が唯一。最低でも9番人気には収まっておきたいところだ。
ちなみに、前走10着以下から唯一好走したシャムロックヒルと、前走10番人気以下から唯一好走したサラスは、いずれも母ララア。つまり、この姉妹を除けば「前走の3勝クラスで1~9番人気かつ1~4着」が好走条件という見方もできる。
表5は前走重賞(G1~G3)出走馬について、前走の着順別と人気別のデータをまとめたもの。ここで注意すべきは、前走重賞で上位着順を収めた馬や、上位人気に推されていた馬が、あまり結果を出していないことだ。具体的には、前走重賞1、2着でも【0.0.0.5】、同様に1~3番人気でも【0.1.0.10】と厳しい結果に終わっている。
その一方で前走10着以下や10番人気以下も苦戦気味だから、「前走の重賞で9番人気以内かつ9着以内」には収まっておきたい。なお、この条件を満たさずに好走した前走重賞出走馬は、13年3着のアロマティコと14年3着のフーラブライドの2頭。両馬ともに前走ではヴィクトリアマイルに出走し、前者はマーメイドSで1番人気、後者も2番人気に支持された。言い換えると、当日に本命・対抗級の評価をされるような馬に限れば、前走の重賞の人気や着順を度外視してもいいかもしれない。
マーメイドSは芝2000mの重賞。そして、この条件は中央競馬10場すべてに設定がある。そこで、どの競馬場の芝2000m1着実績が結果につながりやすいのかを調べてみた。それをまとめたものが表6。当然かもしれないが、マーメイドSと同じ阪神芝2000m1着の実績を持つ馬は安定して走っており、過去10年の勝ち馬のうち半数は同コースで勝っていた。また、出走例は少ないものの、4頭中2頭が好走した札幌芝2000m1着の実績を持つ馬にも注目の価値がありそうだ。
しかし、阪神や札幌以外の芝2000mに関しては、1着実績があっても大きなアドバンテージにはならないようだ。ある程度の好走例がある中京や京都にしても、芝2000m1着なしという馬と比較して、連対率や複勝率はさほど変わらない水準にとどまる。
マーメイドSはハンデ重賞だから、ハンデに関するデータを紹介したいのはやまやまだ。ところが、中央競馬では今年から負担重量に関する変更(注:多くのレースで昨年より1キロ増の設定)があり、昨年までのデータをそのまま当てはめていいのか微妙なところがある。
そこで今回は「前走斤量との比較」についてのみ触れておきたい。表7の通り、マーメイドSでは「今回減」が過去10年で7勝。そして今回減の7勝は、すべて前走3勝クラス出走馬によるものとなっている。
【結論】
今年のマーメイドSには15頭がエントリー。フルゲート16頭に満たないため、全馬が出走可能となっている。
まずチェックしておきたいのが、過去10年で7勝の前走3勝クラス出走馬。そして、このケースでは「前走1~9番人気かつ1~4着」が好走条件であることを、表4の項で確認した。今年の登録馬で合致するのは、前走のサンシャインSで7番人気1着だったビジンのみとなっている。
前走着順と人気の条件は満たさないのだが、前走3勝クラスではヒヅルジョウにも触れておきたい。というのも、登録15頭で唯一、阪神と札幌の両方で芝2000m1着の実績を持つからだ。前走7着に終わった点を差し引いても、コース適性の観点から侮れない存在ではないか。
続いて前走重賞出走馬。該当馬は5頭いるが、うち2頭は表5の項で記した苦戦データである前走10着以下もしくは10番人気以下に合致する。残ったのはウインマイティー、ビッグリボン、ストーリアの3頭で、このうち、前年の覇者であるウインマイティーはもちろん、ビッグリボンにも阪神芝2000m1着の実績があり、コース適性は十分見込める。過去10年、前走重賞出走馬の勝利がないのは前述の通りだが、手薄な印象の今年のメンバー構成ならデータを覆すチャンスかもしれない。
そのほか、前走2勝クラスの芝で1番人気1着だったゴールドエクリプス、サンカルパ、シンシアウィッシュの3頭も好走候補として挙げておきたい。
ライタープロフィール
出川塁(でがわ るい)
1977年熊本県生まれ。上智大学文学部卒業後、出版社2社で競馬専門誌、競馬書籍の編集に携わり、2007年からフリーライターに。「競馬最強の法則」「サラブレ」「優駿」などへ寄稿するほか、出版社勤務時代を含めて制作に関わった競馬書籍は多数。馬券は単勝派だが、焼肉はタン塩派というわけではない。メインの競馬のほか、サッカーでも密かに活動中。
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