大野均 インタビュー後編
「この雰囲気で大丈夫かな」「面白いな」歴史的勝利の前夜にあった一幕
2019.3.15(金)
(インタビュー・構成=向風見也、撮影=長尾亜紀)
リラックスして挑んだ、あの史上最大の番狂わせ
――2015年、イングランド大会。春先から宮崎県で1日複数回の練習を重ねてきた日本代表は、優勝経験のある南アフリカとの初戦に挑みます。
「南アフリカ代表戦に向かうまでのチームの雰囲気は、過去に参加した大会の開幕前のそれとは違っていました。前夜のミーティングでは、廣瀬(俊朗)が用意してくれた(国内の)トップリーグからのメッセージビデオを見て大笑い。『あれ? この雰囲気で大丈夫かな』とも感じましたが、『それまで勝てなかった自分がこの雰囲気じゃだめだなんて言うのはおかしい。ハードワークもしてきて準備はできている。この雰囲気でいくのも面白いな』と思い直しました。当日も比較的リラックスしていました。バスでグラウンドに向かうときは、外にいるラグビー観戦の格好をしたお客さんに手を振りながら……」
――ノーサイド。34―32で逆転勝利。日本代表にとっての大会通算2勝目は、国中にラグビーブームを巻き起こしました。
「ウォーミングアップのためにブライトンのスタジアムに出たとき、ワールドカップ独特のピリピリ感があって。またワールドカップの舞台に帰ってこられたんだという思いで、ここに選手としていられることを心地よく感じました。もう、失うものは何もないという感覚で試合に臨めました。こちらのやりたいことはかなり出せた。向こうはメンバー表の上ではベストメンバーのようでしたが、けが明けの選手、久々に代表に戻ってきた選手も多く、少し、単調だと感じました。聞いた話では、スカルク・バーガーやフーリー・デュプレアといった日本でプレーした南アフリカ代表選手は、日本代表のことをすごく評価してくれていて、当時のチームスタッフにも『もっと日本代表を分析した方がいい』と進言していたらしいです。ただ、実際にはその次に当たるサモアやスコットランドへの対策に力を入れていた」
――なめるな、という話ですね。
「でも、しょうがないとも思います。自分がそのころの南アフリカ代表のスタッフでも、そういうふうになるだろうと」
「日本代表は決勝トーナメントを狙える状態にいる」
――さて、現在は日本代表を離れています。今年の日本大会をどう見ますか?
「もちろん、現役選手である以上は出ることを目指します。先日、いまの代表候補合宿に参加する東芝の選手と話す機会がありました。合宿は土日がオフで月曜から再開するという流れですが、選手の一人は『日曜の夜は泣きたいくらい憂鬱になる』と。確かに自分もそうだったと思いながら、『ずっと日本代表にいられるわけじゃない。終わってみたらあっという間だから頑張れよ』と伝えました。『……重い!』と言われました。
日本代表は本気で決勝トーナメント進出を狙えるくらいの状態にいる。あとは選手やスタッフが、日本大会での緊張を楽しむくらいのメンタルで臨んだら最高ですね。これだけSNSが発達しているので外部からいろいろな声が入ると思いますが、それを経験できるのはいまの自分しかいないと肝に銘じ、これからの数カ月を過ごしてほしいです。
ファンの方にはまず、最近のラグビーの試合のエンターテインメント性をテレビ越しでもいいから見て、もし自分の街に選手が来てくれるのならその大きさを間近で感じてほしいです。皆、大きくていかつい顔をしていますが、フレンドリーです。そこで『ラグビー選手って、いいな』と感じていただけたら、おもてなしの気持ちで応えてもらいたいと思っています」
大野均(おおの・ひとし)
ポジション:ロック
1978年5月6日生まれ、福島県出身。現所属は東芝ブレイブルーパス(トップリーグ)。日本大学工学部でラグビーを始め、2004年に日本代表初出場。ラグビーワールドカップ3大会連続出場(2007年、11年、15年)。タフで衰えの見えない運動量と闘争心で多くのファンを魅了し続ける。日本代表キャップは歴代最多の98(2018年11月24日時点)。
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