立川理道 インタビュー後編
「今は自分にフォーカスしたい」崖っぷちの練習生から再びあの舞台へ
2019.4.08(月)
(インタビュー・構成=向風見也、撮影=長尾亜紀)
インタビュー前編: 「あの人は本気なんだ…」日本代表としての覚悟を決まった瞬間を振り返る
あの史上最大の番狂わせから…… 帰国後に考えた重要なこと
――ラグビーワールドカップ・イングランド大会での日本代表は、優勝経験のある南アフリカ代表などから歴史的な3勝を挙げました。帰国後は?
「僕たち若手にはベスト8に行けなかった悔しさも、上がった人気を保つのは難しいのではという不安もあったと思います。すでに2019年のワールドカップが日本で行われると決まっていましたが、個人的には『ずっと人気があるまま2019年を迎えることはないだろうな』『2016~18年は(注目度を保つためにも)結果が重要だ』と感じ取っていました」
――2016年、国際リーグのスーパーラグビーへ日本のサンウルブズが参戦。代表ともリンクするこのチームで、立川選手は初代副将を務めます。主力組として南アフリカ遠征に出かけた際に国内残留組へ近況報告をするなど、気を配りました。
「2015年時の日本代表の中心選手の何人かが、海外へ行くなどしてサンウルブズでプレーしない。それこそ、やっと出た人気がまた落ちてしまう気がしたので、僕自身は参加して盛り上げたい気持ちでした。まったく知らないスタッフや外国人、今まで日本代表でやっていない日本人がいるごちゃまぜのようなチームが、集まってから数週間後に開幕を迎える……。そういう経験を積めたのはよかった。海外のツアーメンバーに選ばれなかった選手には、チームでの存在意義が薄らいでしまう感じがあった。何かできないかなと思い、廣瀬さん(俊朗・元日本代表主将)に相談したら、『一言のメールでも選手はもらったらうれしい』と。それは海外にいてもできることだと思いました」
――チームは開幕7連敗を喫しました。36―28のスコアで初勝利を挙げた4月23日は、会場の東京・秩父宮ラグビー場が沸きました。
「ここまで負けが続いたのも、90点以上取られたのも初めての経験でした(4月16日、ブルームフォンテーンのフリーステイト・スタジアムではチーターズに17-92で大敗)。でも、すぐに試合があるので落ち込んでもいられなかった。8試合目(休暇を挟んで迎えた第9節)でジャガーズからチーム初勝利を挙げたときは、もしかしたら南アフリカ代表戦よりもうれしかったです」
――日本代表が今のジェイミー・ジョセフ ヘッドコーチを迎えたのは、サンウルブズが最初のシーズンを終えていた2016年秋のことです。
「前のヘッドコーチだったエディー(・ジョーンズ)さんは『日本人は与えられた要求に対してハードワークする』という考えで、自分たちもその要求を超えるぐらい頑張る形を取っていました。ただジェイミーは選手側に任せて、目標を達成してこいという形。最初は堀江(翔太)さんと一緒に共同主将をしましたが、与えられた方が楽と思ったこともありましたし、選手が何か提案をしても反応がよくないこともあった。ただ選手とコーチ陣がコミュニケーションを取り合っていて、いまは1年目に感じられたようなジェイミーと自分たちとの間の考えのずれはないと思います」
代表に落選してから…… 今の率直な気持ちを語る
――2018年秋、立川選手は「パフォーマンスがよくない」との理由から代表から落選します。
「選ばれている選手は代表の試合でいいパフォーマンスをしましたし、僕自身も素直に応援できました。それでもテレビ越しに日本代表の試合を見ると、出たい気持ちにもなります。その後も選んでもらえない時期が長く、自分でもどうしたらいいのかわからないまま過ごしていました。
個人的に振り返れば、2018年の(国内の)トップリーグではチーム(所属先のクボタ)のことを考え過ぎて自分のパフォーマンスにフォーカスできていなかった。言い方は悪いですが、もっとがっついてもよかった。2017年もけがが多くてなかなかジェイミーの日本代表に参加できず、コミュニケーションを取ったり、自分のパフォーマンスを披露したりする機会がなく、トップリーグのパフォーマンスで選んでもらっている感じでした。そこでトップリーグのパフォーマンスが悪いとなると、なかなか選んでもらいにくいと感じました」
――今年3月、練習生として合宿に参加。ジョセフ ヘッドコーチと話はしましたか?
「個別での長い話はなかったですが、最初に『このチームでプレーするのにふさわしい動きを』とは伝えられた。合流初日、2日目は練習量も多く身体的にもしんどかったですが、役職のない練習生として周りのことを考えずにできたこともあって、いい練習、いいアピールができた。
他の皆も、今の僕が置かれている立場を分かってくれていると思います。『チームをよくしよう』ということは、他のリーダーの役割。自分は今の自分にフォーカスしたいです。崖っぷちの状態なので。いち選手として日本大会でベスト8へ行きたいと思いますが、そうなるにはまず選んでもらって試合に出なくてはいけない。もらったチャンスは生かしたいです」
立川理道(たてかわ・はるみち)
ポジション:センター、スタンドオフ
1989年12月2日生まれ、奈良県出身。現所属はクボタスピアーズ(トップリーグ)。4歳でラグビーを始め、天理大学4年生時に主将として初の全国大学選手権準優勝に導く。2015年ラグビーワールドカップ出場。ジェイミー・ジョセフ体制の日本代表のほか、サンウルブズ(スーパーラグビー)でも共同キャプテンを務めるなどリーダーシップを発揮。日本代表キャップは55。
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