沢木敬介 インタビュー後編
「勝つのに何が必要かわかっている選手がいるのは大きい」名将が見るW杯への期待
2019.7.22(月)
(インタビュー・構成=向風見也、撮影=山下令)
ワールドカップ2015年と2019年日本代表の大きな違い
――イングランドから帰国して翌年から、サントリーサンゴリアスを率いました。
「それまでずっと代表関連の活動をしてきて、インターナショナルラグビーで結果を出すには何が必要かを感じられました。ここでまた、クラブでコーチングをしたかったんです。クラブではその時に勝てると同時に、選手起用などを通して将来も勝てる仕組みをつくる(側面が強い)。ただ代表チームも勝たなきゃ評価されないなか、4年間でワールドカップに向けた準備をしなきゃいけない」
――エディー・ジョーンズさんの言い回しを借りれば、「現時点でベストの人とこれからベストになる人」をバランスよく起用する。特に、ワールドカップ翌年の代表チームではこれが求められそうです。
「ニュージーランド代表では前回大会時、ダン・カーターが10番(司令塔のスタンドオフ)でした。しかしその次の10番としてすぐにボーデン・バレットが出てきて、いまはそのバレットが欠かせない存在になっている。ワールドカップまでの4年間でチームの中心選手を何人つくれるか。それが代表チームのマネジメントをする上で大事な視点です」
――2015年の日本代表からも、その計画性が見え隠れしていました。
「エディーの時は一番いい年代の選手がそろっていたんですよ。ただ前回と今回とでは『ワールドカップで勝ったことがない選手しかいなかったチーム』か『ワールドカップで勝つのに何が必要かを経験則でわかっている選手がいるチーム』かの違いがある。これは、でかいです。経験値の高い選手は『ここは簡単にボールを手放さずにボールキープした方がいい』『逆にもっとテリトリーを取っていこう』『落ち着かせよう』と、戦術上もメンタル上もより具体的で的確なコミュニケーションが取れる」
ワールドカップではビールの文化も楽しんでほしい
――いよいよ、日本にワールドカップがやってきます。
「2007年のフランス大会、2011年のニュージーランド大会も見に行きましたが、前回のイングランド大会は別物と感じました。国によってラグビー文化が違うなか、イングランドにはラグビー発祥の地という歴史的なプライドがあるからか盛り上がりにもジェントルマンの気質、雰囲気がある」
――かたや、日本のラグビー文化はまだ発展途上のような。
「むしろ日本代表にとってはそれがラッキーかな、と僕は思いますよ。イングランドのような国だと優勝しなきゃいけないというホームプレッシャーがすごい。で、彼らは予選プールで敗退したじゃないですか。今回の日本代表は、ネガティブなプレッシャーを回避できる。そのうえで、勝てば勢いしかつかない。……あと、これは書いておいてください。ワールドカップでは、ビールの文化も楽しんでもらいたいです。ファンはグラウンドの近所のパブでビールを飲んで、試合が始まるちょっと前に店でビールを買ってそれをグラウンドで飲んで、帰りにもビールを飲む。お店に置かれる生ビールの樽も、日本だと大きくて20リッターですが向こうでは60リッターくらいが普通です。だから昨秋に横浜でブレディスローカップ(ニュージーランド代表対オーストラリア代表)があった時、近くのコンビニのビールがなくなったんですよ。それに日本では昼に居酒屋のようなお店が空いていない。(大会期間中の)その辺の環境づくりには、我々(サントリー)も働きかけたいです」
――最後に。沢木さんは「ラグビーとは情熱をかけられるもの」と話されています。なぜ、そこまでラグビーに身を捧げられるのですか。
「……わからないです。やっぱり、好きだからじゃないですか! コーチングに対する興味がますます湧いてきてもいて、もっといいコーチになりたいと思っています」
沢木敬介(さわき・けいすけ)
1975年生まれ、秋田県出身。日本大学卒業後、サントリーサンゴリアス(トップリーグ)でプレー。選手時代はSO、CTBとして活躍。全国社会人大会優勝2回、日本選手権優勝2回に貢献。日本代表7キャップを持つ。引退後、2007年同チームのBKコーチ、2012年ヘッドコーチに就任。その後、日本代表コーチングコーディネーターとして、ワールドカップの大躍進に貢献。2016年サントリーの監督となり2連覇を果たす。
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